金になるなら何でも売ってやるー元公爵令嬢、娼婦になって復讐しますー

だんだん

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決意

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戦場でグロイスター公の葬式は簡易的に行われた。


彼の最期の顔は、何かから解放されたように穏やかで、最後の時の凄絶さとは比べ物にならない。


葬儀の後、遺体を燃やし骨だけは王都へと運ばれた。


公娼リリスは一時は疑われたものの、兵達も公爵が自害したところを見ていたのですぐに解放された。


頻繁に使用していた香による精神的混乱ということで片付いたのだった。



女は為政者を狂わす、というのは本当かも知れない。


グロイスター公と話してそう思った。他の部分では男女の差別をしない父が、私や妹を信用できる貴族以外に会わすことの無かったのは、母に執着する貴族達を知っていたからだろうか。

未だ色々な疑問はあるが、それを聞き出す方法もない。


私の淡く紫色に発光する魔力を使って、小さな鳥を形作る。


それは高く高く飛んでいき、空に昇って見えなくなった。かつての魔法使い達が行っていた葬送の儀式だ。


彼は…グロイスター公はあの世で母に会うだろうか。


特別嫌いだと思ったこともない。好きという訳でもない。付き合いの短い人だったが、哀れには思う。


残された子どもや奥方は…これからどうなるだろうか。彼には男児が一人いるので大丈夫だと思いたい。例え復讐の相手の子供であろうと私のような被害者を増やしたい訳でない。




「リル、大丈夫か。」




黒い服を着た第二王子が心配そうに話し掛けてくる。今日は彼も戦場には出ていない。


まだ戦の途中だと言うのに。




「大丈夫です。…殿下こそご愁傷様です。」


「大人になってからは殆ど関わりのない伯父だったがな…。」




子供の頃は剣の稽古を付けてくれたりと優しい伯父だった、と過去を懐かしむように言う彼の隣に立つ。




「奥様や…お子様方は大丈夫でしょうか。」



「人をやって暫し隠れているようには伝えた。…あとは運次第だろう。伯父上も敵が多い人だったから。」




彼の子供はまだ幼い。一番上が確か…13歳の令嬢だった気がする。男児はまだ8歳。グロイスター公のように政界を生き抜くには余りにも幼かった。


私のしたことの結果だが…どうか逃げてほしいと思う。


夫人の実家まで行くことが出来れば王家の血筋を引く男児を守ってくれるだろうか。

正直運次第だと思う。


私も反乱の起こった後、母の実家であるウィスリー伯爵家へと助けを求めたが…助けてはくれなかった。今なら、王家との婚姻を断って公爵家に嫁いだ母のことをもしかしたら恨んでいたのかもと思うが、当時は絶望した。


グロイスター公の結婚の流れは分からないが、夫人の実家とそこまで関係性が悪くないことを祈るしかない。




「グロイスター公のお子が生きていれば、いずれ貴方の政敵にもなり得ますが、そこは宜しいのですか?」




彼がこのまま王位を望むのであれば、グロイスター公の子どもは政敵になる可能性があった。




「その為に恩を売った。私は自分の為に罪のない子どもを殺すような為政者にはなれないのでな。政敵になったとしたら受けて立つしかないだろう。」




彼がこういう人だから私は安心して彼の下に入れるのだろうと思う。




「これから言うことは、戯言と思って頂いて構いません。」



「なんだ?」



「一度、御前を辞させて頂きたいのです。」



グロイスター公亡き後、戦の最高司令官は、第一王子が指名された。

私は今の気持ちのまま彼の元へといるのは難しい。




「そうか…。私もお前に願わなければならないことがある。お前の師から授かったものを使ってはくれないだろうか。」




ずんと、カーラ師から貰ったペンダントの重さが増した気がした。第二王子も私と同じことを考えていたのだと驚きもした。




「マスターやロア君、他の子供達、それに味方となってくれている侯爵様たちは…。」



「それぞれに話を聞いて、付いてくるというのなら付いてこさせよう。自分の国を裏切る行為を無理にさせるわけにもいかない。」




かなりリスクのあることを彼は言った。為政者としては失格だ。


だがそれも彼の良さだろう。


何かあれば私が守る。




「帝国に…事情を話して味方となってもらい、王位を獲ろう。」




それが出来るのはグロイスター公の亡くなって、中央も戦場も混乱する今だけなのだと、強い眼差しで言う彼に、私は頭を垂れた。




「かしこまりました。殿下の王位の為、誠心誠意尽くさせて頂きます。」







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




その日の夜、私と殿下はそれぞれを呼び出して話をした。

戸惑う者もいたが、皆首を縦に振ってくれて安心する。



そして、最後にルーナの元へと向かった。




「……だから、私に王都へ帰れって言うの?」




今日は呼ばれていなかったのだろう。用意された天幕の中で寛いでいた彼女に事情を話し、身の安全を保障できなくなるので王都へ戻ってほしいと伝えたが、彼女は静かに怒っていた。





「随分と、身勝手な話じゃない。」



「本当にごめんなさい。だけど…。」



「嫌よ。」



きっぱりと、嫌と言われてしまった。




「私は、ここに、勇者の側に残るわ。」



「どうして。」



「私、オリオンが気に入ったの。………王都へ戻ったら、また客を取らないといけないでしょう。もう嫌なの。」




何年も何年も。自分を削りながら客をとる生活に飽き飽きとしたのだと、彼女は言った。



ただ…要は、年下の頼りない少年に恋をしたという話であるようだった。



分かったと言って、私は引き下がることしか出来ず、私の魔力を込めたお守りを彼女に渡すのであった。





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