上 下
93 / 136

同盟

しおりを挟む







皇帝は、家臣の反対を聞き入れず私たちを招き入れ、それでも文句を言い続ける家臣を天幕の外へと追い出した。





「すまないな。彼らは王国を選んでいるから。」





謝罪をされ、受け入れる。

王国も帝国も、戦争をしていて被害が出ているのはお互い様だが、それでも気持ちは分からないでもない。





「さて、同盟の話をしようではないか。」





座りたまえと言われ椅子を勧められ、一瞬、皆で顔を見合わせてから腰掛けた。

こちらもかなり大人数でおしかけてしまったが、難なく座ることが出来た。


ぐるり、と円卓に座った面々の顔を改めて見る。


亜人…と王国では呼ばれている人種の者が多い帝国らしく、臣下の者たちも人族以外に様々いるのが新鮮であった。




「ヨウラドウ公、そしてリリス嬢、そしてお仲間も…良くぞ来てくれた。こちらの誘いに乗ってくれたこと、礼を言う。」



「いえ…。そちらと同様、此方も考えあってのこと。礼には及びません。」




代表して第二王子が返した。




「本来ならば歓待の宴を開くべきだろうが…お互いそのような時間は無いだろう。早速たが本題に入らせて貰う。」




しんと静かになって、皆が皇帝を見つめた。




「貴殿らには、王国内にいるエルフや獣人の子供達の解放と、30年前に奪われた我らの土地の返還を願いたい。」



きっぱりと、皇帝が告げた。


その要求に第二王子が少し考えるような仕草をする。




「30年前というと……シエラの森か。」




シエラの森は帝国との国境近くにある森だ。強い魔物が多く、とてもではないが容易に人が足を踏み入れられるような場所ではない。深く薄暗い森で名産になるような植生もない。元々はどちらにとっても重要な森ではなかった。


しかし、百年前にダンジョンが出現し森の価値が変わる。


ダンジョンを求めて争いが起こった。それ以来、何度か衝突しては森の所有権は変わってきたのだ。




「あれは…我が国にとっても大事な資源だ。そちらの人民を返すのは吝かではないが…散り散りになってしまっている者達を果たして返せるものか…。」



「どちらも承認してくれれば、帝国はヨウラドウ公の王位継承を支援する。…そして、貴殿が王位に就いた暁には…そなたの子孫たちが我らに牙を向かない限り、友好を続けることを誓おうではないか。」




私は不敵に微笑んだ皇帝の言葉を止める。




「牙を向かない限り…とは、武力行使以外も入りますよね?その判断基準はどのように??そちらが攻めてきた場合は?」



「ふむ…人間にとってはそれが懸念事項になり得るのか。私はあと数千年は死なない。二百年前に産まれたばかりなものでな…。私が生きている間は、こちらから攻め入ることはないと約束しよう。武力行使以外のものは…話し合いで解決できないものならば仕方ないが。私も自国の民を守らねばなるないのでな。」




二百年前に産まれたばかり、か…。

長寿のエルフにとって百年、二百年は最近のことなのだろう。

だからこそ、師匠は五百年前の…以前の勇者と花しぐれのことが嫌いなのだと思う。戦争をしたのだから仕方ないと頭では分かっているだろうが…複雑な心境だろう。




「成程…それが本当ならば悪くない契約だ。だけど口約束だけでは信用できませんね。」




第二王子がきっぱりと告げた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...