金になるなら何でも売ってやるー元公爵令嬢、娼婦になって復讐しますー

だんだん

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勇者?馬鹿じゃないの

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帝国との停戦が知らせられたのはそれから数日後のことであった。 



ティーザー侯爵が停戦するかも、と言っていたがまさかこれ程早いとは。



急なことで、全員が戸惑いを覚える。



異例なほど早期の停戦に、師匠のニヤリと笑った顔が思い出され薄ら寒さすら感じた。







「最低限の兵のみを残して、私は急ぎ王都に帰還せよとのことだ。嫌な予感がする。お前も共に来い。」







第二王子にそう言われ、頷く。



 









ーーーー









第二王子、護衛数人を連れて転移し、急ぎ王都に戻る。



門を潜った瞬間、お祭り騒ぎの街を見て戸惑いを隠せない。

道行く人々が笑顔で露店を開き、楽しげな音楽まで流れていた。



戦に勝ったわけでもないというのに、一体どういうことなのだろう。



気になるが、今は調査よりも先に城に戻るとのことで急ぎ王城に入る。



最低限の身だしなみを整えてから、王座の間に呼ばれた。



私に何故いるんだ?と注目する貴族もいる中、目の下に隈を浮かべた第一王子を見つけた。



彼は何かをぶつくさと言っており、私には気が付いてない様で安心する。それでも念のため、と第二王子の後ろにそっと隠れた。







「良く帰ってきた!我が息子よ!」





まだ昼間だが既に酔っているのだろうか。顔を赤くした国王陛下が上機嫌に言った。







「国王陛下におかれましてはご機嫌麗しく。」





恭しく礼を取る第二王子の姿は息子というよりも臣下のようだ。





「此度の戦にはお前も苦戦していると聞く。憎き帝国め。しつこく攻めてきおって。」





「陛下にご心労をお掛けしてしまい申し訳ありません。」





淡々と対応する第二王子に流石だなと思う。

内心は苦戦してるのはお前らが援軍を寄越さないからだよ、と思っているのだろうが。





「めでたいことがあったのでな。お前も呼んで祝おうと思って。」





何の脈絡もなく酔っ払った勢いで急にそんなことを言い出す国王に、この国の斜陽の原因を見た。



国王がこれではお父様が生きていてもこの国が以前のような大国になるのは難しかっただろう。と考えていることが知られれば不敬罪で罰せられるようなことを思ってしまう。





「慶事があったのですね。」





淡々と対応する第二王子には感心してしまう。





「そうだ!伝説の勇者様がこの国を救ってくださると言うのだからな!」





は?勇者?馬鹿じゃないの?

そう口に出さなかったことを誉めて貰いたい。いきなりそんなことを言う陛下を、第二王子も訝しげに見つめる。





「五百年程前に我が国を魔の手から救ったという、あのお伽噺の勇者でしょうか?」





一般の認識はそうだ。

勇者と言われてすぐに受け入れられる方が珍しい。



私の脳裏に花しぐれが浮かぶ。彼女はかつて勇者と共に旅をしたと言っていた。

そんな話を聞いていたので実在したことは知っているが、かといってすぐには受け入れることが出来ない。





「そうだ。かつて憎き魔王の手から我々を救ってくださった勇者様が、また私達を救ってくださるのだ。」





「しかし陛下。その人は本当に勇者なのですか?」





騙されているのではないか、と案に告げるが、陛下は何故か「あの方々は本物の勇者だ」、と自信満々だ。





「あの方々?勇者は複数人いるのですか?」



「ああ。二人おられる。一人、余分なものも付いてきたようだが、あれはあれで使い道もあるだろうて。」





全く話が見えない。



しかし、周囲の貴族もめでたい、めでたい、と馬鹿の一つ覚えのように言うばかりで要領を得ない。





「流石クロウだ。良くやってくれた。」





クロウ、という名前を聞いてハッと第一王子を見る。彼の名前はクロウだ。普段呼ばれることの少ない名前だが、王妃と国王陛下、そしてリリスのみがその名前を呼ぶことを知っている。



誉められた本人は聞こえているのか聞こえていないのか無反応だ。以前よりもやつれており、瞼の窪んだ大きな瞳をギョロギョロとさせており、まともな状態には見えない。





「兄上はどうしたのですか。かなりお疲れのご様子ですが。」





第一王子の余りの変貌ぶりに、第二王子も気が付いたのか尋ねる。





「クロウは伝説の魔法を読み解き、勇者召還を果たしたのだ。」





国王陛下が嬉しそうに言う。そしてまためでたいと繰り返した。





そんな馬鹿な。



確かにここ一、二年程様子のおかしいことはあった。忙しいとリリスを呼ぶ頻度が減り、疲労のためかよろけることも増えていた。



そして今の彼の状態を見るに、魔力を連日使いすぎた副作用の時に似ているが、まさかと思う。



彼は魔力量こそ多いが、使える魔法は上級階級の者の中でも平凡そのものだ。勇者召還の魔法など古代魔法の部類にも入るだろう魔法を扱えるとは思えなかった。



もしそれを達成しているのなら、彼は命を削って勇者を召喚した可能性もある。

魔法とはそういうもので、自分の力量に合わないことをすれば、その者の命を削る。



一体何故そんな危険なことを。

一人の魔法使いとしてそう思うが、今の私はリリスではない。第一王子に本当のことを聞くことすら愚か、近付くことも出来ない。



最も、リリスとしてこの場にいたとしても、あの様子の第一王子が女を抱けるとも思えなかった。

私が医者ならこの場に出ることも止めている。

そんな危険な状況であるというのに、誰も彼のことなど気にしておらず、城内は祭り騒ぎのよう浮かれた雰囲気で、それがどうにも不気味に思う。





「陛下、お言葉ですが今の私達は魔王軍ではなく帝国軍と戦っているのです。何故勇者様を?」



「お前は昔から本当に頭が固いな。勇者様は我々の世界の事情などご存じないのだ。私達が魔王だと言ったら帝国の憎き皇帝が魔王になるのだよ。」



「つまりは、ただの国同士のいざこざに、伝説の勇者様を巻き込むと?」





愚かな、という第二王子の内心が伝わってくるようであった。





「黙れ。それ以上はいくら王子とはいえ不敬に処すぞ。」





余りの言い分に開いた口が塞がらない。

この人たちは本気で言っているのだろうか。



その伝説の勇者とやらがどこから来たのかは私も知らない。



しかし、彼らを戦争に巻き込むことの意味は分かっていた。







「これで帝国との長きに渡る戦も終わるだろうて。都合良く向こうから停戦を申し出て来たところだしな。本当に馬鹿な奴らよ。」



「聖戦になさるおつもりですか。」



「聖戦?それは良い。そうだ、これは世界を亜人ども蛮族から救う戦争なのだ。」



「陛下!それは余りにも酷なことです!!」







第二王子が叫ぶも、その叫びは誰にも響かない。







「お前は口煩いな。今日は良い気分なのだ。もう下がれ。」



「陛下!」







抵抗するも衛兵に捕まれ、第二王子と共に外に出された。



一度頭を冷やしてから来いとの伝言があり、第二王子も頭を抱える。





「何と愚かな!」





その言葉が私には虚しく響いたのだった。



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