47 / 136
合流
しおりを挟む戦場へと向かう当日、私達は早朝に集まった。
戦場は王都からは遠く、今日出発しても時間が掛かってしまう。
転移魔法で行けるところまでは行けるが、それでもそこから馬を駆って4日程の距離だ。それでも飛翔魔法で短縮していこうかとは思う。
師匠との修行のお陰で、私の魔力量も上がっていた。三人、二日間程運んだだけでは尽きない。
急ぎ向かいたいので、というのは前もって二人には告げておいた。
二人とも私がそんなに急いでいるとはと驚いていたが了承してくれる。
「転移」
私が行けるなかで一番近い街付近に着いた。
息つく間もなくすぐに飛翔魔法で三人を浮かべる。コントロールも良好。この分なら問題なく行けるだろう。
たまに魔物が飛んでくることもあったが、特に問題なく撃退する。
飛んで行っても二日は掛かってしまう距離だ。仮眠や食事の為に所々で休憩を挟む。
夜になり、飛ぶと危険ということで
「行きたくない!!!」
マスターがここに来て駄々をこね始めた。
そんなの私だって本当は行きたくない。
ロア君も困ったようにマスターを見つめていた。
「行きたくないよ~。踊り子ぴょん。」
「そう言われましても。それなら行かなければとも言えませんし。」
国王の決定に逆らえば、良くて死刑。悪くて一族郎党関係者全員が捕らえられる。
捕らえられた後は酷い拷問を受けるのだとか。
マスターが拒否すれば私も巻き込まれる可能性が高い。勘弁してほしいところだ。
「分かってる。分かってるよ。」
「マスターは戦争とか好きそうだと思っていました。」
ロア君が言うが、マスターは首を振る。
「そりゃ、私は戦闘狂だし強い人と戦うのは大好きだよ。それでもさ戦争ってそういうのじゃないじゃない。多分。出たことないから分からないけどさ。」
「まあ、気持ちは分かりますね。」
戦争となれば、場合によっては戦意消失した敵を殺さなければいけないこともあるだろう。
「私はさ、人殺してして楽しむような血狂いじゃないんだよ。」
溜め息と共に吐き出した言葉が、私にも重くのしかかる。
私は自分の復讐や第二王子のことばかり考えていたが、人を殺すという実感は余り沸いていなかった。
かつて、追手から逃げる生活を送っていたときに、私は沢山の人を殺した。
あの時は生きることに必死で、人を殺したショックなんて感じる余地も無かったが、今はどうだろう。
「でも、仕方ないよね。王家に忠誠心なんて持ってないけど、私だってまだ死にたくないし、何よりもギルドの皆を守りたいもん。」
マスターが空に手を伸ばす。暫くすると
「ごめん!ちょっとめんどくさくなってた!話してスッキリした!」
踊り子ぴょん困っちゃった~?と茶化す彼女はいつものマスターだ。
「マスターが面倒臭くない時はありませんよ。」
ロア君の言葉に三人で見つめ合って笑う。
ーーーーー
第二王子のいる陣営が見えてきた。
陣営の見回り役が私達を見て、指差し何かを叫んでいる。
周囲のものがそれに合わせて空を見上げて武器を構え始めた。
「おっとおっと。踊り子ぴょん。何だか敵認定されるような感じがするよ?」
呑気な声に、
「そういえば飛んでいくって伝えてないですね。」
と思い出す。
「本気で言ってます?狙われてますけど!」
顔を青くしたロア君が叫んだ。
取り敢えずどこに降りようか考えながらも障壁魔法を展開する。
ビュンッ!と矢が飛んできて、障壁に弾かれて明後日の方向に落ちていく。
ゆっくり降り立つと、固い表情の兵士達が私を見て、
「明らかに怪しいやつだ。」
と騒ぎだす。
確かに金色の仮面は知らない人から見たらかなり怪しい。
どう説明しようか。話を聞いて貰えなさそうな雰囲気に、抵抗するつもりはないと両手を挙げてみるも効果はない。
「リル様。お待ちしておりました。」
そう群衆を掻き分けて来た男に安堵する。
第二王子の護衛の男ーーベンだ。
少々呆れたような表情をしているも、私に対して下げなくても良い頭を下げて丁寧に接してくれる。
私のことをリルと呼ぶのは、良く分かっているなと思う。
「踊り子ぴょん、顔見知り?踊り子ぴょんの名前ってリルじゃなかったっけ。」
「ちょっと古い知り合いでして。」
そう言えば、ふーん、と言いつつもそれ以上は聞いてこなかった。
「リル様。それにSランク冒険者のお二方。殿下がお待ちです。」
ベンに案内されて通された天幕には、笑顔を張り付けた第二王子がいた。
「良く来てくれた。長旅で疲れているだろうから今日は身体を休めてくれ。ベン、天幕に案内してやれ。」
さっと挨拶が終わって、ベンについて行こうとすると、
「そこの金色の仮面の変人は残れ。」
と言われて取り残される。ロア君が心配そうにしているのを手を振って、大丈夫だと伝える。
「随分な言い様ですね。殿下。....それよりも、良かったのですか?私と殿下が既知であるということを知られてしまいましたが。」
「お前が悪いんだろう。いきなり空から来るやつがあるか。......皆に知られることはもう気にしなくて良い。寧ろ、お前は俺の味方だと印象付けて欲しいくらいだ。」
「今後は金色の踊り子、リルとしてなら隠さなくても良いと。承知しました。」
戦争が始まったので状況も変わったのだろう。それ以上は聞く必要も無い。
Sランク冒険者と仲良くしているように見えた方が良い、と王子が考えたのだろう。
「他のSランク冒険者達は?」
「....お前達が一番最初だ。合流は明日以降になると連絡が来ている。」
私は他の街にいるSランク冒険者には会ったことがない。どんな人がいるのだろう。
「現状の戦況を伝えるが良いか?」
その言葉に、私は頷いたのだった。
40
お気に入りに追加
152
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる