金になるなら何でも売ってやるー元公爵令嬢、娼婦になって復讐しますー

だんだん

文字の大きさ
上 下
94 / 136

ラダの出自

しおりを挟む





第二王子の言葉を聞いた皇帝がふっと笑った。




「口約束が信用出来ないか…人間らしい言葉だな。」




エルフやドワーフなど、人間よりも長寿の種族というのは認知機能の衰えが来るまでも数百年…数千年かかることが多いらしく、口約束と言えども大事なことは忘れないものらしい。そして約束というのは必ず守るのだと言う。


反して人間というのは認知機能を保つことが出来るのはせいぜい数十年。またその時の都合で言うことを変えたり、約束を反故にすることもある。


人の中で育った第二王子や私達が口約束を信じられないと言うのはそういった生育環境によるところも多いだろう。




「ならば、契約書を作成しお互いの国で保管すると言うのはどうだろうか。」




妥当だと、そういうことになった。


すぐに皇帝が書記官を用意する。




「これから私とヨウラドウ公とで話し合い、内容を詰めていく。他の者達は外に出ていろ。」




とのことだったので私はマスター達と共に外に出た。用意して貰った空いている天幕の中で待機することとなった。

マスター達は固い雰囲気に当てられたのか、かなり疲れている。




「こんなことなら向こうに残って待ってれば良かったな~踊り子ぴょんは疲れてなさそうだね。」



「お姉様はお姉様ですから。」



何故かラダが自慢気に答えた。




「また君はそんな事を言って…。」




ロア君に呆れたように言われて、ラダがふんっと首を背けた。そんなやり取りをしている時だ。




「失礼する。」




天幕の中に、先程ラダを見て『私達の子供』と言ったのダークエルフの男が入ってきた。

着ている服や鎧の質が良く、かなり裕福な様子が伺える。帝国の中でもかなり上の身分の者のように思えた。




「あっ…。」




ラダが彼を見て戸惑ったように声を上げた。




「彼女と、少し話をさせて頂いてもよろしいだろうか。」



ラダを見ると頷いた。

退出して欲しそうな男を無視して私達も同席し聞き耳を立てる。ラダをこの男とだけにするのは少し心配だった。



「名前は…何という?」



「………ラフィですわ。」




少し考えた後、彼女は偽名を答えた。

マスターやロア君の前ではその名前で通っていたし、公娼であることは未だ内緒にしていた。


すっかりその名前にも慣れたと言っていた彼女は、公娼としての仕事をする以外はその名前を名乗っているようだった。




「ラフィか。良い名前だ。」




目元を和ませた男がそう言った。


良い名前と言われ、ラダもふっと嬉しそうに微笑んだ。ラフィと名付けたのは私だ。私が褒められたようで嬉しかったのだろう。




「お前の母親は誰だ?どこにいる?」


「母の名前は、ミューゼと呼ばれていたように記憶していますが、本当の名前なのか、今はどこにいるのかは分かりませんわ。わたくしは隣国から帝国に売られてきましたの。そちらの国でも王国と同じようにエルフが奴隷として売られていましたわ。わたくしの母は、娼婦として働いていましたわ。」


「そうか…。大変だったな。」



落胆したように見えたのは、気の所為ではないだろう。エルフというのは仲間意識がかなり強い種族のようだ。彼女の母親も救い出したかったに違いないが手がかりが無いのでは仕方ない。



「彼女が来たのは、王国から西の海を超えた先…センクックという名前の国だったと記憶しています。」



私がそう言うと、男が視線を私に向けじっと見つめた。



「お姉様、どうしてそんなことをご存知なのですか?」



ラダが首を傾げる。




「私は…それなりに教養を受けて育ちましたから。貴女と会った日もよく覚えています。」


「あれ?ラフィちゃんって、踊り子ぴょんの妹じゃなかったっけ?」


「血は繋がっていませんが…妹のように思っているので嘘ではないです。」




マスターの言葉にそう答える。


混乱してきた~とマスターが力なく言った。彼女には後で説明しよう。





「有難う。情報提供、感謝する。」




男は私に向かい頭を下げた。

私は公爵令嬢だったので、隣国の情報もそれなりに学んでいた。それ故にラダを連れてきた商人達の服装や言葉の訛から分かっただけだ。


礼を言われる程のものでもない。




「前皇帝の時代…帝国は弱体化し、子供達が誘拐されてしまうのを止めることが出来なかった。私も、仲間もそれを後悔している。ラフィ、そなたは私達の家族だ。今後国同士が敵となっても力になる。いつでも頼って来なさい。」




そう言う彼に、ラダは頭を下げた。

天涯孤独の身だった彼女にとって、その言葉は嬉しいものだったのだろう。少し涙目になっていた。




「疲れたろうから、今日はゆっくり休みなさい。また、会いに来ても良いだろうか。」


「是非来てください。戦況が落ち着いたら他のお仲間達も。」




ありがとう、そう言って出ていった彼の背中を見送った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...