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好きだなんて、簡単に言わないでください。
しおりを挟む薄暗がりの中で互いの荒い息遣いが暫く続く。
何とか動けるようになると、起き上がり冷たい水を水差しからカップに注ぐ。
「ありがとう。」
礼を言って受け取った彼の、喉がごくりと動くのをぼーと見つめた。
お礼なんて言えなかった第一王子が成長したなあ、と彼の人としての成長に少し感動を覚える。
「どうして。.......どうして勇者様を呼んだのですか?」
口が勝手に動いて、ずっと思っていたことを聞いていた。
「......聞いていたか。」
「色々なところで聞けることですので。クロウ様、私だって少しですが魔法が使えます。だからこそ勇者召喚の魔法がどんなものなのか、どれだけ身体に負担になるかは分かっているつもりです。どうしてそんな危険なことをしたのですか。」
思わず畳み掛けるような言い方になってしまう。
語気が強くなってしまうのを抑えることが出来なかった。
勇者召喚は使う者にとってかなり危険な魔法だ。本来一人で発動するものでもない。数人の熟練の魔法使いが揃った上で行うならば兎も角、一人で行うなど自殺行為に過ぎなかった。
「お前のことを愛してるからだ。」
優しく言われて戸惑う。
「それは一体......?」
何に関係のあることなのだろう。戸惑いがちに見つめれば、ふっと笑った彼に頭を撫でられた。
「愚かな王子と言われている私でも大事な物がある。その為には手段を選ばない。.....私はお前と一緒になりたいと思っている。」
真剣な眼差しに、私は何も言うことが出来なかった。
「勿論、王位継承を諦めることも出来ない。私の王位継承は私だけの望みではないからな。だが、今のままでは私の力が弱すぎるから、お前を妻として向かえることは出来ないだろう?......だから勇者召喚をして手柄を立て、貴族達に認めさせたかったんだ。」
私を撫でる手が震えている。
馬鹿な人。
「クロウ様.....王位継承は本当に諦めることは出来ませんか?」
その自分の言葉に驚いた。
それでも、心のどこかで思っていたことだったのだろうか。自分でも不思議なくらいには自然に言葉が落ちていく。
「もし王位継承を諦めて下されば。私とどこかのどかな田舎や....国内が難しければ他国でも良いのですが。それならば私もクロウ様と共に....。」
こんなことを思っていたのか。私はそれ程までにこの人のことを好いていたのか。そんな疑問が心の中に浮かんでは消える。
自分の事なのに、全く考えてもみなかったことが何故か出てくることに驚き、戸惑いも覚える。
もしも、この人が王族で無かったら....復讐の相手で無かったら。そう考えたことが無いとは言えない。
「私を諦められないのなら、全てを捨ててください。」
「リリス....。」
困ったように見つめられ、言葉に詰まる。
こんなことを言ったところで無意味だ。彼は王位を諦められないし、私も彼を許すことなんて出来ない。
すっきり復讐出来る関係ならどれだけ良かっただろう。
この人の名前で秘密裏に指示が出され、お父様を殺した、ということは既に第二王子の調べで付いていた。
『リル、アドラー公爵の死について分かったことがあった。ティーザー侯が聞いた話らしいが....どうも兄上の名前で指示が出されていたようだ。.....落石事故に見せかけて亡き者にせよ、と。』
ショックを隠せないような第二王子の表情が思い起こされる。
それから彼は、第一王子のことを兄とは呼ばなくなった。
私としても、許せないという気持ちと何かの間違えだと思う気持ちがせめぎあう。
本当にこの人がそんなことを言うのだろうか。
「諦められないのなは、好きだなんて、簡単に言わないでください。」
色々な思いが混ざって涙を流す私を、第一王子は何も言わず優しく抱き締めていた。
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