金になるなら何でも売ってやるー元公爵令嬢、娼婦になって復讐しますー

だんだん

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心配

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それからまた数週間が経った。王国内は順調に制圧していき、帝国軍がまだ制圧出来ていないのは王都とその周辺のいくつかの領地だけとなった。


制圧された場所の中には、領民自らが門を開けて帝国軍を招き入れるようなところもあり、民衆が帝国を歓迎するような動きも多かった。




「ここまで上手く行きすぎると拍子抜け。」




皇帝の伝令として来たカーラ師がつまらなさそうに言った。




「戦とは、上手くいく時には上手くいくものですから。」




苦笑いを浮かべつつ、そう答える。

上手くは行っている…たが、依然として第一王子は見つかっておらず、その気配すらも無い。


しかしこの鬼ごっこもあと少しで終わるだろう…。既に王都は目前であり、王国は風前の灯火だった。


第一王子派、グロイスター公派だった貴族の殆どは捉えている。中には不利と見るやこちらに寝返ろうとする者もいた。


第二王子はそういった者を捕らえ、監獄へと閉じ込めた。沙汰は追って下すという。


何人が生き残れるだろうか。


ふとそんなことを思った。

彼らの多くは、いずれ処刑されることになるだろう。中には、公娼をしていた時に客だった男もいた。私を見て固まった男達は今現在、監獄で口々に私への悪態を付いているらしい。


しかし、それを信じる者はいない。


私はもうすっかり、帝国に匿われていた哀れな姫君となっていたのだ。


民衆に嫌われていたリリスは、絵姿しか広まっていなかったこともあり、私と結び付けられることはなかった。というよりも数少ないリリスの素顔を知る者たちー宿屋の主等が、私とは別人だと言い張ったのだ。



「確かに似ているが、リリスはあのように勇ましい女では無かった。男に従順で、戦いを知らない白魚のような手をした女だった。だからアドラー公爵とは別人だ。」



彼らの言い分はこうであった。

彼等は王国がどうなろうと自分の商売に関わりが無ければ良いようで、帝国軍が正規の値段よりも色を付けた金額で泊まりたいと言えば、協力を申し出てきたのだ。





「次は…ここを攻める。」






第二王子が指差したのは、第一王子の直轄地。

彼が身を隠していると思われる場所だった。


歪みそうになる視界を必死に耐える。




「はっ…!」




頭を垂れる。揺らめく松明の火が目に眩しかった。




『リリス。愛してる。』




閨事での彼の言葉が、頭の中で響くのを聞こえないふりをした。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






はっと、すっかり冷たい風を吹かすようになった空を見上げた。


大事なあの人が、どこかで呼んでいるような気がして。


彼女は元気にしているだろうか。あんな…戦場にまで連れてこられ、怪我などしていないだろうか。


いつの間にかいなくなってしまった彼女が心配だ。


エイデンとアドラー公爵令嬢の率いる軍に追い詰められ、国内にまで帝国軍の侵攻を許してしまった。


まさか…エイデンが裏切るとは思っていなかった。いや…それは私の思い上がりか。彼は私を恨んでいるだろう。私がエイデンにしたことを思えば仕方のないことだ。




「殿下…どうかなさいましたか。」




王宮から付いてきてくれた男…元は王宮の衛兵だったアダムスが私を心配そうに見た。

彼には私が無能の王子として王宮にいた時より良くして貰っていた。これ以上迷惑をかけたくないと、何度も逃げるように言ったが付いてくると聞かなかった。




「いや、何でもない。」

 



忠臣と呼べるのは、このアダムスだけだ。皆、こちらが不利と知るや真っ先に逃げていった。


残った貴族達は、王国が負けるとは信じていない愚かな者達だった。

この戦争は、グロイスター公が死に、第二王子が帝国についた時点で終わっているというのに、彼等はまだ神の力とやらを信じており、王国の負けを認めようとはしない。


そういった者から帝国軍に捕らえられ、順にいなくなっていったが。


私に残された兵はもう…千人ほどしかいない。しかし、その千人すらも兵糧が無く医事するので精一杯だった。


私の領地は、豊かではない。


父上に譲られたこの土地は、非常に痩せた土地であり、穀物の実りが悪かった。




「でんか、これ食べてください。」 




歩いていると、小さな少女が自分が食べる筈であったろう赤い果実を私に渡してきた。



「これは…お前が食べなさい。」



「いいの。でんかはわたしたちのためにたたかっているのですから、これはでんかがたべてください。」



やせ細った少女の手首に、心が痛んだ。

赤い果実を受け取ると嬉しそうに笑って走って消えていった。


領民が飢えようと何をしていようが興味が無かった過去の私を悔いる。


きっと私に出来ることは沢山あった。怠けずに出来ることをしていたら違っただろうか。


父上は民に興味がない。王とはそういうものなのだと思っていたが、もっと民に…国に興味を持っていれば、この戦も違った結果になったかも知れないというのに。




「アダムス。半分入るか?」



「殿下…ここ数日何も口にしていないでしょう。私は大丈夫ですから、お食べください。」



「私は良いんだ、もう良いんだよ。アダムス。」




もうすぐ、この戦も終わりを迎える。


私は逃げるわけにはいかないが、せめて…ここまで私に付いてきた者達は救いたい。


グラリ、と膝が落ちそうになったのを誰かが支えてくれた。




「王子様、大丈夫か?」


「勇者様、すみません。」




アダムスかと思ったが、勇者様だった。

彼等も二人共、私に付いてきてしまっていた。彼等にはもうとっくに、この戦は魔王軍との戦いではないことを伝えていた。


しかし、二人共、



『知ってたよ、そんくらい。』


『でも、今更王子様を一人に出来ないだろ?』



と言って側にいてくれたのだ。




「無理すんなよ!飯もちゃんと食え!」




王子として王宮にいた時には感じたことの無かった人の温かさを感じ、言葉に詰まる。

結局、心配だからと天幕まで付き添われてしまった。


先程、斥候から戻ってきた者の話によれば、第二王子と帝国の連合軍はこちらに向かってきているという。


アダムスにはもう伝えなかった。


彼に言えば、何とか私が生き残れるように策を講じるだろう。だけど私は、もう終わりにしたかった。



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