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彼からの便り

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「勇者様のやる気が出たのは良いのだが。」



第二王子が非常に言いにくそうに申し出てきたことに、驚いた。



「先程、一ヶ月後に再戦すると帝国からの知らせが入った。今度は短期決着を求めるため全線力を集中させるそうだ。」



「は??」



無礼にも思わず出てしまった。聞かなかったことにして頂きたい。

しかし、どう考えても無理だろう。


国は今回は流石に介入してくるようだが、どうやって戦力の補充をするというのか。


勇者三人が劇的に強くなる可能性にでも掛けるのだろうか。


どうして戦争をしないように外交を進めないのか。


王国の外交官は何もしていないのか、戦況を楽観視しているのか、アホなのか何れかだろう。



「んっとー、つまり?」



全く話の見えてない少女に説明する。



「1ヶ月後に開戦です。あなたも戦場に立ちますので詰め込みで修行をしましょう。」


「ちなみにだが、お前がやるんだぞ。」



第二王子に言われて、仕方ないと頷く。


駄々を捏ねている場合でもないだろう。





ーーーーー



それから三日後。

場所は第二王子の直轄地、ヨウラドウに移る。



「せんせい、ちょっと、もう、むり。」



息を切らしたミキ様がバタン、とそのまま地面に倒れた。



「何を言ってるんですか。貴女がやると言ったんでしょう。ほら、早く立ってください。」



本来関係のない彼女にここまでやるのは非情とも思うが、そんなことを言い合う時間も惜しいのが今の現状だ。



「リル先生、流石に休憩した方が良いですよ。」



今回の休戦、そして再戦の知らせを聞いたのか、自分達にも何かさせてくれ、と言い出した者達がいた。戦争というものがどういうものなのか、身に染みて分かっているだけにこの国の現状に我慢出来なくなったのだろう。


ということでランダ他、お馴染みの三人が揃っていた。


四人は今は私の配下の者ということにしている。


勿論反対はした。したのだが。



『リル様は一人でいると無理ばかりしますので。』


『私達にも出来ることをさせてください。』



とのことで、押し切られてしまった。

断れば兵として志願すると言われてしまい、それなら私の目の届く範囲にいてくれた方が有難い、ということで今は私のサポートをして貰っている。


更には何故かもう三人。



「お姉様!素敵ですわ!」


「踊り子ぴょんきびしー。」


「踊り子さん、流石にそれはちょっと...。」



久し振りに会ったラダ、マスター、ロア君もいた。

マスターとロア君に関しては今は軍属なので兎も角として、何故ラダがいるのかといえば。



『もうお客様の相手をしたくありませんわ!暫くお休みすることにしましたの。やることも無いですしお姉様のお手伝いをさせて頂きます!』



とのことだ。


現在、数時間ぶっ続けで訓練をしていた。

勇者であるミキ様も肩で息をしている。

一緒に過ごすうちに仲の良くなったサヨが心配そうに見つめていた。



「分かりました。少しだけ休憩としましょう。」



私がそう言うと、周囲からほっとした雰囲気が伝わってきた。サヨがミキ様に駆け寄るのを横目に、私も休憩しようと第二王子から借りている休憩所に入る。


訓練を開始して三日。

ミキ様はやはり魔法の才能、そして武術の方にも才能があるようで、一般的に見ればかなり...いやあり得ないくらいのスピードで成長していた。


魔法が何かも分からなかったというのに、一度見た魔法をすぐに使うことが出来たりなど、常人とは持つ才能が明らかに違っていた。

しかし、一月という短い期限に焦る気持ちが勝ってしまい、どうしても厳しくなってしまう。



椅子にもたれ掛かり、はぁ。と溜め息を吐いた。


懐かしい魔力を感じる。


薄目を開けると、目の前に第一王子の筆跡で書かれた手紙が出現していた。

魔獣を使わないなんて珍しい。

わざわざ何処にいるかも分からない私に魔力だけを頼りに手紙を転送してきたというのだろうか。


こんなに器用なことが出来る人では無かったというのに。


リリス宛の手紙だ。


嬉しいような、見たくなかったような、複雑な気持ちがする。


すっかり頬もこけて見た目の変わってしまった彼を思い出す。


手紙には



『一月後、私も勇者様と共に戦場へ向かうこととなった。それまでに会えるのならば会いたい。』



と書かれていた。


あの第一王子が戦場に出るとは、どういった心情の変化だろう。


第二王子に確認を取ると、『あの兄上が?』と訝しむ様子はあったものの、情報を得るためにも行った方が良いだろう、という話になった。


勇者の訓練は二日間ほどならランダやロア君、マスターに任せることも出来る。


ルイには怒るかも知れないが、マスターに引き継ぎさえすればあとはなんとかしてくれるだろう。


ラダが何とか誤魔化してくれるかもしれない。


キャラの濃いメンバーばかりを城に残していくのも心配だが....今は第一王子を優先したい。


先程までは訓練、訓練と焦っていたというのに、身勝手なものだと自嘲して、マスターに外出を伝える為に部屋を出ることとしたのであった。



マスターは、



「外出?いきなりだねー。」



と驚いた様子であったものの、快諾してくれた。



「踊り子ぴょんのいない間に魔改造しておくから!」



背中に投げられた言葉に若干の不安を覚えつつも私は急ぎ、王都へと向かうのであった。




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