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日曜日1
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今日は私には予定がある。だから遠矢くんに触れられてベッドから出られなくなるわけにはいかない。
と言っても、起きた瞬間にすでに腕の中に抱き込まれていたし、脱出する前に遠矢くんの目が覚めてしまった。朝一で掠れた声の「おはよう」をかまされ、首筋に小さくキスを落とされ、その甘さに砂を吐きそうだし、それをされているのが自分であることに未だ実感が湧かない。
不埒な動きをされる前に、頑張ってぬくもりを振り払って起き上がると、一晩ぐっすり寝たおかげか、少し筋肉痛が残るくらいで外出できそうな体調になっていた。
「杏奈先輩」
私がベッドを抜け出したことを咎めるように名前を呼ばれる。
「今日は出掛ける予定があるんです」
「それじゃあ仕方ないですね」
昨日あれほどしつこく私を抱き倒して、世話までしてくれたのに、あっさりと引かれて拍子抜けする。
(ダメダメ。こうやって押したり引いたりされて、気持ちを振り回されて、好きになってしまって、最終的に苦しむのは自分なんだから)
ある種の男性不信だよな、と思いつつ、朝食の支度をする。
「これ食べたら帰ってください」
「わーい、杏奈先輩の手料理だ」
「手料理って言っても、パンと手抜きスープだけですけど」
「それでも嬉しいです」
(眩しい……。朝日の中のイケメンの笑顔、眩しすぎる……)
正視できなくて少し目を逸してしまう。やはり昨日のことは忘れて、なかったことにして生きていきたい。遠矢くんがなんで私なんかの恋人になりたいと言い出したのか、結局わからなかったし。
私は基本、真面目で地味な人間なのだ。趣味の時間だけは少しそういう殻を脱げるけれど、それはあくまで夢のような時間で、私の本質は陽ではなく陰だと思っている。そんな私に彼は眩しすぎるのだ。
朝食を食べ終え支度をすると、遠矢くんはあっさり玄関に向かった。やっぱりいっときの気まぐれだったのか、と残念な気持ちが芽生えそうになるのを押さえつけて見送る。
「じゃあ、また」
「月曜からは普通に接してくださいね」
「杏奈先輩が望むなら、そうします」
にっこり笑って、ハグをされる。
「でも、二人きりの時は、昴って呼んでほしいです」
「なっ……」
「ダメですか?」
悲しげな表情をされると、わんこのように見えていけない。
「……そもそも、もう二人きりになりません」
「呼んでくれるまで離しません」
そう言うと唇を寄せてきた。すぐに濃厚な口づけが始まる。昨日の感覚がまだ抜けきらない状態でこんなキスをされたらどうしようもない。
(あああ、話が通じないし、キス気持ちいいし。無理。頭溶ける)
すぐに腰が痺れて足の間が湿りはじめるのを感じた。彼にしがみついていないと立っていられない。たった一日で馴染んだ体温に心まで寄りかかりそうになる。
「やっぱり、キスだけでこんなになっちゃうじゃないですか」
「んぁ……」
「ほら、呼んでくれるまでやめませんよ」
「んー!」
完全に力が抜けて身体を預けてしまった頃にようやく唇が解放され、ずるずると玄関に座り込む。再びキスを再開されそうになったところで慌てて小さく「昴くん」と言ったら、満足げに微笑まれた。
「じゃあ、気をつけて出掛けてくださいね」
と言っても、起きた瞬間にすでに腕の中に抱き込まれていたし、脱出する前に遠矢くんの目が覚めてしまった。朝一で掠れた声の「おはよう」をかまされ、首筋に小さくキスを落とされ、その甘さに砂を吐きそうだし、それをされているのが自分であることに未だ実感が湧かない。
不埒な動きをされる前に、頑張ってぬくもりを振り払って起き上がると、一晩ぐっすり寝たおかげか、少し筋肉痛が残るくらいで外出できそうな体調になっていた。
「杏奈先輩」
私がベッドを抜け出したことを咎めるように名前を呼ばれる。
「今日は出掛ける予定があるんです」
「それじゃあ仕方ないですね」
昨日あれほどしつこく私を抱き倒して、世話までしてくれたのに、あっさりと引かれて拍子抜けする。
(ダメダメ。こうやって押したり引いたりされて、気持ちを振り回されて、好きになってしまって、最終的に苦しむのは自分なんだから)
ある種の男性不信だよな、と思いつつ、朝食の支度をする。
「これ食べたら帰ってください」
「わーい、杏奈先輩の手料理だ」
「手料理って言っても、パンと手抜きスープだけですけど」
「それでも嬉しいです」
(眩しい……。朝日の中のイケメンの笑顔、眩しすぎる……)
正視できなくて少し目を逸してしまう。やはり昨日のことは忘れて、なかったことにして生きていきたい。遠矢くんがなんで私なんかの恋人になりたいと言い出したのか、結局わからなかったし。
私は基本、真面目で地味な人間なのだ。趣味の時間だけは少しそういう殻を脱げるけれど、それはあくまで夢のような時間で、私の本質は陽ではなく陰だと思っている。そんな私に彼は眩しすぎるのだ。
朝食を食べ終え支度をすると、遠矢くんはあっさり玄関に向かった。やっぱりいっときの気まぐれだったのか、と残念な気持ちが芽生えそうになるのを押さえつけて見送る。
「じゃあ、また」
「月曜からは普通に接してくださいね」
「杏奈先輩が望むなら、そうします」
にっこり笑って、ハグをされる。
「でも、二人きりの時は、昴って呼んでほしいです」
「なっ……」
「ダメですか?」
悲しげな表情をされると、わんこのように見えていけない。
「……そもそも、もう二人きりになりません」
「呼んでくれるまで離しません」
そう言うと唇を寄せてきた。すぐに濃厚な口づけが始まる。昨日の感覚がまだ抜けきらない状態でこんなキスをされたらどうしようもない。
(あああ、話が通じないし、キス気持ちいいし。無理。頭溶ける)
すぐに腰が痺れて足の間が湿りはじめるのを感じた。彼にしがみついていないと立っていられない。たった一日で馴染んだ体温に心まで寄りかかりそうになる。
「やっぱり、キスだけでこんなになっちゃうじゃないですか」
「んぁ……」
「ほら、呼んでくれるまでやめませんよ」
「んー!」
完全に力が抜けて身体を預けてしまった頃にようやく唇が解放され、ずるずると玄関に座り込む。再びキスを再開されそうになったところで慌てて小さく「昴くん」と言ったら、満足げに微笑まれた。
「じゃあ、気をつけて出掛けてくださいね」
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