102 / 136
それじゃあ逃がせないね
しおりを挟む私は馬を急がせ先頭に出て、尚も駆けた。
後ろから下がってください、なんて声も聞こえてきたけれど無視だ。
今は少しでも…自分の中の不安を消し去りたかった。
「पृथिवी」
大地が割れ、先頭にいた敵軍を飲み込む。
大地に呼び掛ける神代の魔法だと、師がいつか教えてくれたものだ。
もう一度唱えると、大地が元に戻る…人々を飲み込んだまま。
大地を操る魔力さえあれば人を生き埋めにしてしまう…。惨い魔法だとは思うが、この時の私には手段を選ぶような心の余裕なんて無かった。
私達が負ければ…マスターにも迷惑が掛かる。私に付いてきた子供達もどうなることか分からない。
大事なものの為に、誰かを傷付ける。その行動に何も思わない訳では無いが、戦場には何度も立った。覚悟は元より出来ていた。ただ、敵が変わっただけだ。
バルド伯爵の魔力は軍の後方にある。
あの嫌な気配がヒシヒシと感じられて不快になった。
バルド伯爵の兵達は主の気質を引いているのだろうか、私が女だと分かると下卑た笑みを浮かべて突っ込んでくる。
それを魔法でいなし、殺し、返り血を浴びた。
嗚呼…。
私に殺される瞬間、苦痛な表情を浮かべ死んでいく兵士達。
「何故あの女は魔力が尽きない!」
「まるで過去の王族のようではないか!!」
そう叫ぶ兵達を私は容赦なく剣で斬り捨てた。
王族のよう…か。
私は歴とした貴族の出身で、国王とは比較的近しい親族関係にある。
かつての王族は尽きることのない魔力があったと言われている。だからこそ、異世界から勇者を呼ぶなどという偉業を成し遂げてきた訳だが。
今の王族は弱体化した。
それは誰が見ても明らかなことである。
血が混ざり過ぎたことが原因だと言われているが…実際はどうなのだろうか。
私はさながら先祖返りとでも言うのだろうか。魔力量だけは多かった。
それこそ、エルフである師と並ぶくらいに。
「踊り子ぴょん!何してるのさ!!」
後ろから走ってきたのだろう、マスターが大きな斧を振り回す。
「マスター?!馬は?」
「走った方が早いから他の人にあげた!!」
相変わらずの無茶振りだ。そんなマスターに苦笑いが浮かぶ。
マスターの斧と私の魔法で敵の前線が崩れていき、焦った敵が後退し始める。
「マスター、この軍はバルド伯爵が率いています!逃がしてはなりません!」
私がバルド伯爵の名前を出すとマスターの表情が凍った。暫くして顔を上げた彼女は…嗤っていた。
「そっか。それじゃあ…逃せないね。」
大きな音を立てて戦斧が地面に突き刺さる。
そんなマスターを見て油断した敵数名が襲い掛かった。
握り拳を握ったマスターに私は強化魔法を掛けた。
地面をえぐりながら彼女が走っていく。
私は彼女に更に強化を重ねた。
「うはー、踊り子ぴょん、えぐいねぇ!!!」
良い感じ!と叫びながらマスターが敵に向って拳を突き出した。
どん!!!!!
人を殴ったとは思えない音が周囲に響いた。
殴られた敵はもう動かない。
「それじゃあ、行こうか。」
笑みを浮かべたままのマスターが、斧を持ち上げて言った。
14
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる