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番外編

狼うさぎ書籍化しますSS(前)

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改めまして、本作品が書籍になります!
2023年2月15日にアルファポリス様より発売&レンタル開始予定。
書籍版タイトルは『異世界でうさぎになって、狼獣人に食べられました』となります。
ご縁がありましたら、お手に取っていただけますと幸いです。
詳細は後編の最後に掲載する書籍予約・取寄せ用紙や近況ボードをご確認くださいませ。

今日は思い切って現パロSS(夏)です。

ーーーーー

 目が覚めると俺は奇妙な部屋にいた。たくさんの机と椅子が並んでいて、白い半袖のワイシャツに黒いズボンという揃いの服を着た若者が数名ずつ固まって話をしたり飯を食ったりしている。女性もいるようだ。
 士官学校の頃を思い出すような光景に、戸惑いを覚える。

「やっと起きたか、ベック」
「ハロン……、おまえ、ちょっと若くないか? しかもなんだか……、おかしいな?」
「はあ? 寝ぼけてんのか?」

 どうやら俺は机に突っ伏して寝ていたらしい。

「マカルーキ先生の授業が退屈なのはわかるけどよ。居眠りなんて、真面目なおまえにしちゃ珍しいな」

 そうだ、俺は高校生で、授業を受けていて……、駄目だ、よく思い出せない。

「早く昼飯食っちまおうぜ。午後は家庭科室に移動だ」
「あ、ああ、そうだな」

 家庭科の先生は……、そうローヴェルト先生だ。

(ローヴェルトはローヴェルトだろう。先生ってなんだ)

 とはいえ教師を先生と呼ぶのはおかしくない。なにかが繋がらないような齟齬があるような、奇妙な記憶にやきもきしつつ、ハロンの後を追って廊下を歩く。そこでも当たり前のような物珍しいような、相反する感情が生まれ、つい、キョロキョロと周りを見回してしまう。
 そうしていたら、曲がり角で人にぶつかってしまった。

「すまない!」
「いや、大丈夫……、なんだ、ベックラーじゃないか」
「アレンカ」

 アレンカは他の女生徒たちと同じ制服を着ていた。

(まるで水兵のような襟だな)

 黒い大きな襟のついた白いシャツに、可愛らしい黒のリボンまでつけ、ボトムスは膝丈の短いスカート。ハイソックスを履いてはいるが、膝頭と脛の一部が見えている。

(アレンカは士官学校でも軍に入ってからもズボンを穿いていたからな。見慣れないし、少しはしたなくないか? 脚を晒すなど。それに随分と若返っているようにも見える)

 どう反応したらいいかわからず、名前を呼んだきり黙り込んでしまった。年齢について指摘したら肘鉄を食らいそうなので言わない。

「どうした? 変な顔をして」
「いや……」
「こいつまだ寝ぼけてるんじゃねーの? 慣れない居眠りなんかしてたしよ」
「なるほど、あり得るな」

 アレンカは腕を組んで偉そうに頷いた。

(こういうところは変わっていないな。変わっていない? やはりなにかおかしい……)

「俺たち次、移動教室で急ぐから、購買行くんだが」
「ならば私も付き合おう」
「アレンカ、次の授業は?」
「私の組は生物だ。楽しみで仕方ない」
「ほんと科学が好きだよな」

 ハロンとアレンカが雑談し、俺がぼんやりしているうちに、購買でパンを買い、三人で中庭のベンチに座っていた。アレンカはスマホでなにやら連絡をしている。

(見たことのない道具に服装、建物……。ルミから聞いた異世界のようだ。しかしなぜ俺たちがこんな状況に……?)

