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第一王子の過去
しおりを挟む私はこの国の王子として生まれた。
私が生まれた当時は、まだ父は皇太子であり、先代の国王は持病が悪化し、かなり弱っている頃だったと聞く。
先代の国王というのはこの国の長い歴史から見ればまともな王の部類だったと聞く。
そんな先王が弱り始めていた頃、父が次期国王として、動き始めた時分だったようだ。
私の母は、父を愛してはいなかった。年若い母には、どうやら別に婚約者となる予定だった男がいたらしい。その男のことを憎く思っていた父が、無理矢理母を手籠めにしたのだと母はよく語っていた。
母は私に無関心だった。というよりも私を避けていたのだろう。
たまに幼い私が近付くと、烈火の如く怒りそして泣いた。
「あなたなんて産まれなければ良かったのに。」
母の嘆きは深く、実家から付いてきたというメイドも私に対して厳しい態度を取っていた。
と言っても、私は王族だ。衣食住にも世話をしてくれる人間にも困ることはなかった。
ただ、誰にも愛されることもなく、宮廷を彷徨うように毎日を過ごしていた。
祖父が死に、父が王位を継いだ。
私が成長すると、母は今度は私に依存するようになった。初めは嬉しかったが、それが私に対する愛では無いと気が付いてからは母を避けるようになった。
母と婚約する筈だった貴族というのは、アドラー公爵だったと知ったのはこの頃だった。口さがないメイド達が噂をしているのを聞いた。
父とアドラー公爵は従兄弟同士であり、隔世遺伝なのか私は成長するにつれてアドラー公爵に似ていった。それこそ、親子のように。
宮廷で見る彼は、私の成長した姿のようで、子ども心にどこか恐ろしかった。
母は…父と婚姻を結んだ後も、私を産んだ後も、アドラー公爵を愛していた。私を産んだ後、母は民間では禁じられた香を良く焚いていた。
こんな話をそなたにすべきかどうかは分からないが…その香のせいで段々と錯乱していった母は、私の事をアドラー公爵との子どもだと思うようになっていた。
勿論、彼女は私を孕む前には、誰とも関係を持っていなかった。貴族令嬢としての矜持が高い母に、そんなことが出来るはずも無いからな。
私がアドラー公爵に似ていることが災いして、母の意識はどんどん混濁していった。
いきなり金切り声を上げたと思ったら、私を呼び寄せて抱きしめることさえあった。
私がそんな母から逃げるように会いに行かなくなると、恨み言の綴られた手紙が送られてくるようになった。
母は一度も皇后としての役目を果たしたことは無い。だからこそその役目を果たす者として、父が二番目の妻を娶るのは正常な流れだったと思う。
ハレムにいる女達は身分が低かったので、有力な貴族の娘から第二妃が娶られることとなった。
第二王子の産みの母となるその人は、優しい女性だった。彼女は私にも優しく接してくれた、唯一の大人だった。私は彼女に懐いた。得られなかった母の愛を彼女で埋めようとしたのかも知れない。
だが、母は彼女を酷く嫌っているようだった。
すれ違いざまに彼女を激しく罵る母を見ては止める。そんな日々が続いた。
弟が生まれた時は本当に嬉しかった。ハレムの女の中に孕む者はいたが、それは王族とは認められず、また私も会わせて貰うことはなかったから、初めて出来た弟に私は何度も何度も会いに行った。
幼い頃のエイデンと私は、どこにでもいるような普通の仲の良い兄弟だったように思う。
それが崩れたのは、優秀な弟がその力を示し始めた時からだった。
弟は私よりも優秀だ。
勉学は勿論、剣も、魔法も、私が弟に叶うことなど無かった。
宮廷の貴族達は、そんな私達を見て第二王子であるエイデンに期待するようになっていった。
私は…私は…母に愛され、周囲に期待を寄せられる弟に、次第に嫉妬するようになってしまった。
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