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12月22日
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この日はあらかじめ誘っておいたDも見舞いに来る予定だ。Fは「あいつか」と面倒くさそうに言ったが、顔は少し笑っていた。2人の関係はそんな感じなのだ。おばちゃんが「Fをよろしくね」と言って席を抜けた後、オレ達はデイルームに行ってDが来るのを待った。
しばらくカードで遊んでいるとDが到着した。DはFを見ると、病院内とは思えないほどの大きな声で笑いながら言った。
「おう、なんかそん頭は?ハゲ散らかしとるやねえか?ははは!」
Fも噛み付く。
「うるせえちゃ。お前何しにきたんか?」
オレはビビった。若くして癌の宣告を受けた相手に対しての最初の一言がそれか、と。オレは慌ててFの顔を見たが、怒っていた。でも笑ってもいた。オレは何か胸の引っ掛かりが取れそうな気がした。
「今日は見舞いやけの。差し入れや。」
Dはそう言うと、自販機で缶コーヒーを買ってFの前にポンと置いた。Fはキョトンとしている。Dはニヤリと笑った。
「ほら、オレのおごりや、飲まんか。」
Fが缶のプルタブに指を引っ掛ける事が出来ずに悪銭苦闘をしている姿を見て、「何しよっとか?早よ開けんか。」とDは茶化した。Fが言い返す。
「お前バカか?オレは指が痺れるって言ったやろうが。」
オレは缶をとり、プルタブを開けてFに渡した。
このやり取りを、不快に思う人は多分大勢いるだろう。でもオレは違った、はっとしたのだ。胸の引っ掛かりが綺麗に取れたのだ。
こんな事、患者にしてしまったらとんでもない。そう、相手が患者なら、だ。
DはFの変わり果てた姿を見ても、今までと何も変わらず、仲間として見たのだ。そしていつも通り、Fをいじったのだ。空気を読めない、いや、空気を読まないDだからそれができたのだ。
オレ達は物心がついた時には、すでに一緒にいた。コイツらを知らない時の自分を知らない。そんな、まるで血が繋がっているような関係の相手の、変わり果てた姿を見て、普通でいられるはずはないのだ。でも、Dはやったのだ。やってのけたのだ。普通に、いつも通りちょっかいを出して、いじったのだ。
Dは自分の立ち位置や、やるべきことを理解していたのだ。それに比べてオレは何だ?この状況を受容することすら出来ず、Fの事を患者として扱い、腫れ物に触るようにそろりそろりと接していた。一番辛いはずのFに気を遣わせてしまった。
オレはこの時に、強く胸に誓った。オレはオレのやれる事をやろうと、悔いを残さないように全てを注ぎ込もうと。
それからは少しだけ、気持ちが楽になった。さっきよりもちゃんと、自然と笑う事ができた。そしてオレ達は日が暮れるまで、昔話などをしながらカードゲームやトランプを楽しんだ。
しばらくカードで遊んでいるとDが到着した。DはFを見ると、病院内とは思えないほどの大きな声で笑いながら言った。
「おう、なんかそん頭は?ハゲ散らかしとるやねえか?ははは!」
Fも噛み付く。
「うるせえちゃ。お前何しにきたんか?」
オレはビビった。若くして癌の宣告を受けた相手に対しての最初の一言がそれか、と。オレは慌ててFの顔を見たが、怒っていた。でも笑ってもいた。オレは何か胸の引っ掛かりが取れそうな気がした。
「今日は見舞いやけの。差し入れや。」
Dはそう言うと、自販機で缶コーヒーを買ってFの前にポンと置いた。Fはキョトンとしている。Dはニヤリと笑った。
「ほら、オレのおごりや、飲まんか。」
Fが缶のプルタブに指を引っ掛ける事が出来ずに悪銭苦闘をしている姿を見て、「何しよっとか?早よ開けんか。」とDは茶化した。Fが言い返す。
「お前バカか?オレは指が痺れるって言ったやろうが。」
オレは缶をとり、プルタブを開けてFに渡した。
このやり取りを、不快に思う人は多分大勢いるだろう。でもオレは違った、はっとしたのだ。胸の引っ掛かりが綺麗に取れたのだ。
こんな事、患者にしてしまったらとんでもない。そう、相手が患者なら、だ。
DはFの変わり果てた姿を見ても、今までと何も変わらず、仲間として見たのだ。そしていつも通り、Fをいじったのだ。空気を読めない、いや、空気を読まないDだからそれができたのだ。
オレ達は物心がついた時には、すでに一緒にいた。コイツらを知らない時の自分を知らない。そんな、まるで血が繋がっているような関係の相手の、変わり果てた姿を見て、普通でいられるはずはないのだ。でも、Dはやったのだ。やってのけたのだ。普通に、いつも通りちょっかいを出して、いじったのだ。
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オレはこの時に、強く胸に誓った。オレはオレのやれる事をやろうと、悔いを残さないように全てを注ぎ込もうと。
それからは少しだけ、気持ちが楽になった。さっきよりもちゃんと、自然と笑う事ができた。そしてオレ達は日が暮れるまで、昔話などをしながらカードゲームやトランプを楽しんだ。
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