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新国王の誕生
しおりを挟む城の中は数十の兵のみで守られていた。
いつも国王におべっかを使っていた貴族は一人もいない。彼等は既に降伏したか、戦で負けて幽閉されている。
「国王陛下をお守りしろ!」
「帝国に寝返った裏切り者め!!」
どんな罵声を浴びせられようとどうでも良かった。やっと、全てが終わるのだから。
剣を握り、私は叫ぶ。
「暴虐を尽くした時代は終わる。私の手で、終わらせに来ました。」
マスターが、ルイが、ラダが、そして第二王子がはっと息を呑むのが聞こえた気がした。
きっと今の私は、酷く醜い顔をしているだろう。
何となく、そう思った。
「踊り子ぴょん、私が…」
「…कौमुदी」
魔力が、どくどくと流れ出た。
温かい、優しい光が辺りに満ちる。
男達が力を失い、バタバタと倒れる。
この魔法は、本来月の光を操るもの。しかし私は、月の光という魔力の強いものを利用し彼等を眠りに付かせた。
よろける私を、ルイが支える。
この魔法は…かなり消耗が激しい。だけど私はもう、本来関係のない誰かを殺すようなことはしたくなかった。
「無茶なことばかりして。」
カーラ師が怒ったような顔でこちらに近付く。
そして私の額に手を翳す。
「私は治癒魔法は使えない。けど、魔力を渡すことは出来る。」
緑色の温かい魔力に包まれて、少し身体が楽になった。
ふらつく身体に鞭打って私は進む。
兵は、今の者達だけのようで、城はガランとしていた。
重たい扉を開けると、王座に腰掛ける男がいた。この国の国王だ。
彼は私達をちらりと見る。そして私に目を止めると、
「シャーロット…。」
そう、呟いたのだった。
私が仮面を付けずに国王と会ったのは、公娼になる時だった。
あの時の王は、私には目もくれなかったというのに。
今目の前にいる男は、はっきりと母の名前を口にした。幼い頃はそうでもなかったが、年月を得て私は段々と母に似てきたようだ。
きっと、公娼になりたての、まだ少女だった私は今よりも母と似ていなかったのだろうと思う。
「国王陛下。貴方には、こちらの第二王子殿下に譲位していただきます。」
淡々と告げるも、国王は私の言葉など聞いていない。
王座から転がり落ちて、そして私には向かい走ってきた。マスターと、ルイが国王の腕を掴み止める。しかし国王はそれすらも意に介した様子は無い。身体を捻り、ただ私に向かい手を伸ばした。
「シャーロット!!!」
私はそんな彼の言葉を無視し…魔法を使って拘束した。
皇帝が憐れみと軽蔑の入り混じった顔で国王を見下ろす。
「言ってやらねば気がすまぬと思っていた言葉が、何も浮かばないな。一人の女に執着し国政を乱すとは…王の風上にもおけぬ。」
それだけをため息混じりに言った。
「カーラ、可愛い弟子の為に怒るのは分かるが手を出すなよ。我らが手を貸して良い場面ではない。」
「…分かってる。」
はあ、と溜め息がどこからか聞こえた。
一歩、第二王子が前に進む。私達は自然と道を開けた。ここからは彼がやらればならないからだ。
第二王子は拘束され動かなくなった父親に一言、
「父上…後は私にお任せください。」
それだけ言って、彼の頭上に乗せられた王冠を取り、自分の頭上に乗せた。
「…国王は乱心し、政治を行うことは出来ない。これより私が国王の座を継ぎ、戦によって混乱した国を治める。」
私の目を見て言った彼に、頭を垂れる。
「エイデン国王陛下、万歳!」
慌てたようにティーザー侯爵、ダルボット公爵が続いた。
「「エイデン国王陛下、万歳!!」」
マスターが『国王陛下』を誘導し、バルコニーへと出る。
集まった民衆が、彼の頭に乗る王冠を見て歓声を上げた。
「「「「「「「「 新国王陛下、万歳!! 」」」」」」」」
新しい時代の幕、開く音がした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
前国王は、前王妃と同じくかつては王城として使われていたという塔の中に幽閉された。
新国王はまず、国の混乱を抑えるために領地を持つ貴族の再編を行った。ティーザー侯爵とダルボット公爵には今までの倍の土地を、他早めに降伏をし戦で功績を出した貴族にも第一王子派、グロイスター公爵派の貴族達が持っていた土地を少しずつ分けた。
この戦で一番活躍したマスター、ロア君には貴族として叙爵しようという話が出たが…。
「私は良いや。踊り子ぴょんの所にいなきゃいけないし。」
「僕も、ラダと一緒に冒険者稼業を続けますので。」
と言って断った。
マスターは冒険者ギルドを辞めて、アドラーの騎士団長として正式に就任し、蒼蘭はロア君に任せる事となった。
「困ったな…。政治を一新する証に、能力のある者を新しい貴族にしようと思ったのだが…。勇者様は貴族にするわけにはいかないし…。」
「陛下、そんなことで悩んでるの?活躍した子達がまだいるよー?」
マスター達に断られて困った新国王は、マスターにそう言われ、ランダ、ルイを男爵として叙爵した。
ディーンは「俺にはそういう頭使うの無理。騎士になった方がマシ。」と断ったとのことで、ルイの護衛として雇われることとなった。
サヨはというと…「私はランダを支えます。」とのことで、叙爵を断ったのだという。女性が爵位を継ぐことに関してですら認める貴族は少ないのに、サヨが新しく叙爵されれば黙っていない者もいるだろう。そういった事情もあって、サヨのその申し出は受け入れられた。
そして…。
「アドラー公爵、そなたにアドラー領を返還する。そして、国境付近にある土地もそなたに任せる。…やってくれるな?」
アドラー領。
私のかつての故郷。そして国境付近の土地とは、あの村がある場所だった。
私は頷いた。
「謹んで承ります。」
母や妹を殺した民がいる土地だ。複雑な心境にならない訳では無い。
それでも、父が愛した民達だ。
彼等を守り、領地を発展させる。
きっとまた反発もあるだろうが…。あの頃の私と違い、頼もしい味方もいる。きっと大丈夫だ。
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