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それじゃあ逃がせないね
しおりを挟む私は馬を急がせ先頭に出て、尚も駆けた。
後ろから下がってください、なんて声も聞こえてきたけれど無視だ。
今は少しでも…自分の中の不安を消し去りたかった。
「पृथिवी」
大地が割れ、先頭にいた敵軍を飲み込む。
大地に呼び掛ける神代の魔法だと、師がいつか教えてくれたものだ。
もう一度唱えると、大地が元に戻る…人々を飲み込んだまま。
大地を操る魔力さえあれば人を生き埋めにしてしまう…。惨い魔法だとは思うが、この時の私には手段を選ぶような心の余裕なんて無かった。
私達が負ければ…マスターにも迷惑が掛かる。私に付いてきた子供達もどうなることか分からない。
大事なものの為に、誰かを傷付ける。その行動に何も思わない訳では無いが、戦場には何度も立った。覚悟は元より出来ていた。ただ、敵が変わっただけだ。
バルド伯爵の魔力は軍の後方にある。
あの嫌な気配がヒシヒシと感じられて不快になった。
バルド伯爵の兵達は主の気質を引いているのだろうか、私が女だと分かると下卑た笑みを浮かべて突っ込んでくる。
それを魔法でいなし、殺し、返り血を浴びた。
嗚呼…。
私に殺される瞬間、苦痛な表情を浮かべ死んでいく兵士達。
「何故あの女は魔力が尽きない!」
「まるで過去の王族のようではないか!!」
そう叫ぶ兵達を私は容赦なく剣で斬り捨てた。
王族のよう…か。
私は歴とした貴族の出身で、国王とは比較的近しい親族関係にある。
かつての王族は尽きることのない魔力があったと言われている。だからこそ、異世界から勇者を呼ぶなどという偉業を成し遂げてきた訳だが。
今の王族は弱体化した。
それは誰が見ても明らかなことである。
血が混ざり過ぎたことが原因だと言われているが…実際はどうなのだろうか。
私はさながら先祖返りとでも言うのだろうか。魔力量だけは多かった。
それこそ、エルフである師と並ぶくらいに。
「踊り子ぴょん!何してるのさ!!」
後ろから走ってきたのだろう、マスターが大きな斧を振り回す。
「マスター?!馬は?」
「走った方が早いから他の人にあげた!!」
相変わらずの無茶振りだ。そんなマスターに苦笑いが浮かぶ。
マスターの斧と私の魔法で敵の前線が崩れていき、焦った敵が後退し始める。
「マスター、この軍はバルド伯爵が率いています!逃がしてはなりません!」
私がバルド伯爵の名前を出すとマスターの表情が凍った。暫くして顔を上げた彼女は…嗤っていた。
「そっか。それじゃあ…逃せないね。」
大きな音を立てて戦斧が地面に突き刺さる。
そんなマスターを見て油断した敵数名が襲い掛かった。
握り拳を握ったマスターに私は強化魔法を掛けた。
地面をえぐりながら彼女が走っていく。
私は彼女に更に強化を重ねた。
「うはー、踊り子ぴょん、えぐいねぇ!!!」
良い感じ!と叫びながらマスターが敵に向って拳を突き出した。
どん!!!!!
人を殴ったとは思えない音が周囲に響いた。
殴られた敵はもう動かない。
「それじゃあ、行こうか。」
笑みを浮かべたままのマスターが、斧を持ち上げて言った。
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