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番外編
狼うさぎ番外編2(後)
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ウルリクさんが爆弾を投下して、私の耳は固まった。
「だいたいこっちの水着は全然セクシーじゃないよねぇ」
「「は!?」」
ベックラーさんとアレンカさんの言葉が重なる。ちょっと怖くなった空気に気づかないのか、ウルリクさんは続けた。
「僕たちからすれば、女性の水着って言ったらやっぱりビキニ、って伝わらないか。胸の部分とお尻の部分だけ隠した、こっちの女性下着よりずっと防御力ないやつだよ。それに比べたらこっちの水着なんて普通の服みたいなもんじゃない。ね?」
ウルリクさんからは同意を求めるように、ベックラーさんとアレンカさんからは尋問するように見つめられ、私は仕方なく頷いた。
「えーと、ま、まあ、そうですね。水着は下着と違って生地はだいぶ厚いですし、形ももうちょっと、お腹出さないというか、セパレートじゃないのも多いですけどね! ワンピース型とか!」
「そう?」
「そうですよ! 少なくとも私は、ビキニを着たことはありません」
そこのところはきちんと主張しておかないといけない。ベックラーさんが眉を顰めて怖い目をしているからね……。
「へぇ。僕の住んでたあたりじゃ冬の日照時間が短いから、夏はみんな薄着で日光浴するし、ビキニのブラ紐、あー、胸当てを留めてる紐? を外して背中丸出しで焼いてる人だっていくらでもいたよ」
「それも日本ではないですね!」
「日本人は奥ゆかしいよね」
(懐かしい地球の話は、もっと穏やかな状況でしたかった……。ベックラーさんだけじゃなくて、アレンカさんまで怖いよ。笑ってるのに目がギラッとしてるのが特に怖い……)
「……それはつまり、ウルリクはそういう女性を、たくさん、見たことがあるということか?」
「え? うん。浜辺とか公園とかに普通にいる……、から……」
アレンカさんの怒りを感じ取ったのか、当惑するように言葉が尻すぼみになるウルリクさん。
(もう! 気づくのが遅いよ!)
私たちにとっては常識だけれど、こちらでは違うことが多々ある。女性の立場や服装は、特に私たちにとっては時代遅れに感じることもある。逆に言えば、こちらの人たちにとっては過激に感じるわけで。
「背中をすべて見せて、尻を少し隠しただけの女性が、公園に……?」
「ア、アレンカ! そういう人はどちらかというと少数派かなー。ただ、僕たちの世界というか時代には、女性の露出に関するタブーがだいぶ緩くなっていて……」
「だから目にする機会も多かった、ということか?」
「……はい」
観念したようにウルリクさんが答える。私にもとばっちりが来た。
「ということは、ルミもそれに類する水着を着たことがあるのか……?」
ない、とは言えなくて目を逸らす。ビキニは着たことがないけれど、中学も高校も普通にプールの授業があったのだ。ベックラーさんにそれを話せば大変なことになりそうなのは予想がつく。そのやましさが伝わってしまったのだろう。
「どうやら我々はまだ聞いていないことがたくさんあるようだな」
「ああ、詳しく知る必要がある」
二人の強者の気配に、草食獣の私とウルリクさんは震え上がった。
「尋問は個別に行うものだ」
「あとで情報を交換しよう。嘘をついているかわかるからな」
息の合ったやり取りをしたあと、アレンカさんはウルリクさんを連行していった。
「ルミちゃんごめんね~」
ほんとですよ、という言葉を堪えて溜息をつくと、「明日の夜は花火があるらしいから必見だよ~」と言いながらウルリクさんは引きずられていった。
「花火ですって!」
なんとか誤魔化せないかと、いつもは無表情な自分の表情筋を頑張って動かし、ぎこちないかもしれないが笑顔を作ってベックラーさんのほうを向くと、ベックラーさんは悲しげに耳を伏せていた。驚いて真顔に戻ってしまう。
