99 / 136
生き返ったアドラー
しおりを挟む第二王子に呼ばれて今いるメンバーで集まることとなった。何を言われるのか、それぞれが緊張した面持ちで彼を待つ。
「待たせたな。」
入ってきたのは…第二王子も皇帝だった。第二王子が周囲を見回し、口を開いた。
「先程皇帝陛下と話してきたことで報告がある。明日、出兵することとなった。」
遂にか…誰かが息を呑む音が響いた。
他の派閥の人々とは大して関わりが無かった、とは言えども第一王子の陣営が襲撃された際に助けた人々もいる。
私のことを女神だと言った彼らは私達のことを裏切り者と思うだろうか。
それとも…。
馬鹿な考えが浮かぶも否定する。
彼らが、今の王国の利権を捨ててまで、こちらに付くとは思えない。
昨日まで味方だった者が、次の日には敵だなんて歴史を振り返ればいつでもあることだ。そもそも、私は彼ら…第一王子派の味方では無い。
敵となっても仕方がないのだと思う。
「いよいよ、ですね…。殿下の味方の諸侯との合流はいつ?」
ロア君が一番最初に口を開いた。あの子達を気にしているのもそうだが、ティーザー侯爵やダルボット公爵の存在は私達にとってかなり大きい。
「明日、夕方に王国軍に仕掛ける…。ティーザー侯、ダルボット公をそれぞれここに配置し、我らの軍とで挟み撃ちにする。」
地図の上に駒を置いて説明を受けた。
王道といえば王道な作戦だ。古来より使い古された、特別なものなどではない。
しかし、第二王子が帝国に付いたと知らない王国軍にとっては痛手となるだろう。
「私達は帝国軍から人を借り、二つの軍に分かれることとする。一つは俺の率いる軍。そして、もう一つは…………」
第二王子と目が合った。
強い眼差しに射貫かれて、息が苦しくなりそうだった。
「アドラー公爵、貴女に指揮をお願いしたい。」
アドラー公爵、そう呼ばれたことで昨日、彼から受け取った物の重さを実感した。
昨日彼から貰ったのは戦旗だった。
それもただの戦旗ではない。
アドラー公爵家の家紋の入った戦旗だ。久し振りに見るその紋章に、懐かしさと嬉しさと…そしてあの日感じた無力感が再び蘇り、私を支配し昨日は話せなくなってしまったが…アドラー公爵と呼ばれた今も、同じ気持ちになる。
「アドラー公爵は今まで死んだと思われていたが帝国に保護されていた。王位継承権のある公爵家の姫君は、かつて王国の王族や貴族達に貶められて窮地に立たされ、帝国に保護を求めた。そして我らは姫君を保護した。」
淡々と皇帝が語るその筋書きは、私が公爵家の者として復帰するためのものだった。
「貴女はこの度、公爵として出兵する。…貴女の地位を取り戻し、家を再興する為に。」
「アドラーの生き残りとして戦場に立ってはくれないか。」
皇帝の言葉を第二王子が続けた。彼は、死んだ筈のアドラー公爵令嬢を生き返らせようと言うのだ。
家の再興は諦めていた私にとって、これはまたとない機会だ。叶わないと思っていた夢でもある。
そして第二王子にとっては民衆に対し、今までの支配者を廃するのに説得の材料になる。国が一人の昇叙に非道な行いをしたと、大きく知らしめるのに必要なのだ。
非道な扱いを受けたのは何も私だけではないが、本来高貴な身分の筈の公爵家の令嬢だったというのが、大きな話題性になるのだろう。
「分かりました。」
私がそう答えると、第二王子がホッとしたように微笑んだ。
「お帰り。……エリー。」
かつての愛称で呼ばれて思わず涙が溢れた。
「ただいま。エイデンお兄様。」
泣き崩れる私を、皆は温かく見守ってくれた。
23
お気に入りに追加
147
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる