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 少し距離を置いて、ようやく少し眩しくなくなった王子を眺めながらしばらく待っていると、ハッとしたように顔を上げ、こちらを真剣な表情で見つめてきた。王子は思いのほか表情が多彩だ。

「して、『しばらく』というのはいつまでだ?」
「詳しくは聞いていませんが、とりあえず、私が元の世界に帰る方法を見つけるまで、でしょうか」
「なんだと?」

 一気に不機嫌そうな表情になり、先程までの顔は単に驚いていたのだということがわかった。これはかなり怖い。
 無意識に身体に乗っていた毛布のようなものを手繰り寄せ、王子との間に置いて自分を守りながら、恐る恐る王子を伺う。

「神獣様が、そのようにおっしゃったのか」
「い、いえ、元の世界に帰る方法がある、ということと、できれば王子の側にいて欲しいが、帰ってもいい、ということだけですぅ……」
「……ふむ」

 不機嫌さが少し薄れて怖さが減った。でもまだ怒っているのだろうか?
 そうだ、今こそ鹿神様にもらった加護を試す時かもしれない。そっと手を伸ばして、王子の腕に触れる。

「どうした?」
「あ、あの、怒ってますか?」
「いや、今は怒っていない」

 やっぱりさっきは怒ってたのか。怖い……。王族の怒りとか怖すぎる。でも、今は怒っていないというのは本当だと感じる。

「なんで怒っていたんですか?」
「そなたを帰したくなかったからな。たとえそなたを遣わしてくださった神獣様であれ、そなたの味を覚えさせておきながら、勝手に取り上げるというなら敵対することも辞さないと思ったのだが。そういうわけではなさそうだ」

(怖い! これ本気で言ってる。怖い!)

 そう思う一方で、私に対してそれが向けられていないことはわかっていたし、強い瞳はとても魅力的だ。強い引力を感じ、目が離せなくなる。
 ……「味」というのはちょっとどうかと思うけれど。

「先にも言ったが、俺がそなたを惚れさせれば、何も問題はないわけだ」

 王子はにやりと笑うと、私が触れていた手を振り解き、逆に私の手首を掴んでくる。

「神獣様には、明日、社殿へ赴き感謝を捧げよう。今宵は……」

 ぐいっと引き寄せられ、気づけば王子の腕の中に収まっていた。すぐに濃厚なキスが与えられる。

「んむぅ」

 あっという間に恐怖も何も吹き飛んで、頭の奥が痺れたようになる。身体を密着させるように抱き寄せられ、貪るように舌を絡められると、腰の奥から甘い疼きが広がって思わず脚を擦り合わせた。
 王子の手がガウンの合わせから入ってきて、なだめるように太ももを撫でるけれど、それも刺激として加わって、溜まっていく熱にどうしようもない気持ちになる。

「はぁっ、あっ」

 顔の角度が変えられる合間に漏れるのは、甘い吐息と小さな嬌声ばかりだ。いつの間にか脚の間に入り込んでいた王子の指が割れ目をなぞると、身体が勝手にビクリと弾んで、キスを拒むように顔を離してしまった。
 しかし彼は追いかけてくることなく、その代わりに指をぬかるみに埋めてくる。

「ああっ」
「もう媚薬は抜けたはずだが、随分濡れているな。そなた、口づけは好きか」

 浅く埋めた指で私の濡れたそこを円を描くように撫でながら、そんなことを尋ねられても困る。誤魔化すだけの頭も回らずに、素直に頷いた。

「そうか」

 言い終わるか終わらないかのうちに、再びキスが落とされた。今度はより丁寧に、私の感じるところを丹念に探られる。跳ねる身体はもう一方の腕で抱き締められ、先程より深く突き入れられた指を、感じる度に締め付けながら、私は泣くまで翻弄された。
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