「ベックラーさん?」
「いや、出会う前の、違う世界にいた頃のルミを知っているやつらに嫉妬してしても仕方ないのはわかっている。俺だって褒められた女性関係だったわけじゃない。だがそれでも気になってしまう自分が情けないな」
私は出会う前のことは割り切れるタイプだけれど、ベックラーさんはそうじゃない。
「それに、それだけ常識の違うところから来たのだということを改めて実感してしまってな。こちらの世界は窮屈じゃないか?」
「大丈夫ですよ。慣れないことはありますけど、順応できるつもりです」
「苦労を掛けるな」
「いえ、私はベックラーさんに出会えたことをこの上ない幸運だと思ってます」
「ルミ……」
ベックラーさんが私の両手を自らの両手で包み込む。
私は顔を上げてベックラーさんを見つめ返した。
「出会う前のことはどうにもできないですけど、これからはベックラーさんが心配しないで済むように気をつけます。あ、泳ぐのをやめても……」
「いや、俺のわがままで窮屈な思いをさせたくない。一緒に泳ごう」
「……はい!」
そうは言ってもベックラーさんの尋問は(当然のようにベッドの上で)行われ、水着の形から学校のプールの授業のこと、スクール水着のこと、ミニスカートの存在まで暴かれてしまった。
ベックラーさんは破廉恥だ破廉恥だと言いながらも、かなり興味を示していて、「寝室なら……」と呟いていたので、それらを着せられる日も遠くないかもしれない。
(ウルリクさんも大丈夫だろうか……。アレンカさん体力あるって言ってたし)
ちなみに、次の日にはベックラーさんと海水浴をした。楽しかった。
ただ、ベックラーさんがソワソワしたり赤くなったり周りを威嚇したりして大変だったので、午前中で海水浴は終了となった。まあ、とりあえず泳げたので満足だ。
そして、部屋に戻ったあと、ベックラーさんの高ぶりが収まらずにその日は外に出られず、部屋から少し遠くで行われている花火を見ることに。ルームサービスを頼んでのんびりできたから、新婚旅行らしいということにする。
「だいたいこっちの水着は全然セクシーじゃないよねぇ」
「「は!?」」
ベックラーさんとアレンカさんの言葉が重なる。ちょっと怖くなった空気に気づかないのか、ウルリクさんは続けた。
「僕たちからすれば、女性の水着って言ったらやっぱりビキニ、って伝わらないか。胸の部分とお尻の部分だけ隠した、こっちの女性下着よりずっと防御力ないやつだよ。それに比べたらこっちの水着なんて普通の服みたいなもんじゃない。ね?」
ウルリクさんからは同意を求めるように、ベックラーさんとアレンカさんからは尋問するように見つめられ、私は仕方なく頷いた。
「えーと、ま、まあ、そうですね。水着は下着と違って生地はだいぶ厚いですし、形ももうちょっと、お腹出さないというか、セパレートじゃないのも多いですけどね! ワンピース型とか!」
「そう?」
「そうですよ! 少なくとも私は、ビキニを着たことはありません」
そこのところはきちんと主張しておかないといけない。ベックラーさんが眉を顰めて怖い目をしているからね……。
「へぇ。僕の住んでたあたりじゃ冬の日照時間が短いから、夏はみんな薄着で日光浴するし、ビキニのブラ紐、あー、胸当てを留めてる紐? を外して背中丸出しで焼いてる人だっていくらでもいたよ」
「それも日本ではないですね!」
「日本人は奥ゆかしいよね」
(懐かしい地球の話は、もっと穏やかな状況でしたかった……。ベックラーさんだけじゃなくて、アレンカさんまで怖いよ。笑ってるのに目がギラッとしてるのが特に怖い……)
「……それはつまり、ウルリクはそういう女性を、たくさん、見たことがあるということか?」
「え? うん。浜辺とか公園とかに普通にいる……、から……」
アレンカさんの怒りを感じ取ったのか、当惑するように言葉が尻すぼみになるウルリクさん。
(もう! 気づくのが遅いよ!)
