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1 出会いは突然に(前)

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 その頃の私にとって日々はどこか物足りなかった。有力な伯爵家の娘としての何不自由ない生活、しかも優しい両親と年の離れた兄姉には十分に愛されている。溢れるほど与えられる本は、すべてを忘れて没頭できるほど好きだった。

 同年代の友だちはいなかった。もっとも庇護が必要な年齢の高位貴族の子女としては、付き合いが少ないのはおかしいことではないし、完全に籠の鳥として育てられる子もいるくらいだ。
 ただ、お茶会などで出会った同世代の子どもたちと比べると自分が異質であることは薄々自覚していたから、敬遠されるのは子どもらしくない完璧な作法と頭の回転の速さのせいだろうとは思っていた。それでも、自分を偽って親しく見せるには幼すぎ、また、プライドも高すぎた。

「はぁ……」

 本から目を離して窓の外を眺める。冬枯れの庭は物寂しく、私の心を描いたかのようだった。

 この物足りなさはなんだろう。自問自答しても答えは出ない。友だちがいないことは大して気にしていない。新しい知識を得ることは好きだし、ダンスを踊れば楽しい気持ちになるから一生懸命練習した。それでもなにか埋められない心の隙間があって、そこを木枯らしが吹き抜けていくようだった。

 十歳には似つかわしくない溜息をつく私を見るたび、両親は困ったように微笑む。大好きな両親を困らせたくはなかったけれど、精神的にはまだまだ子どもな私に、溜息を飲み込んで笑顔で毎日を過ごせるほどの力はなかった。



 当時の私は、大人から見ればムカつくガキだったと思う。妙に厭世的で、もうこの世のすべてを知ってしまっておもしろくありません、というような顔をしていた。特に家庭教師たちにはひどい態度だったと思う。実際のところ、十歳ですでに普通の家庭教師では手に負えなくなっていたから、授業がおもしろくなかったのだけは事実で仕方がないのだけれど。

 だから、この世界には私の知的欲求を満たしてくれるものなんてないんだ、なんて思って、くすぶった欲望を持て余していた。
 そんなひねくれた私を疎まず愛してくれた両親にはとても感謝している。

 私がそんな日々から脱却して楽しく生きられるようになったのは、二つの出逢いがあったからだ。きっかけは一つ。
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