金になるなら何でも売ってやるー元公爵令嬢、娼婦になって復讐しますー

だんだん

文字の大きさ
上 下
42 / 136

始まり1

しおりを挟む


『戦が始まる。今すぐ来い。』





第二王子の鳥がそう言ったのを聞いたとき、血の気が引いた。


前々からそのような噂を聞いていたし、第二王子からも言われていた。

王都や大きな都市では買い占めなども起きており、その話の確かさも静かに囁かれていた。


村にはネストラ婆様に私から忠告はしてある。


あそこには戦争に動ける成人の男性が少ないから、徴兵は最低限で免れる可能性がある。

しかし、学校で育てていた子ども達や魔法使い達が見付かれば全員軍に強制加入させられる可能性もあり、うまく隠してもらう必要があった。


半年前にアルムブルクに到着したランダ達は蒼蘭で冒険者登録をしている。冒険者は町を魔物から守る役割があるので、そう簡単には徴兵されないと聞く。


きっと大丈夫だ。


アルムブルクと村には後で行こう。

先に第二王子から情報を貰った後で遅くない。



「転移」



急いで転移して、ヨウラドウに向かう。

町の中は戦争の前だからだろうか。慌ただしく重々しい空気に満ちていた。

此処は交易の中心地。

戦になれば真っ先に忙しくなる地のうちの一つだ。


『リリス』として来たわけではないので、城の中に入ることは出来ない。

金色の踊り子はSランクの冒険者だが一般人の範囲を出ておらず、貴族の城には入れないのだ。


書いておいた手紙を転送し、私はいつも使うあばら屋に入る。



「待たせたな。」



暫くすると、第二王子があばら屋に入ってきた。

一応護衛の男を一人連れてきている。視線が合い、軽く目礼される。


彼は王子の古馴染みの一人で、幼い頃から彼に仕えている。公爵令嬢時代の私のことも知っていた。


寡黙な男で忠誠心が高く、決して王子の不利になるようなことはしない。


私が王子の味方でいる限り、彼は私にとっても無害な存在である。第二王子と再会してから今まで彼とも何度か会ったが、一度も私のことを公爵令嬢として扱うこともなければ、正体をばらすようなこともされていない。



「殿下。」



簡単に礼を取る。



「早速本題に入ろうか。ベン、外を警戒しておけ。」



「はっ。」



王子と二人で奥の部屋に入る。

二人でいてもそういう雰囲気になることは無くなっていた。


王子は私のことを臣下の一人として扱うようになっている。私も私で、王子のことを主君として見ている。


主君に誘われれば断ることは無いだろうが、もう誘われることもないだろう。何となく、そんな風に思う。



「伝えた通り、本格的に戦が始まる。帝国から宣戦布告があった。」



はっと息を呑んだ。言葉が出てこない。



「前線を仕切るのは俺だ。国王直々のご指名でな。」



少し皮肉ったような言い方をしているが、その顔には色濃く疲労が出ていた。



「ダルボッド公やティーザー侯は反対しなかったのですか?」



彼の周りには今、私と彼自身で作った味方がいる。ダルボッド公爵、ティーザー侯爵はその筆頭だった。


一年と少し前まで味方のいなかった彼だが、最近では宮廷でも発言権が増している。

第一王子は打って変わって部屋に引きこもることが増えており、私もたまに会うが窶れていっていた。



「反対してくれたが、父上の言だ。覆すには至らなかった。」



「陛下の......。」



国王には昔、公娼として指名された際に会ったことがある。

私の父とは従兄弟ということもあり、雰囲気はかなり似ていたように思う。



「兄上は前線には出れないだろう。グロイスター公は具合が悪いそうだ。」



第一王子が前線に出られないのは分かる。戦闘能力が他の二人に比べて余りにも低すぎるし、あんなのでも現状王位継承権第一位だ。

前線に出して殺されてしまっては王家の存亡の危機だ。


グロイスター公は仮病だろう。



「糞ですね。」



「言葉が悪いぞ。気を付けろ。」



誰かに聞かれでもしたら、今のお前が言えば首が飛ぶ、と小言が続く。



「気を付けますよ。大丈夫です。」



安心してください。と微笑むが、心底疑わしそうな視線を向けられる。


この兄貴分は私のことを何だと思っているのだろう。



「とにかく、まずは様子見だ。最初からお前を前線に連れていくつもりはない。」


は?


「何を言ってるんですか殿下。私も行きますよ。」



手駒は一つでも多い方が良いでしょう?と言えば、「それもそうなのだが。」と渋られてしまう。



「殿下。私は殿下に死なれては困るのです。殿下が反対しても行きますよ。」



元より戦への参加は私の中での決定事項だ。

その為に辛い訓練も耐えてきた。


第二王子は私の復讐の為には絶対に必要な人だ。危険な前線で死なれては今後の方向性が変わってしまう。


一人で第一王子やダルボッド公をどうにか出来るとは思っていない。


第一王子はアホだけどそれは個人の問題であって、依然宮廷では一番大きな派閥だ。

血統というのはそれ程に大きな力を持つ。

第一王子よりもはるかに能力の高い第二王子が上にいけないのもその為だ。




「はあ。分かった。お前は強情だから俺が反対しても勝手に付いてくるのだろう。........それでもお前に何かあれば亡きアドラー公や公爵夫人に顔向けが出来なくなる。」




深い溜め息を吐かれる。何かあればということであれば、現状娼婦をやっていたり冒険者になったことに関して父も母も生きて知れば卒倒しそうなものだが、第二王子的には死なずにいれば良いという考えなのだろうか。



「お前は俺の手駒の中での最高戦力のうちの一人だ。それを忘れるな。」



要は死ぬなということらしい。



「分かりました。」



私も簡単に死ぬつもりはない。



その後、王子が戦場に向かった後などの連絡手段の確認を行い、王子とは解散した。


 


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

処理中です...