Fと愉快な仲間たち

もい吉

文字の大きさ
上 下
4 / 7

12月22日

しおりを挟む
 この日はあらかじめ誘っておいたDも見舞いに来る予定だ。Fは「あいつか」と面倒くさそうに言ったが、顔は少し笑っていた。2人の関係はそんな感じなのだ。おばちゃんが「Fをよろしくね」と言って席を抜けた後、オレ達はデイルームに行ってDが来るのを待った。
 しばらくカードで遊んでいるとDが到着した。DはFを見ると、病院内とは思えないほどの大きな声で笑いながら言った。
「おう、なんかそん頭は?ハゲ散らかしとるやねえか?ははは!」
 Fも噛み付く。
「うるせえちゃ。お前何しにきたんか?」
 オレはビビった。若くして癌の宣告を受けた相手に対しての最初の一言がそれか、と。オレは慌ててFの顔を見たが、怒っていた。でも笑ってもいた。オレは何か胸の引っ掛かりが取れそうな気がした。
「今日は見舞いやけの。差し入れや。」
 Dはそう言うと、自販機で缶コーヒーを買ってFの前にポンと置いた。Fはキョトンとしている。Dはニヤリと笑った。
「ほら、オレのおごりや、飲まんか。」
 Fが缶のプルタブに指を引っ掛ける事が出来ずに悪銭苦闘をしている姿を見て、「何しよっとか?早よ開けんか。」とDは茶化した。Fが言い返す。
「お前バカか?オレは指が痺れるって言ったやろうが。」
 オレは缶をとり、プルタブを開けてFに渡した。
 このやり取りを、不快に思う人は多分大勢いるだろう。でもオレは違った、はっとしたのだ。胸の引っ掛かりが綺麗に取れたのだ。
 こんな事、患者にしてしまったらとんでもない。そう、相手がなら、だ。
 DはFの変わり果てた姿を見ても、今までと何も変わらず、として見たのだ。そしていつも通り、Fをいじったのだ。空気を読めない、いや、空気を読まないDだからそれができたのだ。

 オレ達は物心がついた時には、すでに一緒にいた。コイツらを知らない時の自分を知らない。そんな、まるで血が繋がっているような関係の相手の、変わり果てた姿を見て、普通でいられるはずはないのだ。でも、Dはやったのだ。やってのけたのだ。普通に、いつも通りちょっかいを出して、いじったのだ。

 Dは自分の立ち位置や、やるべきことを理解していたのだ。それに比べてオレは何だ?この状況を受容することすら出来ず、Fの事をとして扱い、腫れ物に触るようにそろりそろりと接していた。一番辛いはずのFに気を遣わせてしまった。
 オレはこの時に、強く胸に誓った。オレはオレのやれる事をやろうと、悔いを残さないように全てを注ぎ込もうと。

 それからは少しだけ、気持ちが楽になった。さっきよりもちゃんと、自然と笑う事ができた。そしてオレ達は日が暮れるまで、昔話などをしながらカードゲームやトランプを楽しんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

自称サバサバ女の友人を失った話。

夢見 歩
エッセイ・ノンフィクション
あなたの周りには居ませんか? 「私ってサバサバしてるからさぁ」が口癖の女の人。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。 辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。 やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。 アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。 風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。 しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。 ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。 ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。 ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。 果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか…… 他サイトでも公開しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACより転載しています。

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。

春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。 それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。 にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。

処理中です...