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守られていた公爵令嬢
しおりを挟むバルド伯爵の死体はそのまま戦場で打ち捨てられた。あそこまで惨いことをする必要があったのかと言われると考えてしまうものがある。
エイデンお兄様には報告済みで、一言、
「そうか。」
とだけ言っていた。
伯爵が叫んだエミリア・ジェーン・アドラー。
今の私の名前だ。
もう名乗ることも呼ばれることも無いと思っていた名前。妹や母は死体が確認されていたのだろう…アドラーの家紋を見て伯爵ははっきりと、私がエミリアだと認識したようだった。
あの後、マスターの様子はいつもと変わりなかった。それが逆に、彼女の精神面を心配させる。
しかし、そればかり気にしていられる訳ではないのが今の現状だ。
私達は無事にティーザー侯、ダルボット公と合流した。勿論、子供達とも。
皆に事実を話すと驚かれたが、子供達はすんなりと受け入れてくれた。
「リル様は貴族だったのかー!どーりで動作が綺麗な訳だな!!」
ディーンの言葉に皆で頷いていた。
ルイは私が貴族だと知って、納得した反面複雑そうな顔をしていた。
それでも、私が誰であろうと関係ないと言ってくれた。
ディーン侯爵は、私に対し礼節を尽くしてくれるようになった。娼婦ではなく、公爵として扱ってくれた。勿論、未練が無いわけではないようだが…それでも立場を理解してくれた。
ダルボット公爵は…。
「そうか。大変だったな。アドラー公爵とは親しくしていた。これからは私が貴女の後見となろう。」
そう言ってくれた。
彼が後見となってくれるのならば心強い。娼婦として彼に接していた日々があるだけに、貴族として扱われることに対して自分の中で違和感があったが、それでもやっと戻ってこれたのだという安堵もあった。
「ダルボット公爵様、ティーザー侯爵様、有難うございます。」
そう言うと二人で顔を和ませた。
「アドラー公爵は…貴方を隠して正解だったな。」
ダルボット公爵がふと、そんなことを言った。
「隠していた…?お父様が私を?」
「貴族令嬢だった頃、他の貴族とは滅多に会わなかっただろう?」
「はい…令嬢としてそれが当たり前と言われていました。」
「それは違う。有力な貴族であれば、家にとって有意になる存在には娘を紹介するものだ…それを会わせなかったということは、貴女は守られていたのだよ。美しい貴女を狙う他の貴族からな。母君の二の舞いになはしないように気を付けたのだろうが…。」
ダルボット公爵にしては酷く雄弁だった。
そして父の想いを知り、胸が熱くなった。
お父様…。
そして、過去の母や父を知っているような口振りに不思議に思う。
「父と、母のことをご存知で?」
「ああ…貴女は聞いていないのか。あの時はまだ少女だったものな…。」
ティーザー侯爵と二人で、過去のことを少し、語ってくれた。
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