金になるなら何でも売ってやるー元公爵令嬢、娼婦になって復讐しますー

だんだん

文字の大きさ
上 下
129 / 136

あなたとなら死んでも良いと思っていた

しおりを挟む










「もう、良いです。クロウ様…。もう大丈夫です。」







私は尚も話そうとする彼の口を手で塞いだ。



彼の幼少期は恵まれないものだったと思う。そしてそれは、彼だけのせいでは無かった。



確かに、王妃と父は正式に婚約していた訳では無かった。しかし母と親しくなり、自分を恨む男が嫌がらせのように婚約する予定だった女を孕ませた。



全く関係のないことだという顔をするのは…余りにも身勝手ではないだろうか。

尊敬する父だが、私は父に対して憤りのようなものも感じる。



王妃は懸想する男に見捨てられ自分を汚した男の妻となり、その男の子どもの母となった。



どれだけ辛い思いをしただろうか。そしてそんな王妃の狂気を目の前で見ていた彼も…。

頬に落ちる涙は止められず、どうしようもない感情に飲み込まれそうになる。







「リリス…。こんな話をしてすまない。悪いのは全て私なのだ。私が……。」







確かに、この人に悪いところがなかったとは思わない。例え弟のほうが優秀であろうと、心を許せる相手が誰もおらず自分を認めてくれる人がいなくても、努力すべきだったのだ。



それが王族や貴族の務めであり、私情に流されることなく成すべきことを成すのが王というものである。



しかし、彼にそれを求めるのは酷だろう。先王に仕えていた良心的な貴族というのは当時既に宮廷を離れており、周囲には王に取り入り甘い蜜を吸おうと寄るような貴族ばかり。手本になる筈の国王ですら堕落しているのだから。



私は痩せ細った彼の手を握りしめた。

いつから食べていないのだろう。







「……クロウ様、これはリリスとしての最後の言葉になります。」







遠くから物凄い速さで走ってくる魔力を感じた。マスターだろうと思う。彼女は既に私に臣下の誓いをしてくれた。だからこそ、彼女が来れば私はアドラー公爵に戻らねばならない。







「投降して、どうか生き抜いてください。」







彼には生きていて欲しかった。これが私の本心だ。彼が息を呑むのが聞こえた。リリスとして、ただの女として生きることは私にはもう出来ない。

だがここで彼を亡くしてしまうのは、私には辛すぎた。







「……まさかそなたにそんなことを頼まれるとはな…。」









苦笑いをした彼がそっと私の頬に手を添えた。ひんやりとした手が私の体温を奪っていく。







「私の財産をくれと言うのならば、いくらでもくれてやるというのに。」







彼の言葉に首を振る。そんなものはいらなかった。弱々しい彼の微笑みが、私の望みを叶えることは出来ないと言っているようで恐ろしい。」









「リリス。愛してるよ。だからこそ、私がそなたの為に出来ることをさせてくれ。」







額をそっと撫でるように口付けられた。

冷たい唇に泣きそうになる。







「アドラー公爵令嬢。剣を持ちなさい。」







立ち上がった彼の瞳を見て思う。



あぁ…もう全てどうにもならないのだ。



あなたとなら死んでも良いと思っていたのに。







頬を涙が伝った。







しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

散々利用されてから勇者パーティーを追い出された…が、元勇者パーティーは僕の本当の能力を知らない。

アノマロカリス
ファンタジー
僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。 それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。 するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。 それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき… 遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。 ……とまぁ、ここまでは良くある話。 僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき… 遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。 「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」 それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。 なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…? 2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。 皆様お陰です、有り難う御座います。

処理中です...