私たちにとっては常識だけれど、こちらでは違うことが多々ある。女性の立場や服装は、特に私たちにとっては時代遅れに感じることもある。逆に言えば、こちらの人たちにとっては過激に感じるわけで。
「背中をすべて見せて、尻を少し隠しただけの女性が、公園に……?」
「ア、アレンカ! そういう人はどちらかというと少数派かなー。ただ、僕たちの世界というか時代には、女性の露出に関するタブーがだいぶ緩くなっていて……」
「だから目にする機会も多かった、ということか?」
「……はい」
観念したようにウルリクさんが答える。私にもとばっちりが来た。
「ということは、ルミもそれに類する水着を着たことがあるのか……?」
ない、とは言えなくて目を逸らす。ビキニは着たことがないけれど、中学も高校も普通にプールの授業があったのだ。ベックラーさんにそれを話せば大変なことになりそうなのは予想がつく。そのやましさが伝わってしまったのだろう。
「どうやら我々はまだ聞いていないことがたくさんあるようだな」
「ああ、詳しく知る必要がある」
二人の強者の気配に、草食獣の私とウルリクさんは震え上がった。
「尋問は個別に行うものだ」
「あとで情報を交換しよう。嘘をついているかわかるからな」
息の合ったやり取りをしたあと、アレンカさんはウルリクさんを連行していった。
「ルミちゃんごめんね~」
ほんとですよ、という言葉を堪えて溜息をつくと、「明日の夜は花火があるらしいから必見だよ~」と言いながらウルリクさんは引きずられていった。
「花火ですって!」
なんとか誤魔化せないかと、いつもは無表情な自分の表情筋を頑張って動かし、ぎこちないかもしれないが笑顔を作ってベックラーさんのほうを向くと、ベックラーさんは悲しげに耳を伏せていた。驚いて真顔に戻ってしまう。
「ベックラーさん?」
「いや、出会う前の、違う世界にいた頃のルミを知っているやつらに嫉妬してしても仕方ないのはわかっている。俺だって褒められた女性関係だったわけじゃない。だがそれでも気になってしまう自分が情けないな」
私は出会う前のことは割り切れるタイプだけれど、ベックラーさんはそうじゃない。
「それに、それだけ常識の違うところから来たのだということを改めて実感してしまってな。こちらの世界は窮屈じゃないか?」
「大丈夫ですよ。慣れないことはありますけど、順応できるつもりです」
「苦労を掛けるな」
「いえ、私はベックラーさんに出会えたことをこの上ない幸運だと思ってます」
「ルミ……」
ベックラーさんが私の両手を自らの両手で包み込む。
私は顔を上げてベックラーさんを見つめ返した。
「出会う前のことはどうにもできないですけど、これからはベックラーさんが心配しないで済むように気をつけます。あ、泳ぐのをやめても……」
「いや、俺のわがままで窮屈な思いをさせたくない。一緒に泳ごう」
「……はい!」
そうは言ってもベックラーさんの尋問は(当然のようにベッドの上で)行われ、水着の形から学校のプールの授業のこと、スクール水着のこと、ミニスカートの存在まで暴かれてしまった。
ベックラーさんは破廉恥だ破廉恥だと言いながらも、かなり興味を示していて、「寝室なら……」と呟いていたので、それらを着せられる日も遠くないかもしれない。
(ウルリクさんも大丈夫だろうか……。アレンカさん体力あるって言ってたし)
ちなみに、次の日にはベックラーさんと海水浴をした。楽しかった。
ただ、ベックラーさんがソワソワしたり赤くなったり周りを威嚇したりして大変だったので、午前中で海水浴は終了となった。まあ、とりあえず泳げたので満足だ。
そして、部屋に戻ったあと、ベックラーさんの高ぶりが収まらずにその日は外に出られず、部屋から少し遠くで行われている花火を見ることに。ルームサービスを頼んでのんびりできたから、新婚旅行らしいということにする。
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