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嫌な男
しおりを挟む物凄い速さで駆けてゆくマスターを、馬を駆って必死に追い掛ける。それでもどんどん離されるその様子に内心舌を巻いた。
身体強化を掛けているとはいえ、馬より速く走るなんて一体どのような訓練をしたらそうなると言うのだろうか。
相変わらずとんでもない身体能力だ。
国内最強と言われるのも頷ける。
「踊り子ぴょん!どっち?!」
「右です!」
目の前に立ちはだかる兵達を次々と吹き飛ばしながら進むマスターの後ろを馬で駆ける。時折、マスターが打漏らした敵を片付けるのも忘れない。
大嫌いな魔力にどんどん近付く。
私はバルド伯爵とはもう久しく会っていない。
それでも、全身の毛が立つような気持ちを忘れられないのだ。
「いました。」
護衛を引き連れて戦場から引き上げる背中が見えた。数年前よりも二回りほど太ったその様子にどんな贅沢をしたらあんな風になるのだろうと、正直軽蔑さえ覚える。
護衛の兵達と伯爵の跨る馬を魔法で拘束する。
私の少し後ろには、帝国から借りてきた兵達がしっかりと付いてきていた。
いきなり動かなくなった馬に悪態を付く伯爵にマスターが飛び上がって襲い掛かった。
ゴン!!!
衝撃を受けた伯爵が馬から転げ落ちる。
鎧を着ていたが衝撃が身体に伝わったのだろう、酷くむせ込んだ後に血を吐き出し、こちらを振り返った伯爵の顔が青褪めていた。
「何だ一体?!」
焦点の定まらない瞳で自分に跨り拳を振り上げるマスターとそれを遠くから見る私を見詰めた。
「リリス……。」
呆然と呟いた顔の顔面にマスターの拳がめり込む。
「マスター、まだ殺さないでください。」
自分でもゾッとする程冷たい声が出た。
この男から受けた屈辱が忘れないと心が騒ぐ。
「分かってるよ~!踊り子ぴょん。」
任せて!と明るい声で言われるのが不気味だ。
「お、おい!リリス!!お前こんなことをしてただで済むと思ってるのか!ただの娼婦の癖に!!!」
「黙れ。」
マスターの拳が再度、彼の頬にめり込んだ。
「伯爵様…貴方に聞きたいことがあります。」
マスターに馬乗りにされている、憐れな伯爵と視線を合わせた。何を言われるのかと怯える男の姿は非常に滑稽だった。
「アドラー公爵を殺したのは貴方ですか?」
自然と笑顔が浮かんだ。
未だ怯た様子のバルド伯爵だったが、こちらを伺いながら喉がゴクリと動いた。
「言えば解放してくれるか?」
「貴方の態度次第ですが。」
そう言うと、一瞬瞳に光りが宿った男がベラベラと話し出した。
「アドラー公だろう?あの邪魔な男は私が処分した。勿論、その息子もな!!!」
処分、その言い方に腹が立った。一体どうして彼はこんな酷いことが言えるのだろうか。
「あいつは昔から調子に乗って…。求心力もあって邪魔だったんだ。陛下やグロイスター公が目を付けていたシャーロット嬢に手を出したのがあいつの失態らしい失態だな!女のせいで身を滅ぼすなんて、あいつらしい最期じゃないか。」
ニタァと笑った。
マスターに殴られて歯が抜けたその顔が気持ち悪くて、思わず顔を背けた。
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※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
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