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泣いた?
しおりを挟む彼に貰った物を抱き締めて、私はその日一晩過ごした。
遠くから、誰かの声が聞こえてきたような気がしたが、答えることが出来なかった。ただ哀しみと、それとは違う、喜びにも似た感情が入り混じり、誰かと会話出来るようなそんな状態では無かった。
アドラー公爵令嬢だった頃の私がしきりに何かを叫んでいるような気がした。
グロイスター公が死んで、残る私の復讐すべき相手は、国王、バルド伯爵他第一王子派の貴族達、そして…。
お父様に似たあの人を思い出す。
あの人を憎いと思う気持ちと、庇うような気持ちが自分の中で渦巻いていた。
決して…決して許せはしない。
だけど…。
腕の中の物が、ずんと重くなったような気がした。これをどうするか、どう使うのが正解なのか、私の答えはもう決まっているというのに、何度も何度も考えてしまう。
これを使えば、きっともう私達は元の関係には戻れまい。
何も知らない娼婦のふりは、もう出来ない。
ぎゅっと抱き締めて、何も考えたくないと、それに顔を埋めて眠りに付いたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
目が覚めると、周囲が慌ただしく戦の準備を進めていた。
「踊り子ぴょん?」
マスターが私を見て慌てて駆け寄ってきた。
「泣いた?目が腫れてるよ。」
頬に両手を添えて、ムニムニと動かされる。
もう、この人は…。
「マスター、私はもう大丈夫ですから。」
そう言えば、ニカッと笑った彼女がぽんぽんと私の肩を叩いた。
「踊り子ぴょん、私は…踊り子ぴょんと一緒にいるよ。だって私達って、最高のパートナーだもんね♪」
肩を組んでそう言う彼女に、苦笑いが浮かんだ。
「そうですね。」
もう何年も、彼女には冒険者として助けられてきた。戦いの中では、彼女が何をしようとしているのか、言葉を交わさずとも分かる。
そんな関係が、心地良かった。
彼女には、戦闘面でも、精神面でも支えられてばかりだ。そしてそれは…私に娼婦のいろはを教えてくれた、あの人を思い出す。
この二人にはどれだけ助けられただろう。二人が母娘だったというのも、何か運命的なものを感じる。
「ずっと、側にいるから…私は貴女の味方だから…だから、全部が終わったらさ、お母さんのお墓参り、連れて行ってね。」
私、お墓の場所分からないからさ、彼女が寂しそうに言った言葉に私は頷いた。
全てが終わったら…マスターと一緒に、お姉さんに報告に行こう。マスターがいることは私にとっても救いになった。娼館にいたときから、私は彼女には世話になりっぱなしだ。
有り難いな…。
部屋に置いてきたあれのことを考えるとまた複雑な気持ちになったけれど。
それでも、私は…。
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