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あの人はどこに

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遠くに魔力の蠢きを感じた。私の知っている魔力は無い。何回目かのそれに、私は苛立ちも感じつつも、ほっと息を吐いた。




「また外れですわ。」




ラダの気落ちしたような声が、周辺に落ちた。


外れ…第一王子も勇者もいないその軍は、私達を撹乱させるためのものなのか、王国の各地に配置されていた。


当初、いると思っていた場所には第一王子はおらず、私達は数週間をかけて彼らの行方を追った。


このような策を講じるような人がまだあの軍に残っていたとは…と驚きつつも、彼と会わなくて良いことに安心ている自分がいた。


しかし…と私は後ろを振り返った。


そこには一万ほどの兵達が軍列を成していた。


しかし、これは集まった義勇軍の一部に過ぎない。


初めは何も無い荒原で行っていたこの戦は、次第に王国の中へと戦場を移した。


数ある砦を帝国軍はあっという間に制圧してしまった。私達も全く貢献していない訳ではないが、その殆どを帝国の将軍たちが率い、戦果を挙げていた。


彼らはまず、放っていた密偵を使った。王国の各地にいた奴隷達に呼びかけ、蜂起させたのだ。自分の国に帰るのだと勇んだ奴隷達は強かった。


そして、吟遊詩人を用いて私の悲劇が脚色されて各地で語られるようになると、民衆は私に同情した。更に、真の勇者ミキ様が王国から受けた非礼の数々が伝わると、帝国軍に合流する者が続々と現れ始めた。


そしてこちらが有利だと知るや、合流していた貴族達も多かった。


私達が帝国軍に付くと見ていた皇帝が用意していた策だと言う。合流しなければしなかったで、別の策を考えていたと言うのだから、あの皇帝はかなりのものだと思う。


これでは、第一王子に抗う術は無い。


王国内を逃げ回るように移動する第一王子だが、次第に勢いを落としていた。


帝国軍はと言えば、元よりグロイスター公やティーザー侯の土地は豊かであり、二つの領地で王国の持つ穀倉地帯の六割を占めている。数万の兵を食べさせるのに困ることは無かった。




「アドラー公爵閣下。」




細身の男が恐る恐る私に声を掛けた。




「あ、アスパラガス伯爵だ。」




すかさずそう言うのはミキ様だ。どうやらミキ様の世界にあったアスパラガスという野菜に似ているのだとかでそう呼んでいる。


彼も、1週間ほど前に合流した貴族だった。といっても、信用にある人物かどうかは怪しいもので、第二王子は暫く彼を重用するつもりは無いようで、任されているのは専ら雑用だった。




「どうかしましたか。」




「殿下より、ここの制圧を頼むとのことでした。」




諾と答えて、私はその第一王子がいない軍へと向かっていくのだった。




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