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夢中に食べる私を見て、王子は目を細めて笑った。
「うまそうに食うな。安心したぞ」
(やばい、今のやばい)
キュンとした胸に気づかないように、色気なく答える。
「本当にとってもおいしいです!」
「辛いのは大丈夫か? それならこれもうまいぞ」
「むぐむぐ。うわぁ、この味も好きです」
「タカコは好き嫌いがないのだな」
「どうでしょう。文化が違うのでなんとも言えないですね。例えば、蛇とか昆虫とかは厳しいです」
「ああ、砂漠のある地方では食べるところもあるから、俺も視察の際のもてなしで食わされたが、特に宮殿でまで作らせようとは思わなかったな。ここで出てくることはないから安心せよ」
「うわぁ、じゃあ、食べたことは食べたんですね。尊敬します……」
「そんなことでタカコに尊敬してもらえるなら、食ったかいがあったな」
和やかに話をしながら食事は進み、お腹が一杯になりかけたところで王子が手元の小さな金属製の太鼓のようなものを鳴らすと、少しして冷たいデザートが運ばれてきた。至れり尽くせりすぎて、ハレムにすぐ順応してしまいそうだ。
(私、食欲には忠実だから、簡単に餌付けされてしまう……。ほんと気をつけよう)
「タカコは少食なのだな」
「そんなことないですよ? 見た目の割によく食べると言われます」
わりと燃費が悪いほうなのだ。
「そうか? 他の女たちはもっとよく食べるぞ」
そういえば、私はここでは一番細いんだったか。まだ他の嬪たちには会っていないけれど、体つきが豊かな方が良いとされる文化なのかもしれない。ラナーも細くはなかった。
「もっと太ったほうがいいんですか……?」
私は今の体型に満足しているし、何よりあんまり太ると日本に帰った時に困る。でもここの食事はおいしすぎて食べすぎてしまいそうだなぁ、などと考えながら問いかけると、王子は真面目な顔で私を見て首を捻った。
「いや、俺は今のタカコの体つきが好ましい。こんなにも唆られるのははじめてだ」
「なっ……」
「だが、健康なのか心配になったのだ」
そういいながら、私の前髪を指先で横に流して、頬に触れる。
「け、健康ですよ。この世界ではどうか知りませんけど、あまり太るのはいろいろな病気の元なんですよ」
「ああ、それはあるだろうな。金持ちはとかく体格を重視するし、その方が寿命が長くなると思っているようだが……」
「栄養不足だったり、医師にかかれなかったりする平民の方が寿命が短いのは当然ですね」
「そういうことだ。タカコの世界はここよりそういうことに関する知恵が進んでいるようだな」
「まだこの部屋とお風呂場しか見ていないので、詳しくはわかりません」
そう言うと、王子は少しだけ咎めるように片眉を上げた。
「まだ、宮殿を案内してもらっていないのか」
「午前中はお風呂に入って、採寸してもらって、身支度をしただけで終わってしまって。起きたのが遅かったのがいけなかったみたいです」
しゅんとしてそう言うと、気にするなと言うように腕を撫でられた。
「いや、いつでも構わぬ。疲れさせたのは俺だしな」
にやりと笑って至近距離で見下されて、カッと頬が熱くなるのを感じた。空腹とおいしい料理に気が紛れていたけれど、考えてみれば昨日はこのイケメンにあんなことやこんなことまでされてしまったのだ。気づいてしまえば、よく隣り合って普通にごはんを食べられていたと思う。
思わず後ずさろうとすると、腰に回された腕に阻まれた。
「もう体調は大丈夫か」
「……はい」
「ならば午後は俺の執務室に来るといい」
「え? ハレムからそんな簡単に出ていいんですか?」
「ん? そなたの世界では出られないものなのか?」
「基本的には、他の男性との接触をさせないために出られないですね」
「ああ、結界がないせいか」
そういえば、この世界には魔法の結界があって、子どもができた女性はハレムの中に入れないと聞いた。
「結界があっても、妊娠が成立するまでに多少は時間がかかりますから、万全とは言えないんじゃないですか?」
「それはないな。結界は王族以外の男の精も弾くものだ。そんなものを胎に入れたままハレムには入れん。むしろ、兄弟の訪問の方が神経を使うことになるな。過去に、ハレムの女が別の兄弟の子を孕んだ例はある。兄弟を招いた宴の時にでも事があったのだろう」
うわぁ、便利そうでもやはり穴はあるし、ハレムらしくどろどろしている。
「どちらにせよ、ハレムの外でそなたを俺の側から離すことはないから問題ない」
「はぁ」
思わず気の抜けた答えを返してしまった。そんなにしてまで執務室に私を連れていく理由が見えなかったからだが、行けばわかると思ってそれ以上は突っ込まなかった。
「うまそうに食うな。安心したぞ」
(やばい、今のやばい)
キュンとした胸に気づかないように、色気なく答える。
「本当にとってもおいしいです!」
「辛いのは大丈夫か? それならこれもうまいぞ」
「むぐむぐ。うわぁ、この味も好きです」
「タカコは好き嫌いがないのだな」
「どうでしょう。文化が違うのでなんとも言えないですね。例えば、蛇とか昆虫とかは厳しいです」
「ああ、砂漠のある地方では食べるところもあるから、俺も視察の際のもてなしで食わされたが、特に宮殿でまで作らせようとは思わなかったな。ここで出てくることはないから安心せよ」
「うわぁ、じゃあ、食べたことは食べたんですね。尊敬します……」
「そんなことでタカコに尊敬してもらえるなら、食ったかいがあったな」
和やかに話をしながら食事は進み、お腹が一杯になりかけたところで王子が手元の小さな金属製の太鼓のようなものを鳴らすと、少しして冷たいデザートが運ばれてきた。至れり尽くせりすぎて、ハレムにすぐ順応してしまいそうだ。
(私、食欲には忠実だから、簡単に餌付けされてしまう……。ほんと気をつけよう)
「タカコは少食なのだな」
「そんなことないですよ? 見た目の割によく食べると言われます」
わりと燃費が悪いほうなのだ。
「そうか? 他の女たちはもっとよく食べるぞ」
そういえば、私はここでは一番細いんだったか。まだ他の嬪たちには会っていないけれど、体つきが豊かな方が良いとされる文化なのかもしれない。ラナーも細くはなかった。
「もっと太ったほうがいいんですか……?」
私は今の体型に満足しているし、何よりあんまり太ると日本に帰った時に困る。でもここの食事はおいしすぎて食べすぎてしまいそうだなぁ、などと考えながら問いかけると、王子は真面目な顔で私を見て首を捻った。
「いや、俺は今のタカコの体つきが好ましい。こんなにも唆られるのははじめてだ」
「なっ……」
「だが、健康なのか心配になったのだ」
そういいながら、私の前髪を指先で横に流して、頬に触れる。
「け、健康ですよ。この世界ではどうか知りませんけど、あまり太るのはいろいろな病気の元なんですよ」
「ああ、それはあるだろうな。金持ちはとかく体格を重視するし、その方が寿命が長くなると思っているようだが……」
「栄養不足だったり、医師にかかれなかったりする平民の方が寿命が短いのは当然ですね」
「そういうことだ。タカコの世界はここよりそういうことに関する知恵が進んでいるようだな」
「まだこの部屋とお風呂場しか見ていないので、詳しくはわかりません」
そう言うと、王子は少しだけ咎めるように片眉を上げた。
「まだ、宮殿を案内してもらっていないのか」
「午前中はお風呂に入って、採寸してもらって、身支度をしただけで終わってしまって。起きたのが遅かったのがいけなかったみたいです」
しゅんとしてそう言うと、気にするなと言うように腕を撫でられた。
「いや、いつでも構わぬ。疲れさせたのは俺だしな」
にやりと笑って至近距離で見下されて、カッと頬が熱くなるのを感じた。空腹とおいしい料理に気が紛れていたけれど、考えてみれば昨日はこのイケメンにあんなことやこんなことまでされてしまったのだ。気づいてしまえば、よく隣り合って普通にごはんを食べられていたと思う。
思わず後ずさろうとすると、腰に回された腕に阻まれた。
「もう体調は大丈夫か」
「……はい」
「ならば午後は俺の執務室に来るといい」
「え? ハレムからそんな簡単に出ていいんですか?」
「ん? そなたの世界では出られないものなのか?」
「基本的には、他の男性との接触をさせないために出られないですね」
「ああ、結界がないせいか」
そういえば、この世界には魔法の結界があって、子どもができた女性はハレムの中に入れないと聞いた。
「結界があっても、妊娠が成立するまでに多少は時間がかかりますから、万全とは言えないんじゃないですか?」
「それはないな。結界は王族以外の男の精も弾くものだ。そんなものを胎に入れたままハレムには入れん。むしろ、兄弟の訪問の方が神経を使うことになるな。過去に、ハレムの女が別の兄弟の子を孕んだ例はある。兄弟を招いた宴の時にでも事があったのだろう」
うわぁ、便利そうでもやはり穴はあるし、ハレムらしくどろどろしている。
「どちらにせよ、ハレムの外でそなたを俺の側から離すことはないから問題ない」
「はぁ」
思わず気の抜けた答えを返してしまった。そんなにしてまで執務室に私を連れていく理由が見えなかったからだが、行けばわかると思ってそれ以上は突っ込まなかった。
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