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バルド伯爵
しおりを挟む気持ち悪い…どうしてこの男が生きて、父が死んだのだろう。未だニタニタ笑う伯爵の顔をマスターが踏み潰す。
「ほんと、さいってー。」
冷たい目をしたマスターが、踏んだ足に力を込める。メリメリと喰い込んでいき、伯爵の顔が変形していた。悲鳴を上げる伯爵に、マスターが鼻を鳴らした。
「話しただろう!」
そう言う血塗れの伯爵に答えた。
「態度次第ですね。」
「くそっ!女如きが調子に乗って!!」
魔力が集まるのを感じた。
彼は回復魔法を得意としている。
そうはさせないと、私は先んじて発動した魔法で氷の刃を作り、彼の喉仏に当てた。
「余計はことはしない方が良いですよ。」
ちっと舌打ちが聞こえたが、伯爵の魔力が引いた。
「それで?アドラー公爵は結局は誰の命令で殺したのですか。」
「第一王子だ。」
ドクン、と心臓が跳ねた。
彼が父を殺す命令をした。実行がバルド伯爵の時点で分かってはいたが…。
「正確にはその背後で第一王子の意思を操った国王陛下とグロイスター公によるものだがな。しかし、あの王子がアドラーを殺せと命じたのは間違えがない!」
父に良く似た彼を思い出す。
あの人はそんな事が出来るような人ではないのは私が一番知っている。陰謀術中をかけられるような器用な人でもなければ、そんな頭もない。
どうしてあの人がそんな命令を下すことが出来たのだろう。そこまでして国王になりたかったのだろうか。一体どうして…。
もやもやとした思いが私を支配する。
「焦った王子を唆すのは簡単だった!アドラー公爵を殺すのと同じくらいな!!」
父は…立派な人だった。魔法もそれなりに使えたし、腕だって立つ方だった。
卑怯な手を使わなければ、こんな男に殺されるような人ではない。
「アドラー公爵は家族がそれはそれは大事らしかった。娘と奥方の名前を出したら血相を変えてわざわざ道を変えてまで助けに来るくらいにはな!お陰で簡単に事が運んだよ。」
父は…騙されたのだ。私達が危機に陥ってると思い助けに向かう道中殺されたのだと言う。
可哀想な弟…ヨハンも父と共に行動していた。もし別行動を取っていたとしても、幼いヨハンでは父の代わりを務めるのは難しく、結局家が取り潰しになっていた可能性もあるが…。
深い、深い溜め息が落ちる。
怒りに震えそうになる身体を抑え、私は伯爵を凝視した。
意図的に落石事故を起こし、父を殺した男はその後ものうのうと生き、宮廷を牛耳ろうと画策していた。
彼が第一王子に付いていたのは縁戚関係があるからではなく、単純に第一王子が操りやすい人間だったからだ。あの頃の第一王子は愚さの塊のような人物だったから、操りやすいのもよく分かる。
バルド伯爵は愚かな男では無い。自分が表立って動けば危険だと分かっていて王族を使った。
「…もう良いです。」
私がそう口にすると、バルド伯爵は解放されると思ったのか安堵したような顔をした。早く放せと身を捩る。
「私のことは知ってる?」
「知ってるぞ!蒼の使者だろう。騎士の叙爵を受けてた。」
その答えにマスターはフンッと鼻を鳴らした。
彼にとって、孕ませただけの平民の顔など覚えていないのだろう。そして…その子どもさえも記憶に残ってない。
マスターとお姉さんは良く似ている。
二人を知る人物ならば血縁関係が推測出来てしまう程に。
それでもこの男はお姉さんのことを思い出しもしない。
「…分かった。もう良い。」
自分の正体を明かした所でこの男は動じないどころか記憶を辿ってもマスター達の存在など出てこない。
それが分かったのかマスターも伯爵から脚を離した。
伯爵は激痛に顔を顰めつつ、すぐには治癒魔法を使おうとしない。先程の警告が効いているのだろうか。いくら治癒魔法が得意といっても、私とマスターにかかれば彼を瞬殺するのは容易い。
それが分かっているのか大人しかった。
「姫様!!勝手に進まないでください!!」
私の護衛にと付けられたエルフの男が慌てて走り寄ってくる。彼の部下の手に握られたものを見て伯爵が大きく咳き込んだ後、叫んだ。
「アドラー!!!!!!ということはお前はエミリア・ジェーン・アドラーか!生きていたか!!!」
魔力の動きを感じて私は彼の目を魔法にて穿つ。
のたうつ伯爵を見て少し胸がすっとしたような心地がした。
マスターがゆっくりと大きな斧を伯爵に向けて振り下ろし、彼の腕と脚を切った。
そのまま痛みに呻く伯爵の舌をナイフで切り落とし、エルフの男に向って転がした。
「姫様に害を成そうとした。この男を馬で引き摺れ。」
そう言った彼女は…いつもの明るさも無くどうしようもない気持ちを堪えているようにも見えた。
そんな惨いことを選択するのも彼女らしくない。しかし、この男がしてきたことを思えばこれでも足りないくらいだった。
伯爵はその後縛られ行軍する馬に繋がれ引き摺られた。
数時間後、何事かを叫びながら息を引き取ったという。
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