金になるなら何でも売ってやるー元公爵令嬢、娼婦になって復讐しますー

だんだん

文字の大きさ
上 下
120 / 136

心配

しおりを挟む






それからまた数週間が経った。王国内は順調に制圧していき、帝国軍がまだ制圧出来ていないのは王都とその周辺のいくつかの領地だけとなった。


制圧された場所の中には、領民自らが門を開けて帝国軍を招き入れるようなところもあり、民衆が帝国を歓迎するような動きも多かった。




「ここまで上手く行きすぎると拍子抜け。」




皇帝の伝令として来たカーラ師がつまらなさそうに言った。




「戦とは、上手くいく時には上手くいくものですから。」




苦笑いを浮かべつつ、そう答える。

上手くは行っている…たが、依然として第一王子は見つかっておらず、その気配すらも無い。


しかしこの鬼ごっこもあと少しで終わるだろう…。既に王都は目前であり、王国は風前の灯火だった。


第一王子派、グロイスター公派だった貴族の殆どは捉えている。中には不利と見るやこちらに寝返ろうとする者もいた。


第二王子はそういった者を捕らえ、監獄へと閉じ込めた。沙汰は追って下すという。


何人が生き残れるだろうか。


ふとそんなことを思った。

彼らの多くは、いずれ処刑されることになるだろう。中には、公娼をしていた時に客だった男もいた。私を見て固まった男達は今現在、監獄で口々に私への悪態を付いているらしい。


しかし、それを信じる者はいない。


私はもうすっかり、帝国に匿われていた哀れな姫君となっていたのだ。


民衆に嫌われていたリリスは、絵姿しか広まっていなかったこともあり、私と結び付けられることはなかった。というよりも数少ないリリスの素顔を知る者たちー宿屋の主等が、私とは別人だと言い張ったのだ。



「確かに似ているが、リリスはあのように勇ましい女では無かった。男に従順で、戦いを知らない白魚のような手をした女だった。だからアドラー公爵とは別人だ。」



彼らの言い分はこうであった。

彼等は王国がどうなろうと自分の商売に関わりが無ければ良いようで、帝国軍が正規の値段よりも色を付けた金額で泊まりたいと言えば、協力を申し出てきたのだ。





「次は…ここを攻める。」






第二王子が指差したのは、第一王子の直轄地。

彼が身を隠していると思われる場所だった。


歪みそうになる視界を必死に耐える。




「はっ…!」




頭を垂れる。揺らめく松明の火が目に眩しかった。




『リリス。愛してる。』




閨事での彼の言葉が、頭の中で響くのを聞こえないふりをした。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






はっと、すっかり冷たい風を吹かすようになった空を見上げた。


大事なあの人が、どこかで呼んでいるような気がして。


彼女は元気にしているだろうか。あんな…戦場にまで連れてこられ、怪我などしていないだろうか。


いつの間にかいなくなってしまった彼女が心配だ。


エイデンとアドラー公爵令嬢の率いる軍に追い詰められ、国内にまで帝国軍の侵攻を許してしまった。


まさか…エイデンが裏切るとは思っていなかった。いや…それは私の思い上がりか。彼は私を恨んでいるだろう。私がエイデンにしたことを思えば仕方のないことだ。




「殿下…どうかなさいましたか。」




王宮から付いてきてくれた男…元は王宮の衛兵だったアダムスが私を心配そうに見た。

彼には私が無能の王子として王宮にいた時より良くして貰っていた。これ以上迷惑をかけたくないと、何度も逃げるように言ったが付いてくると聞かなかった。




「いや、何でもない。」

 



忠臣と呼べるのは、このアダムスだけだ。皆、こちらが不利と知るや真っ先に逃げていった。


残った貴族達は、王国が負けるとは信じていない愚かな者達だった。

この戦争は、グロイスター公が死に、第二王子が帝国についた時点で終わっているというのに、彼等はまだ神の力とやらを信じており、王国の負けを認めようとはしない。


そういった者から帝国軍に捕らえられ、順にいなくなっていったが。


私に残された兵はもう…千人ほどしかいない。しかし、その千人すらも兵糧が無く医事するので精一杯だった。


私の領地は、豊かではない。


父上に譲られたこの土地は、非常に痩せた土地であり、穀物の実りが悪かった。




「でんか、これ食べてください。」 




歩いていると、小さな少女が自分が食べる筈であったろう赤い果実を私に渡してきた。



「これは…お前が食べなさい。」



「いいの。でんかはわたしたちのためにたたかっているのですから、これはでんかがたべてください。」



やせ細った少女の手首に、心が痛んだ。

赤い果実を受け取ると嬉しそうに笑って走って消えていった。


領民が飢えようと何をしていようが興味が無かった過去の私を悔いる。


きっと私に出来ることは沢山あった。怠けずに出来ることをしていたら違っただろうか。


父上は民に興味がない。王とはそういうものなのだと思っていたが、もっと民に…国に興味を持っていれば、この戦も違った結果になったかも知れないというのに。




「アダムス。半分入るか?」



「殿下…ここ数日何も口にしていないでしょう。私は大丈夫ですから、お食べください。」



「私は良いんだ、もう良いんだよ。アダムス。」




もうすぐ、この戦も終わりを迎える。


私は逃げるわけにはいかないが、せめて…ここまで私に付いてきた者達は救いたい。


グラリ、と膝が落ちそうになったのを誰かが支えてくれた。




「王子様、大丈夫か?」


「勇者様、すみません。」




アダムスかと思ったが、勇者様だった。

彼等も二人共、私に付いてきてしまっていた。彼等にはもうとっくに、この戦は魔王軍との戦いではないことを伝えていた。


しかし、二人共、



『知ってたよ、そんくらい。』


『でも、今更王子様を一人に出来ないだろ?』



と言って側にいてくれたのだ。




「無理すんなよ!飯もちゃんと食え!」




王子として王宮にいた時には感じたことの無かった人の温かさを感じ、言葉に詰まる。

結局、心配だからと天幕まで付き添われてしまった。


先程、斥候から戻ってきた者の話によれば、第二王子と帝国の連合軍はこちらに向かってきているという。


アダムスにはもう伝えなかった。


彼に言えば、何とか私が生き残れるように策を講じるだろう。だけど私は、もう終わりにしたかった。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...