異世界でうさぎになって、狼獣人に食べられました

榎本ペンネ

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番外編

狼うさぎ番外編1(前)

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この作品が書籍化します!
書籍版タイトルは『異世界でうさぎになって、狼獣人に食べられました』。
2023年2月15日にアルファポリスより発売&レンタル開始予定です。
詳細は近況ボードをご確認いただけますと幸いです。

以下の番外編は、婚約中の一幕です。
喧嘩の後、実はルミはちょっとずつアレンカさんに魔術を教わっていました。

ーーーーー

「ルミ! 俺はルミと一緒に風呂に入りたい!」
「いいですよ」
「そうか、駄目だよな、いや言ってみただけ……、えええ!? いいのか!?」
「はい」

 それはある休日の昼下がり。俺は意を決してルミにお願いをした。前からずっと思ってはいたのだ。でも、ルミは俺がはじめてだったわけだし、ベッドの上で最終的に乱れてくれるとはいえ、わりと奥ゆかしいところがある。だから、誘っても断られるだろうと思うと気持ちが萎れて言うことができなかった。

 ただ、最近は随分こちらの生活にも慣れてきてくれたようだし、そろそろ言ってもいいか……? まだ早いか……? と見計らっていたところだったのだ。

 ハロンに相談したら、
「あ? おまえその話何度目だよ……。そんなに二人で入りたいのか? 正直キモい」
と一蹴された。主人に対して「キモい」はないと思う。

 ちなみに、横にいたローヴェルトには氷点下の視線で見られた後で、切々と婚約中の節度というものについて説かれた。
 いや、同じ寝室で寝起きしているのに、風呂は別々にしているというのは、かなり紳士的だと思うんだが。世の夫婦は風呂でいちゃいちゃするものなのではないか。この前、同僚に自慢されたし。

 婚約中は駄目で夫婦ならば良いのなら、本当に早く結婚したいと思う。
 そんなこんなで鬱屈した思いを抱え、耐えきれなくってなぜか昼間に宣言してしまったのだ。
 まさかルミがこんなにあっさりと頷いてくれるとは思わなかった。

「今から入ります?」
「い、いい、今からか!? ちょっと、心の準備が……」

 心というよりも、体の準備というか、鼻血が出ないか心配だ。風呂ではのぼせることもあるしな。うん、だが、入ろう! 思い立ったが吉日だ!

「よし、入ろう!」

 俺はこの時、ルミのにっこり笑顔に違和感を覚えるべきだったのだ。浮かれすぎて気づかなかったのが悔やまれる。



 俺はなぜ、狼の姿で洗われているのだろうか。

「がぅ……」
「もうちょっとじっとしててくださいねー」

 自慢の毛皮は濡れそぼり、ルミの手で泡立てられている。鏡に映る自分の身体は、普段の半分くらいに萎んでしまったようで、なんだか情けない。



 少し前、ルミと共にシャワールームに入り、湯船に湯を溜めた。溜まるのを待つ間に洗いあおうではないか、と鼻息荒く振り返ったら、笑顔で「私のお願いも聞いてくれますか?」と言われたのだ。
 こんな状況で否やはない。浮かれたまま頷いた。

「じゃあ、ちょっと、耳と尻尾触らせてください」
「いいぞ」

 風呂場でそんな色っぽいお願いをされたら、興奮してしまうではないか。そう思いながらも真面目な顔で、ルミの手が届くように少し屈んだ。

「えっと、耳と尻尾を握って、それでこうして、こう!」
「っ!?」

 急に魔力を流されてびっくりする。ルミには魔力を流したことが何度もあったから、受け入れるのも容易かったが、どうにも魔力に指向性があってはっきりした意図を感じる。
 普段だったらすぐにでも相手を突き飛ばして離れただろうが、ルミに怪我をさせてはいけないという気持ちもあったし、そもそも下心に支配されていたのだ。
 人はこういう時、大変無防備になるということを思い知らされる。

「できた!」

 一瞬の酩酊感の後、俺は狼になっていた。

「ウルリクさんが身体強化の応用についてアイディアを出して、アレンカさんが定式化した魔術ですよ。少しの間は魔力が乱れて、人間に戻るのがすごく難しくなるらしいです」
「が、がうー!」
「あっ、安全性試験は通っていて、失敗したとしても、単に魔力がうまく通らなかっただけだったり、拡散してしまったりするだけみたいです」
「がうがう!」
「ああ、使われ方によっては危険な魔術なので、表には出さないって聞いてますけど、ベックラーさんには使っていいって許可されました! 私を勝手に寝かせてうさぎにさせたアレンカさんは、ウルリクさんがお仕置きしてくれたそうです」
「がっ……、がぅぅ……」

 なんということだ。これは先日の喧嘩の続きなのか? 俺はまだ許されてなかったのか?
 尻尾と耳をへたらせて恭順の意を表すると、ルミによしよしされた。
 うん、気持ちいい。

「いっつもベッドの上で私のことをいいようにするんですから、たまにはこれくらいいいですよね?」

 どうやら喧嘩の件ではなかったようだ。
 しかし、拗ねたように口を尖らせてそんなことを言われれば、少しの申し訳なさとルミの可愛さに負けてしまう。大人しくシャワーをかけられるに任せた。

「はー、一度洗ってみたかったんですよね、この毛皮。きっとふわっふわになりますよ」
「がぅ……」
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