金になるなら何でも売ってやるー元公爵令嬢、娼婦になって復讐しますー

だんだん

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再び戦場へ

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「貴女は何も悪くありません。」




私は、マスターに娼婦をやっていたことは言えなかった。


ただ、ローゼお姉さんにはお世話になったと、感謝していると告げた。


マスターもそっか、と繰り返し、涙を拭って言った。


戦争が終わったら、一緒にお墓参りに行こう。そう言ってマスターは立ち上がる。




「さてと、そろそろ遅いし、私達も寝ようか。」




疲れたしね!と伸びをするマスターはいつもの彼女だった。


マスターは気にして無いようだったが、私は…お姉さんをそんな目に合わせた貴族を許せそうに無かった。


そもそも14歳で出産って…いくら何でも身体に負担がかかりすぎる。そんな酷いことをするなんて。と思っていたが。


その貴族の名前を聞いて納得した。


バルド伯爵。


あのクソ男だ。


そもそも、あいつを許す気持ちなんて私にはない。

第一王子の派閥で大きな顔をしている貴族だ。


お父様や弟を巻き込んだ事故の、実行犯である可能性も高い。


許せない。


体中の血液がぐつぐつと沸騰しているような感覚で、頭がフラフラとする。


許せない、許さない。


黒い感情が私の体を支配するようなそんな心地がした。




――――――




それから開戦の時まで、勇者様の修行は続いた。


花しぐれが来てからというもの、魔法の習得スピードが明らかに上昇した。

元々、花しぐれの役割は勇者を強くすること、そして守ることなのだそうだ。

不安定だったミキ様の魔力の流れが落ち着いた。

彼女を通じて多すぎる魔力の制御をしているようだ。


ふらふらになりながらも毎日修行をするミキ様に、只管強くなるように指導する。そうしなければならないと、義務のように思った。


この国なんてどうでもいいと思っているのに。

やっぱり、守るべきものが多いからだろうか。


それに付き合ってくれるミキ様には、申し訳ない気持ちもある。


ランダ達には帰れと伝えるも、一緒にいたいと首を振られた。


同じくラダにも、



「戻りませんわ。そもそも戦える者は戦えと陛下の命令が国民に下りましたの。魔法が使える奴隷身分出身の公娼なんて良いように使われるだけですわ。だからわたくし、お姉様達と一緒にいますわ。」



と言われてしまった。

成る程、大分頭の悪い命令が出ているらしい。

国民で総当たり戦でもするつもりなのだろうか。

先日の休戦までとは打って変わった戦略に、怪しさも覚える。


一体、宮廷は何を考えているのだろう。



「どうも勇者が来たことによって帝国に勝てると思ってしまったようだ。」



マスター、ロア君、私、第二王子、そして王子の護衛…今は王子の軍の隊長になったベンがあつまり、今後の方針の確認等の会議を始める。


本当はティーザー侯爵やダルボット公爵も呼びたかったのだが、軍の再編で忙しいらしく欠席だ。

炎翼の導き手は公式にも立場的にも第二王子は派閥にいるという訳ではないのでそもそも呼んでいない。勧誘しても良いが、暫く様子をみたいところでもある。



「なるほどね~。」



さして興味も無さそうにマスターが言った。初めは形式上でも第二王子には敬語を使っていたのだが、共に過ごすうちに辞めたらしい。


マスターは貴族というか、国というものを信用していない節がある。

命令だから従っているが、第二王子が覇権を取れば嬉々として宮廷に刃を向けるだろう。

マスターの単騎での戦力は他には代えられない。女が最強、というのはこの国では認められないが実質的な最強はマスターだろうと思う。味方で良かった。




「それで、宮廷にいる勇者様はどの程度まで強くなったのでしょうか?」



ロア君が淡々と聞く。彼も国には思うところがあるらしく、少し批判的な態度が目立つ。



「情報によれば、ここ一ヶ月で大きな成長は見られていない。魔法は上級魔法止まりだそうだ。」


「上級魔法ですか?」



確か召喚されたばかりの頃に使えたのが上級魔法だった筈だ。それ以上が使えるようになっていないとは…。



「宮廷魔法使いでも上級魔法までしか使えないものが多くいる。最上級どころか神級魔法まで使えるお前が特別だよ。」



「成程。要は教える人がいなかったと。」



「ああ。第一王子は現在、勇者召喚の後遺症なのだろうか。魔力の回復が遅く中級魔法程度までしか使えなくなってしまったとのことだ。」



第一王子を思い出す。

あのような状態では魔法を使うことが命取りだ。

私が主治医なら中級魔法も絶対に使わせないが…。




「それってかなり危なくない?」




魔力を使いすぎた時の後遺症については、使える魔力の少ないマスターさとは良く分かっているのか、顔を顰めた。




「下手をすると死にますよね。」



ロア君も同感のようだ。


下手をすると、というより第一王子は確実に命を削っている。私が復讐しなくても彼の命はそう長くないかもしれない。

私のために彼なりに考えてしてくれたことだ。

それを思うと何となく胸の辺りが重くなる。



「第一王子が魔力切れというのは我軍的には少し良くない状況かもしれない。あれでも魔力量だけで言えば随一だったのだから。」



第一王子はアホだし戦闘経験も殆ど無いが、魔力の量だけは多かった。

全面戦争で彼が魔法を使えないというのは痛手だろう。




「今度の最高指揮官は誰になるのですか?」




聞けば、第二王子は少し表情を暗くした。




「伯父上…グロイスター公だ。」



此処にきて出てきた名前にはっとする。

実績のある第二王子や、勇者を召喚した第一王子でなく、どうしてグロイスター公なのか。


分からないが決まったことなのだという。



嫌な予感がする。


私は思わず、窓の向こうに広がる青空を仰いだのであった。









それから数日、再び、帝国からの宣戦布告を受けた。




そして私達は戦場へと向かった。






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