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勇者の実態
しおりを挟む「久しいのお。リル。」
目が覚めると花しぐれが目の前にいた。
皆はどこに?と周囲をキョロキョロすると、近いところで気絶していた。
「何を.....。」
「我は呼んだだけで何もしておらぬ。我の魔力に当てられて酔ったのだろう。記憶もまだ覗いてはおらぬよ。今のお主を敵に回すようなことは我もしたくないでな。」
我でも消されかねん。とあっけらかんとして言っているが、戦ったとして果たして彼女に勝てるかどうか。今も普通に立っているだけなのに、威圧感のようなものを感じる。これに挑むなんて勘弁して欲しい。
消すなんてとんでもない。
「懐かしい世界の香りがして、思わず呼んでしまったが....今回の勇者は珍しくも女だったか。珍しいこともあるものよ。」
「今回の、ということは500年前の勇者は男性だったとして、その前の勇者もご存じで?」
疑問に思い聞くと、ふっと笑って昔を懐かしむような表情をした後、「うむ。」と頷いた。
「我は元々初代の勇者.....15代前の勇者に作られた存在での。勇者のために産まれ、この力を勇者のために使うことが定められた、哀れな精霊のなり損ないじゃ。」
ふわり、と花しぐれの小さな身体が浮き、ミキ様の元まで飛んで行く。彼女の額を優しく撫でながら、昔の話だ、と始めた。
「初代の勇者はの、本当に魔王と戦っていたのじゃ。もう何千年も前の話だが、あの時はこの世界の危機であった。我らは世界のために戦ったものじゃ......それがいつしか、勇者というものを利用する者が現れてな。戦争に利用する者が現れ始めた。....勇者召喚はこの国の王族がいなければ出来ない秘法じゃ。そして王族であっても才が無ければ勇者は呼べぬので、数百年に一度の頻度ではあったが.....。」
最初は、この世界の事情を知らない勇者を丸め込んで敵国を魔王軍と思わせ、戦わせる。
勇者が気付き反抗すれば仕方ない...弱みを握って従わせるか、亡きものにするか。
そんな手法が何回も、何回も繰り返されるようになった。
花しぐれは初代の勇者から、王家を守れと言われており、勇者不在の間はその約束を守りその側にあった。
しかし何度も何度も利用され、時には勇者を殺されてしまう。
そんな現実を憂いた花しぐれは、自分が王家から遠ざかり、勇者の伝説を広めることによって、勇者の存在を王家の者が思い出さないように、お伽噺の中のものだと思わせるようにしていたらしい。
「王家に残る文献も書き換えるか破棄した筈だったが、残っていたか。」
ポツリと言う彼女を、私はただ見つめていた。
「仕方ない、とは思うが悔しさも感じな。」
もう二度と勇者を召喚出来ない様に苦心したのに再び召喚されてしまったことに、花しぐれはショックを隠せていなかった。彼女はそれだけ歴代の勇者のことを大事に思っていたのだろうか。
「あやつとの約束も守れず、勇者も召喚されてしまった。我ながら情けない。」
「これからどうするのですか。」
「我は勇者がいればその側にあることを定められている。古の契約故破ることは出来ない。だからお前たちと共に行こうと思う。」
深い、深い溜め息と共にそう言った彼女は、愛おしげにミキ様を見ていた。
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