上 下
96 / 136

それぞれの気持ち

しおりを挟む






私は皆には全てを話した。


私がリリスだと言うことも、アドラー家の令嬢だったことも全部。

話し終えた後、重たい空気が流れた。


皆が私をじっと見つめていた。


もう、顔も隠さない。


そうすることの意味がもう無くなる。私はもう、覚悟を決めたのだ。


こそこそと生きるのは辞め、復讐をしなければならない。






「お姉様…お辛かったですわね。」




ラダが自分の顔のベールを剥がし、私に抱きついてきた。喉の痛みが少し増した気がした。


ラダも言うのだろうか。


彼女も覚悟を決めて、実はと話始めた。自分がラダだということを。彼女も国には思うところがあり、出来るならば復讐をしたいと。




そしてまた部屋に沈黙が落ちる。

マスターは何かを考えているようだった。




「…そっか。じゃあ、ロア君、君はさ、アルムブルクに帰ろうか。」




いきなり、そんなことを言い出した。それに反応したのは当の本人だ。




「どうしてですか!」




「話し聞いたでしょ?この戦争はごく私的な復讐の場になりかけているんだよ。関係者が全員国の偉い人だから戦争なんてものになっているけどさ。」



「つまり、僕は部外者だから去れと?それを言うならマスターだって!!!」



「…私はさ、もうこの際言うけど、バルド伯爵の私生子なんだ。」



激昂するロア君に、彼女は淡々と語る。バルド伯爵の名前が出てきた瞬間、驚いた顔をしたのは第二王子とラダだった。


全く似てないのだから驚くのも当然だ。




「母が死んだのは、バルド伯爵のせいだと思ってる。…出来る事なら殺してやりたいとずっと、ずっと思ってた。それがこんな形で叶うのならば、私は戦争だろうとなんだろうと利用するよ。殿下も踊り子ぴょんもラダも私も、そしてあの子達も。皆みんな戦争に参加する理由があるんだ。でも君は…そんなものないでしょう?」




マスターが続けようとするのをロア君が遮った。




「だけど、僕は騎士で…!!」



「それは国王陛下のでしょ。私達は陛下を裏切るんだ。騎士だろうと何だろうと、もう関係ないんだよ。もし騎士になったのにアルムブルクに帰ると角が立つなら、かかってきなよ。怪我でもさせてあげるから、裏切り者を捕らえようとして怪我を負わされたとでも言えば良いよ。」




殺気が部屋を包んだ。マスターのものだ。竦むほどの殺気に鳥肌が立った。


圧倒的な力。


彼女は確かに世界最強の一角だ。

しかし、それはロア君も同じこと。

彼は怯む様子もなく、マスターの殺気を受け止めていた。




「僕がそれを受け入れると?」




「受け入れてよ。」




「絶対に嫌です!」




激昂する二人の間に入る。




「二人共、辞めて下さい。」




二人を睨み付けると、少し落ち着いた。




「踊り子ぴょん…。」




マスターの考えは分かる。大事な仲間をこれ以上巻き込みたくない気持も。けれど、強引が過ぎるような気もした。




「マスター、落ち着いてください。ロア君、マスターの気持も分かってください。私だって、貴方をこれ以上巻き込みたくはない。」




彼は心優しい少年だ。

本当は戦争なんて似合わない。敵を殺す度に心を痛めているのは知っていた。




「…お二人共、勝手です!!僕はもうどうしようもないくらいに巻き込まれています。それに僕は……皆が大事なんです。僕のいない所で誰かが死ぬのは嫌です。」



「帰りなさいとお姉様とマスターに言われても帰りませんの?貴方は関係ないのですから大人しく帰りなさいな!!!」



それまで黙っていたラダまでが参加し始めた。

どころか、ロア君に掴みかかる。

揺さぶりながら帰れと叫んだ。




「嫌です!」



「どうしてそんな聞き分けのない!!!」



「貴方が好きなんです!!!!……あっ…。」




え?


私もマスターも第二王子もお互いに顔を見合わせた。


ラダも何故か顔を赤くしているしいつの間に?




「貴方、さっきの話を聞いていましたの…わたくし、娼婦ですのよ。」



「そんなことで、ラフィさんの何かが変わるわけではありませんから。だから僕に貴女を守らせてください。」




何故か甘い空気になり、困惑する。

こんな話をしていたかしら。




「んー、なんかもういいや。踊り子ぴょん、殿下、出よー?」




マスターがそう言うのに頷いて、私達は二人を残し天幕を出たのだった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...