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慣れないけれど好ましい香りが鼻腔をくすぐる。誰かが私を呼んでいる? でもまだ起きたくないんだ。私は寝穢い人間です……。
うつ伏せのまま滑らかなシーツに顔を擦りつけて、「もう少しだけ……、あと五分……」と呟くと、隣から、ふっ、とどこかで聞いたような微かな笑い声がした。
重い瞼をなんとか開いて隣を見ると、すぐ近くで、正視できないくらいのイケメンが口元に笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「ひぇっ!??」
変な声が出た。混乱していると、イケメンはさらに愉快そうな表情を浮かべる。
「タカコは面白い反応をするな」
続いて腰に響くイケボに晒された。死ぬかと思った。
そうだ。私は異世界のハレムに来て、このアル……、アルなんとか王子にいきなり襲われて、あと白い鹿神様にこの王子の側にいるようにって言われたんだった。
よし、追いついた。でも。
「待って、待ってください。朝から刺激が強すぎて……。あれ、まだ暗い? え? 私いつの間に寝ていたんでしょう?」
「そなた、俺と話している最中に急に寝よったぞ。少し、心配した」
「それは申し訳ございませんでした……!」
王族と話している最中に寝るとか、不敬罪で即刻死罪でもおかしくないレベルだ。いくら私が王子の求める資質――魔力を相殺する反魔力――を持っているとはいえ、そして、現在目の前にいる王子は機嫌が良さそうとはいえ、油断してはいけない。
異世界のハレムで、私の命なんて吹けば飛ぶようなものだと思っておく必要があるだろう。
(あー、これが神様に『人一倍猜疑心が強い』なんて言われてしまう所以かな)
そう思いながら、言い訳を試みる。
「あの、実は、白い鹿の神様とお話していて……」
「なんだと!?」
急に王子が身を乗り出してきたせいでイケメンのドアップに見舞われ、私は慌てて少しだけ目を逸らす。なんだかやましいことがあるようなリアクションになってしまった。
「たっ、たぶん、神様に呼ばれて? 意識を失ったのかな? と思いますぅ……」
「白い鹿はこの世界では神獣とされる。夢に出ただけでも大きな吉祥だが、その神獣と話しただと?」
彫りが深い顔が真剣な表情で眉を潜めていると、純粋に驚いているのか怒っているのかわからなくて、正直怖い。じりじりと布団の上を後ずさりながら答えることにする。特に口止めされていなかったから問題ないだろう。
「わっ、私がこの世界に来たのは、白い鹿の神様……、神獣? の意志だそうなんですー!」
「それは真か」
「えっと、嘘を吐いているつもりはありませんが、すべてが夢だった、という可能性はゼロではありません」
「ふむ……。そういう慎重な発言は好ましいな。して、神獣様は、他にはなんと?」
「しばらく殿下の側にいるように、と」
あの口調のことや、お互いが好みだって聞いたなんていうことは言わなくていいだろう。言っても鹿神様は気にしないだろうが、私が気にする。
王子は目を見開き眉を上げると、そのまま固まってしまった。なんだか彫刻みたいだ。
「殿下……?」
「あ、ああ。いや、少し驚いただけだ。なぜ神獣様は俺の側にと?」
「殿下は神様的には重要な方だそうです。魔力の暴走に困っていらっしゃるのを助けるために、と聞きました」
「それは……」
なにやら考え込んでしまったようで、再び難しい顔をしている。
うつ伏せのまま滑らかなシーツに顔を擦りつけて、「もう少しだけ……、あと五分……」と呟くと、隣から、ふっ、とどこかで聞いたような微かな笑い声がした。
重い瞼をなんとか開いて隣を見ると、すぐ近くで、正視できないくらいのイケメンが口元に笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「ひぇっ!??」
変な声が出た。混乱していると、イケメンはさらに愉快そうな表情を浮かべる。
「タカコは面白い反応をするな」
続いて腰に響くイケボに晒された。死ぬかと思った。
そうだ。私は異世界のハレムに来て、このアル……、アルなんとか王子にいきなり襲われて、あと白い鹿神様にこの王子の側にいるようにって言われたんだった。
よし、追いついた。でも。
「待って、待ってください。朝から刺激が強すぎて……。あれ、まだ暗い? え? 私いつの間に寝ていたんでしょう?」
「そなた、俺と話している最中に急に寝よったぞ。少し、心配した」
「それは申し訳ございませんでした……!」
王族と話している最中に寝るとか、不敬罪で即刻死罪でもおかしくないレベルだ。いくら私が王子の求める資質――魔力を相殺する反魔力――を持っているとはいえ、そして、現在目の前にいる王子は機嫌が良さそうとはいえ、油断してはいけない。
異世界のハレムで、私の命なんて吹けば飛ぶようなものだと思っておく必要があるだろう。
(あー、これが神様に『人一倍猜疑心が強い』なんて言われてしまう所以かな)
そう思いながら、言い訳を試みる。
「あの、実は、白い鹿の神様とお話していて……」
「なんだと!?」
急に王子が身を乗り出してきたせいでイケメンのドアップに見舞われ、私は慌てて少しだけ目を逸らす。なんだかやましいことがあるようなリアクションになってしまった。
「たっ、たぶん、神様に呼ばれて? 意識を失ったのかな? と思いますぅ……」
「白い鹿はこの世界では神獣とされる。夢に出ただけでも大きな吉祥だが、その神獣と話しただと?」
彫りが深い顔が真剣な表情で眉を潜めていると、純粋に驚いているのか怒っているのかわからなくて、正直怖い。じりじりと布団の上を後ずさりながら答えることにする。特に口止めされていなかったから問題ないだろう。
「わっ、私がこの世界に来たのは、白い鹿の神様……、神獣? の意志だそうなんですー!」
「それは真か」
「えっと、嘘を吐いているつもりはありませんが、すべてが夢だった、という可能性はゼロではありません」
「ふむ……。そういう慎重な発言は好ましいな。して、神獣様は、他にはなんと?」
「しばらく殿下の側にいるように、と」
あの口調のことや、お互いが好みだって聞いたなんていうことは言わなくていいだろう。言っても鹿神様は気にしないだろうが、私が気にする。
王子は目を見開き眉を上げると、そのまま固まってしまった。なんだか彫刻みたいだ。
「殿下……?」
「あ、ああ。いや、少し驚いただけだ。なぜ神獣様は俺の側にと?」
「殿下は神様的には重要な方だそうです。魔力の暴走に困っていらっしゃるのを助けるために、と聞きました」
「それは……」
なにやら考え込んでしまったようで、再び難しい顔をしている。
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