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生き返ったアドラー

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第二王子に呼ばれて今いるメンバーで集まることとなった。何を言われるのか、それぞれが緊張した面持ちで彼を待つ。




「待たせたな。」




入ってきたのは…第二王子も皇帝だった。第二王子が周囲を見回し、口を開いた。




「先程皇帝陛下と話してきたことで報告がある。明日、出兵することとなった。」




遂にか…誰かが息を呑む音が響いた。

他の派閥の人々とは大して関わりが無かった、とは言えども第一王子の陣営が襲撃された際に助けた人々もいる。

私のことを女神だと言った彼らは私達のことを裏切り者と思うだろうか。

それとも…。


馬鹿な考えが浮かぶも否定する。


彼らが、今の王国の利権を捨ててまで、こちらに付くとは思えない。

昨日まで味方だった者が、次の日には敵だなんて歴史を振り返ればいつでもあることだ。そもそも、私は彼ら…第一王子派の味方では無い。


敵となっても仕方がないのだと思う。




「いよいよ、ですね…。殿下の味方の諸侯との合流はいつ?」



ロア君が一番最初に口を開いた。あの子達を気にしているのもそうだが、ティーザー侯爵やダルボット公爵の存在は私達にとってかなり大きい。



「明日、夕方に王国軍に仕掛ける…。ティーザー侯、ダルボット公をそれぞれここに配置し、我らの軍とで挟み撃ちにする。」



地図の上に駒を置いて説明を受けた。

王道といえば王道な作戦だ。古来より使い古された、特別なものなどではない。

しかし、第二王子が帝国に付いたと知らない王国軍にとっては痛手となるだろう。




「私達は帝国軍から人を借り、二つの軍に分かれることとする。一つは俺の率いる軍。そして、もう一つは…………」




第二王子と目が合った。

強い眼差しに射貫かれて、息が苦しくなりそうだった。




「アドラー公爵、貴女に指揮をお願いしたい。」




アドラー公爵、そう呼ばれたことで昨日、彼から受け取った物の重さを実感した。


昨日彼から貰ったのは戦旗だった。


それもただの戦旗ではない。


アドラー公爵家の家紋の入った戦旗だ。久し振りに見るその紋章に、懐かしさと嬉しさと…そしてあの日感じた無力感が再び蘇り、私を支配し昨日は話せなくなってしまったが…アドラー公爵と呼ばれた今も、同じ気持ちになる。





「アドラー公爵は今まで死んだと思われていたが帝国に保護されていた。王位継承権のある公爵家の姫君は、かつて王国の王族や貴族達に貶められて窮地に立たされ、帝国に保護を求めた。そして我らは姫君を保護した。」




淡々と皇帝が語るその筋書きは、私が公爵家の者として復帰するためのものだった。




「貴女はこの度、公爵として出兵する。…貴女の地位を取り戻し、家を再興する為に。」



「アドラーの生き残りとして戦場に立ってはくれないか。」




皇帝の言葉を第二王子が続けた。彼は、死んだ筈のアドラー公爵令嬢を生き返らせようと言うのだ。


家の再興は諦めていた私にとって、これはまたとない機会だ。叶わないと思っていた夢でもある。


そして第二王子にとっては民衆に対し、今までの支配者を廃するのに説得の材料になる。国が一人の昇叙に非道な行いをしたと、大きく知らしめるのに必要なのだ。


非道な扱いを受けたのは何も私だけではないが、本来高貴な身分の筈の公爵家の令嬢だったというのが、大きな話題性になるのだろう。




「分かりました。」




私がそう答えると、第二王子がホッとしたように微笑んだ。




「お帰り。……エリー。」




かつての愛称で呼ばれて思わず涙が溢れた。




「ただいま。エイデンお兄様。」




泣き崩れる私を、皆は温かく見守ってくれた。




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