金になるなら何でも売ってやるー元公爵令嬢、娼婦になって復讐しますー

だんだん

文字の大きさ
上 下
40 / 136

師との出会い

しおりを挟む


気絶した私は、暖かな光によって目覚めた。


パチパチと焚き火から鳴る音だけが静寂に響いている。



「起きた?」



気絶する前に見た女が私のことを至近距離で覗き込んでいた。綺麗な顔にドキリとする。


コクリと頷き、ゆっくりと起き上がる。



「助けて下さりありがとうございます。」



状況は分からない。

目の前のこの女が敵なのか味方なのかも分からないが、取り敢えず今のところ攻撃されるような様子もない。

しかし身体が痛すぎてまずは自分の治療をしないと、次の行動を決めることもままならない。

まだ身体は痛いが治療してくれたのだろう。幸い血は止まっているようだ。



「私、治癒魔法使えない。.......応急処置だけした。」



「ありがとうございます。」



礼を言ってから、自分で治癒魔法を掛ける。

すると痛みが引いていき、傷が完全に塞がった。スルスルと包帯を取って見せると、女は安心したような顔をして頷いた。


ふと、気絶前に彼女をエルフだと思った理由のその場所を見ると、耳は尖っていなかった。

私の見間違いだったのだろうか。



「治癒魔法、珍しい。」



興味深そうに見ている女にちょっと気まずくなって視線を逸らす。確かに珍しいがそんなにまじまじと見られるようなものでもない。




「ところで此処は何処でしょう?」



聞いてみると首を傾げる女の様子に不覚にも可愛いと思ってしまった。



「貴女が倒れた所だけど。」



どうやらその場から動いていないらしい。

遮蔽物の少ない平原にいたのだが、今は暗くて辺りが見えなくなっていた。


遠くから狼の鳴き声が聞こえる。


冷たい風が私達を襲った。


寒い。


ぶるりと震えた身体を擦ってみるが余り意味を成さない。

取り敢えず火に当たろうと焚き火に近づき座る。



「顔。」




沈黙の後、女がいきなり話し掛けてきて思わずビクリと身体が反応する。


顔と言われて顔を触るといつもの仮面がきちんとあった。



「何故隠すの。」



パチッとまた火が跳ねた。



「顔を余り見せたくないのです。ですが、恩人に対して顔を隠し続けるのも失礼でしょうね。」



ゆっくりと仮面を外し、彼女を見るとはっと息を呑んだのが、暗い中でも分かった。



「貴女、本当に人間....?エルフみたい。」



エルフみたい、という評価は初めて受けたので戸惑う。私の知っているエルフのような顔といえばラダである。


余り自分がラダとは似ているとは思ったことがないが。



「エルフを見たことがあるのですか?」



まるで比較するような言葉に、私は戸惑いながらも聞いてみる。

エルフはこの国にはいない。

この大陸でエルフが存在すると言われているのは帝国だが、この国の帝国との国交は途絶えて久しい。

記録上では少なくとも30年は交流がない筈だ。


目の前の女性はまだ若く、多く見積もっても二十代前半だろうか。



「エルフ?見たこと?.......ない。」



一瞬、なに言ってるんだという顔をしていたが、ない、で真顔になった。

その反応が逆に嘘臭いが、余り突っ込むべきではないだろう。この人を敵に回したくはない。



「そんなことより、貴女、魔法使い?」



「そう、ですね。何故ですか?」



「途中まで見てた。身体強化してたけど身体の使い方が不自然。魔法は魔力に振り回されてる。」



言われてムッとなる。私は少なくとも魔法に関してはかなり自信がある。

娼館に入った頃と逃亡生活をしていた時期以外、ほぼ毎日訓練をしている。と言っても忙しい日や客と一緒にいる日は何も出来ていないこともあるが。



「そんなこと.....」



「無いと言い切れない筈。あなたも自分で分かってる。」



透き通った瞳で見つめられて言葉に詰まった。


ちょっと馬鹿にされているような気もするが、自分の弱点は自分でも分かっていた。


はあ。と溜め息が出た。



「実は私、事情がありまして、殆ど独学なんです。」



公爵令嬢時代は家庭教師も付いていたが、あんなことがあってからは師に教わるということは無くなっていた。


魔導書を買い漁って魔法を覚えたり、自分で訓練をしてみたり。兎に角独学によるところが大きい。

それでも強くなれたから良かったものの、割と自分に限界を感じていたのも事実で。


一人で行ける依頼が少ないのも実は引け目に思っていた。



「.......教えようか?」



「え?」



女性がポツリと言った言葉に思わず驚く。



「魔法と剣。私の勘なんだけど、何だか貴女には教えて良いような気がする。」



確かにこの人は強そうではある。私なんかよりも全然強いだろく。

しかしそれは剣に限ったことでないのだろうか。


先程ノワールコルヴォを倒したのを見たときには、完全な物理攻撃に見えたが魔法も教えるというのはどういったことだろう。



「私は神級魔法まで使える。特級は無詠唱。」



フフンと自慢気に言う彼女に首を傾げた。



「特級魔法が無詠唱で使えるのならば凄いですね。それに神級魔法.....?聞いたことありません。」



魔法は下から下級、中級、上級、特級までしかない筈だ。神級魔法とかいう痛い名前の魔法は見たことも聞いたこともない。



「それはそう。だって修行に何十年もかかるから。人間だと習得不能。.......あっ。」



やってしまった。という顔をする女を私は凝視した。


何十年もかかる?


脳裏に花しぐれが浮かんだ。


長寿の種族がいるというのは認識としてはある。


もしかして花しぐれのような人がこの国にも残っているのだろうか。




「.........。」


「.........。」




無言で見つめ合い気まずい空気が流れる。




「取り敢えず、見てみると良い。夜が明けたら。」



ポツリと言われた言葉に取り敢えず頷いて、夜が明けるのを待つことにした。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

処理中です...