 そんなことを考えながらパンに齧りついた時、後ろから声を掛けられた。

「ベックラー先輩!」
「ルミ!」

 振り返ると、こちらに身を乗り出したルミがいた。そしてその格好にぎょっとする。
 薄手の白いシャツを押し上げる豊かな胸、くびれたウエストのラインがはっきり見えて、そしてなにより、アレンカよりも少し短いスカートからすんなりした白い脚が……。
 周りには若い男がたくさんいるのに、なんということだ。

「ルミ、なんて格好をしているんだ!」
「どうしたんですか? なにかおかしいところあります? アレンカ先輩」

 ルミが不思議そうにアレンカのほうを向く。

「特にないと思うが」
「いやしかし! そんなに脚を見せていたら……」
「なんだ、いつもの嫉妬か。カノジョを束縛する男は嫌われるぞ」
「ベックラー先輩が嫉妬してくれてたなら嬉しいですけど、みんなこのくらいですよ。心配しすぎです」

 ルミが困ったように首を傾げる。

(ああ、可愛い。しかもなんだ、『ベックラー先輩』って。そんな呼び方ははじめてされた、可愛い……)

 思わずルミを見つめてしまう。夏の日差しに下着が透けそうで不安だが、この制服はルミにとても似合っている。

「ルミ……」

 いや、ちょっと手を入れるだけで簡単に下着にたどり着きそうな短いスカートに、靴下だけというのはどうなんだ。俺以外の誰かがその頼りない布地をまくったらどうする。

(ああ、心配で仕方ない。俺の前でだけは着てほしいが……)

「ルミ、やっぱりこんな服装で、こんな獣だらけのところにいてはいけない! 帰ろう!」
「帰る? どこへですか?」

 ルミに問われて戸惑った。そうだ、どこに帰るんだ? 俺たちはまだ高校生で、それぞれの家がある。

(いや、違うだろう? なんだこの違和感は)

「ベックラー先輩?」

 己を失いそうになったところで、ルミが俺を呼び止めた。ルミだけが俺を正気に引き留めてくれるように感じる。
 不安を感じ取ったのか、ルミが手を伸ばして俺の頭をそっと撫でた。

「大丈夫ですか?」
「ああ、ルミ……」

 ルミのもう片方の手を握って見つめ合う。

「あーあ、また二人の世界作ってる」
「ウルリク」

 アレンカが少し嬉しそうな声を上げる。

「アレンカ、お待たせ」
「じゃあ、私たちはお邪魔だろうから去るとするか」
「おいおい、ここで置いてかれると俺がつらいんだが」
「あっ、ハロン先輩、気にしないでください。ベックラー先輩が見えたので声掛けちゃいましたけど、私、もう行かないと。次の授業の準備があるので」

 俺のそばからパッと離れて、ルミは時間を気にする素振りを見せた。少し寂しいが仕方ない。
 ウルリクが親しげにルミに話しかけた。

「ルミちゃん、その荷物……、プール?」
「そうだよ」
「今日暑いから、羨ましいな」
「楽しみではあるんだけどね、アーベライン先生、厳しいから……」
「あー。すんげースパルタだよな。普段の体育じゃ、めちゃくちゃ走らされるし」

 ハロンが同情の眼差しをルミに送る。アーベライン先生は優しげに見えて容赦ないところがあるからな。怖い先生だ。

(いや、先生ではなく上官だろう。ううん……、どうしても違和感が拭えない)

「文武両道がカレンベルグ校長の方針だからな。結構じゃないか」
「おまえは文も武もできる優等生だからそういうこと言えるんだ……」

 ハロンはアレンカに向かってそう言って嫌そうに眉をひそめる。

「ベックラー先輩たちの、次の授業はなんですか?」
「俺たちはローヴェルト先生の家庭科だ」
「そうなんですね! 家庭科室ならプールから見えると思うんで、手を振ります! じゃあ!」

 ルミは俺に一瞬近づいて、「放課後は一緒に帰りましょうね」と言い残し、軽快に走り去った。その後ろ姿をいつまでも見送ってしまう。

「おいベック、早く食え」
「あ、ああ」

 手にしたパンを食べながら、プールについて思い出そうとした。

(プールとはなんだったか……、とても駄目なものな気がする)
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