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番外編
狼うさぎ番外編2(前)
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ーーーーー
眼前には青く透き通った海が広がっている。爽やかな高い空に小さな雲が浮かんでいて、日差しが眩しい。薄っすら汗ばむほどだが不快ではない空気……。
そう、私たちは南国リゾートに、ハネムーンに来ている。
ベックラーさんと手をつないで浜辺を歩く。無事……、と言えるのか、ともかくも結婚式を終えて、名実ともに夫婦になれたのが嬉しい。
「ふふふ」
「嬉しそうだな」
「はい! 海が好きなんです。特にこういう綺麗な海はずっと見ていても飽きません」
はしゃぐ私を、ベックラーさんは目を細めて見る。その愛情溢れる眼差しに、耳がソワソワと動いてしまう。ベックラーさんと二人でいる時は、無理をして耳の制御をしなくてもいいと言われているから、それに甘えているのだ。
(ベックラーさんの尻尾もご機嫌に揺れているしね!)
「明日は泳ぎましょうね!」
「本当に泳ぐのか……?」
ベックラーさんの尻尾がパタリと止まって、ちょっと嫌そうな声が返ってきた。握っている手に力が込められる。
「せっかく南の海に来たんですから、泳ぎたいです。あんなに透明度の高い海なんですよ! 絶対入らないと!」
「しかし泳ぐには水着を着なければならないし、水に入れば濡れて服が肌に……」
「もうっ、そのお話は何度もしたじゃないですか。人も少ないですし、気にしすぎです」
だいたいこちらの世界の女性の水着は、まだまだ露出が少ない。透けない厚さの生地で作られた、一分袖のTシャツと膝がギリギリ見えるか見えないかという丈のスパッツのようなものだ。私からすればとても泳ぎにくそう。
それに、ここは軍の保養所の専用ビーチとはいえ、ほとんどがハネムーンか、そうでなくてもカップルや夫婦で来ている人ばかりだ。お互いに夢中で私たちのことなんか見ていないと思う。
ベックラーさんが嫌がりそうな若い軍人男性の集団なんかは見当たらない。そのことを指摘すると、そういう若者向けの保養所は別にあるという。
「ならいいじゃないですか」
「ルミは自分の魅力をわかっていない。うっかり夫や恋人がルミに気を逸してみろ、他のカップルを壊すことになるぞ」
「……意地悪な言い方ですね」
「やはりボート遊びのほうがよくないか? 俺がいくらでも漕ぐぞ! 魚も見られる」
「泳ぎたいですー」
「しかし……」
「ベックラーさんは私の水着姿、見たくないんですか?」
「ぐっ……。誰にも見せたくないが、見たい。どうすれば……」
最近ちょっとベックラーさんの過剰な心配を反らす方法を覚えはじめている自分がいる。実はマリソルさんやそのお友だちの手ほどきもあった。私はこっそり「上手な夫の転がし方講座」と呼んでいる。
そんな私たちの背に声が掛けられた。
「相変わらずだな」
ベックラーさんとともに振り返ると、アレンカさんとウルリクさんがいた。ウルリクさんは少し疲れた顔でひらひらと手を振っている。
「おまえらがなぜここにいる!?」
「私たちが新婚で、ここが軍の保養所でハネムーン向けの観光地だからだな。言っておくが私たちのほうが先に来たんだぞ?」
アレンカさんたちは私たちよりも先に挙式していて、私たちの結婚式のあとすぐここに来たらしい。確かにアレンカさんたちは披露宴には来ていない。「お貴族様の披露宴なんざ平民士官には関係ないからな」と言っていた。
私たちは貴族向けの疲れる披露宴をこなし、泊まりの招待客の方々をお見送りして、少し休んでから旅に出た。
「声をかけないのもどうかと思ったが、お邪魔だったようだな」
「いえいえ、そんなことないです! というか、アレンカさんからも言ってください。ベックラーさんが水着になるのを反対するんです」
アレンカさんには「いつでも頼ってくれ」と言ってもらっているので、ここぞとばかりにお願いした。
アレンカさんは呆れたように鼻を鳴らした。
「本当に狭量だな。そのうち愛想を尽かされるぞ」
「それはない! ……と信じている」
ベックラーさんの語尾が萎むとともに、耳と尻尾がへにょんとなった。
「それはないですけど、泳ぎたいです!」
「面倒くさい男だな。水着くらいいいだろう」
「ウルリク、君は自分のつがいの水着姿を他の男に見られて平気なのか!?」
味方を得ようとベックラーさんがウルリクさんに尋ねた。
「僕は気にしませんよ。アレンカは鍛えられていい体してますからね、見せびらかしたいくらいで」
「くっ……」
平然とウルリクさんのこの発言を流しているアレンカさんはさすがだ。
「三対一でベックラーさんの負けです。せっかく買った水着ももったいないじゃないですか」
ベックラーさんが溜息をついた。勝負は決したのだ。
嬉しくて耳が揺れる。そこにウルリクさんが爆弾を投下して、私の耳は固まった。
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眼前には青く透き通った海が広がっている。爽やかな高い空に小さな雲が浮かんでいて、日差しが眩しい。薄っすら汗ばむほどだが不快ではない空気……。
そう、私たちは南国リゾートに、ハネムーンに来ている。
ベックラーさんと手をつないで浜辺を歩く。無事……、と言えるのか、ともかくも結婚式を終えて、名実ともに夫婦になれたのが嬉しい。
「ふふふ」
「嬉しそうだな」
「はい! 海が好きなんです。特にこういう綺麗な海はずっと見ていても飽きません」
はしゃぐ私を、ベックラーさんは目を細めて見る。その愛情溢れる眼差しに、耳がソワソワと動いてしまう。ベックラーさんと二人でいる時は、無理をして耳の制御をしなくてもいいと言われているから、それに甘えているのだ。
(ベックラーさんの尻尾もご機嫌に揺れているしね!)
「明日は泳ぎましょうね!」
「本当に泳ぐのか……?」
ベックラーさんの尻尾がパタリと止まって、ちょっと嫌そうな声が返ってきた。握っている手に力が込められる。
「せっかく南の海に来たんですから、泳ぎたいです。あんなに透明度の高い海なんですよ! 絶対入らないと!」
「しかし泳ぐには水着を着なければならないし、水に入れば濡れて服が肌に……」
「もうっ、そのお話は何度もしたじゃないですか。人も少ないですし、気にしすぎです」
だいたいこちらの世界の女性の水着は、まだまだ露出が少ない。透けない厚さの生地で作られた、一分袖のTシャツと膝がギリギリ見えるか見えないかという丈のスパッツのようなものだ。私からすればとても泳ぎにくそう。
それに、ここは軍の保養所の専用ビーチとはいえ、ほとんどがハネムーンか、そうでなくてもカップルや夫婦で来ている人ばかりだ。お互いに夢中で私たちのことなんか見ていないと思う。
ベックラーさんが嫌がりそうな若い軍人男性の集団なんかは見当たらない。そのことを指摘すると、そういう若者向けの保養所は別にあるという。
「ならいいじゃないですか」
「ルミは自分の魅力をわかっていない。うっかり夫や恋人がルミに気を逸してみろ、他のカップルを壊すことになるぞ」
「……意地悪な言い方ですね」
「やはりボート遊びのほうがよくないか? 俺がいくらでも漕ぐぞ! 魚も見られる」
「泳ぎたいですー」
「しかし……」
「ベックラーさんは私の水着姿、見たくないんですか?」
「ぐっ……。誰にも見せたくないが、見たい。どうすれば……」
最近ちょっとベックラーさんの過剰な心配を反らす方法を覚えはじめている自分がいる。実はマリソルさんやそのお友だちの手ほどきもあった。私はこっそり「上手な夫の転がし方講座」と呼んでいる。
そんな私たちの背に声が掛けられた。
「相変わらずだな」
ベックラーさんとともに振り返ると、アレンカさんとウルリクさんがいた。ウルリクさんは少し疲れた顔でひらひらと手を振っている。
「おまえらがなぜここにいる!?」
「私たちが新婚で、ここが軍の保養所でハネムーン向けの観光地だからだな。言っておくが私たちのほうが先に来たんだぞ?」
アレンカさんたちは私たちよりも先に挙式していて、私たちの結婚式のあとすぐここに来たらしい。確かにアレンカさんたちは披露宴には来ていない。「お貴族様の披露宴なんざ平民士官には関係ないからな」と言っていた。
私たちは貴族向けの疲れる披露宴をこなし、泊まりの招待客の方々をお見送りして、少し休んでから旅に出た。
「声をかけないのもどうかと思ったが、お邪魔だったようだな」
「いえいえ、そんなことないです! というか、アレンカさんからも言ってください。ベックラーさんが水着になるのを反対するんです」
アレンカさんには「いつでも頼ってくれ」と言ってもらっているので、ここぞとばかりにお願いした。
アレンカさんは呆れたように鼻を鳴らした。
「本当に狭量だな。そのうち愛想を尽かされるぞ」
「それはない! ……と信じている」
ベックラーさんの語尾が萎むとともに、耳と尻尾がへにょんとなった。
「それはないですけど、泳ぎたいです!」
「面倒くさい男だな。水着くらいいいだろう」
「ウルリク、君は自分のつがいの水着姿を他の男に見られて平気なのか!?」
味方を得ようとベックラーさんがウルリクさんに尋ねた。
「僕は気にしませんよ。アレンカは鍛えられていい体してますからね、見せびらかしたいくらいで」
「くっ……」
平然とウルリクさんのこの発言を流しているアレンカさんはさすがだ。
「三対一でベックラーさんの負けです。せっかく買った水着ももったいないじゃないですか」
ベックラーさんが溜息をついた。勝負は決したのだ。
嬉しくて耳が揺れる。そこにウルリクさんが爆弾を投下して、私の耳は固まった。
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