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制圧

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さて、王国軍の主力となりつつあった炎翼の導き手に勝利し、彼を仲間にした私達だったが、その後は冒険者の集まる陣営に攻め入り、制圧した。


流石に炎翼の導き手には参加させなかったが…非常に居心地が悪そうで、何とも言えない顔をしながら見ていた。


マックスマッハ号を初め、制圧した冒険者達は生け捕りにした。


本気で来る相手を生け捕りにするのは少し大変だったが、マックスマッハ号や炎翼の導き手の程の実力を持つ者はおらず、何とか全員を生きて捕らえることが出来た。


彼らは私達と同じ冒険者だ。出来れば殺したくなかったのだ。私の無茶なお願いを聞いてくれた皆には感謝しかない。




「踊り子ぴょん!終わったよ~!!」




マスターが大きく手を振るのを見て、振り返したのだった。





ーーーーーーーーーー





「戻ったか。しかし…よくもまあ、見事な戦果だな。」




第二王子に言われ、静かに頭を下げる。




「余裕!」




先程私が治療してすっかり綺麗になったマスターが、元気よく跳び跳ねた。何故跳ねたのかは分からない。特に誰も突っ込まなかった。




「…久しぶりだな。」



「はっ…。殿下もお元気そうで。」




ドヤ顔のマスターを無視して第二王子が目を止めた炎翼の導き手に話し掛ける。炎翼の導き手は恭しく頭を下げた。彼は貴族ではないと言っていたが所作が綺麗だ。きっと大きな商家など、それなりに良いところの生まれなのだろうか。


アドラー領にあった有名な商家といえば…と思い起こそうとして辞めた。詮索する必要も無いことだ。




「今後はアドラー公爵様の為、殿下の為にこの身を捧げる所存ですのでお願いします。」




その言葉に鷹揚に頷く第二王子は、すっかり人の上に立つことが板に付いたようで、国王然としていた。


あぁ、こうしてお兄様は国王になっていくのだろう。


幼い頃の私が少し寂しそうにしているのを心の中で感じ取る。仕方のない事だ、と出そうになった息を飲み込んだ。


この人の隣にいたかったのだろうか…。私は第二王子を、お兄様として慕っていた。結婚することは時が来れば当たり前に訪れる未来だと、そう思っていた。恋愛感情こそ抱いたことはないが、それでも淋しいものだ。


公娼をしていたことを…それを知っている人が沢山いる以上は、私は誰とも結婚出来ない。アドラー公爵家は、近縁の子どもを養子にして存続させることになるだろう。





「今日はもう休め。次は…ここを攻める。先鋒は…アドラー公爵、貴女が務めよ。」




地図の上で、第二王子が指し示したのは紅い翼の生えた獅子を模した紋章の描かれた場所だった。


ぐらり、と視界が歪む。





「踊り子ぴょん、大丈夫?」



「はい…大丈夫です。殿下、貴方に必ず勝利をお渡しします。」




倒れそうになったのを、マスターが支えてくれた。第二王子も私に何かを話しかけようとして…止めた。


そう、それで良い。


貴方は王になるのだから。臣下の一人にばかり心を砕いて良い立場に無いのだから。


私は大丈夫だ。

元より覚悟はしていた。


何年も何年も前から、あの人を殺すかも知れないと。


そんな覚悟をしていたではないか。


いつもの臆病を出して、彼が逃げてくれることを…私は祈るしか出来なかった。


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