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砂埃の中で
しおりを挟む砂埃の立つ中、私は王国軍と対峙していた。
第一王子は此処にはいない。どうやら、バルド伯爵の指揮する軍のようだ。伯爵の魔力を感じることが出来る。
「踊り子ぴょん…間違えた。アドラー公爵様。」
私のことをいつものように呼んだ後、呼び直したのはマスターだ。
「マスター、いつも通りで構いませんよ。」
二人きりの時は、と付け足すと彼女は困ったように微笑んだ。
「そんな訳にはいきませんよ~。貴女はお姫様に戻ったんですから。」
「お姫様だなんて、そんな柄じゃないですよ。マスターに他人行儀に振る舞われる方が淋しいです。」
「うーん…そこまで言うなら。」
と彼女はいつもの態度に戻った。
「踊り子ぴょん、私ね決めたの。」
ふわり、と音も無く跪く彼女に私は慌ててしまう。
「マスター?」
「貴女にこの身を捧げます。貴女の騎士として、生涯、貴女と共にあることを誓います。」
まるでお伽噺の騎士のようだ。
そう思った。
お伽噺の騎士は素敵な男の人だったが、彼女は美しい女の人だ。
まさか、彼女がこんなことをするなんて。
「マスター!お願いですから頭を上げてください。」
顔を挙げた彼女は…悪戯な笑みを浮かべていた。
「驚いた?」
「ええ…とても。」
いつもの様子に肩の力が抜けた。
「でも本当に決めたことだから、踊り子ぴょんが拒否したって勝手に付いていくから!殿下には了承済みだし~。」
いつの間に彼女はそんなことをしていたのだろうか。
「どうして…?」
「だって、踊り子ぴょん、一人にしたら死んじゃいそうだもん。」
あっけらかんと言われて戸惑った。
死にそう…?私が…?
少なくとも、以前より強くなった。確かにマスターよりは弱いかも知れないが…戸惑ってマスターを見詰めると、マスターが慌てた様子で両手を振った。
「踊り子ぴょんが弱いって話じゃないよ?精神的にさ、踊り子ぴょんって不安定なところあるじゃん?だから誰かが側にいないとって思って。踊り子ぴょんが甘えられる人も少ないから私が適任かな~なんて思って。」
馬鹿な私なりに考えたんだよ~そう言う彼女に私は小さく礼を言った。
確かに私が頼れる人は少ない。精神的な面でもマスターが側にいてくれるのは有り難かった。
いつも通り、何だかんだ人のことを良く見ているなと思う。
しかし彼女は蒼蘭のマスターだ。戦が終わればギルドに戻らねばならない。戦争のため、Sランク冒険者が軒並み外に出ている。依頼もかなり溜まっているだろう。
私はもう、金色の踊り子としてギルドに行くことは難しいかも知れない。
この戦で勝ったら、公爵としてアドラー領を治めなければならない。…かつて私の家族を殺し、私を殺そうとした領民達だ。背後にグロイスター公がいたとはいえかなり複雑な気持ちになるものの、領主にるかもしれないのだからやらない訳にはいかない。
そして万が一、この戦争に負ければ…私は処刑される。
第2王子も然りだ。
国を裏切ったのだ。処刑されて当然だと思われるだろう。
色々なことが頭に浮かんでは消えていく。
彼女に対する返事も出来ないまま、第二王子からの合図が届く。
遠くから上がったその火花を見て、私は前に一歩踏み出した。
「行きます。」
振り返り、帝国から借りてきた兵達に出陣の合図をした。
馬に跨り、駆ける。
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