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師との出会い

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気絶した私は、暖かな光によって目覚めた。


パチパチと焚き火から鳴る音だけが静寂に響いている。



「起きた?」



気絶する前に見た女が私のことを至近距離で覗き込んでいた。綺麗な顔にドキリとする。


コクリと頷き、ゆっくりと起き上がる。



「助けて下さりありがとうございます。」



状況は分からない。

目の前のこの女が敵なのか味方なのかも分からないが、取り敢えず今のところ攻撃されるような様子もない。

しかし身体が痛すぎてまずは自分の治療をしないと、次の行動を決めることもままならない。

まだ身体は痛いが治療してくれたのだろう。幸い血は止まっているようだ。



「私、治癒魔法使えない。.......応急処置だけした。」



「ありがとうございます。」



礼を言ってから、自分で治癒魔法を掛ける。

すると痛みが引いていき、傷が完全に塞がった。スルスルと包帯を取って見せると、女は安心したような顔をして頷いた。


ふと、気絶前に彼女をエルフだと思った理由のその場所を見ると、耳は尖っていなかった。

私の見間違いだったのだろうか。



「治癒魔法、珍しい。」



興味深そうに見ている女にちょっと気まずくなって視線を逸らす。確かに珍しいがそんなにまじまじと見られるようなものでもない。




「ところで此処は何処でしょう?」



聞いてみると首を傾げる女の様子に不覚にも可愛いと思ってしまった。



「貴女が倒れた所だけど。」



どうやらその場から動いていないらしい。

遮蔽物の少ない平原にいたのだが、今は暗くて辺りが見えなくなっていた。


遠くから狼の鳴き声が聞こえる。


冷たい風が私達を襲った。


寒い。


ぶるりと震えた身体を擦ってみるが余り意味を成さない。

取り敢えず火に当たろうと焚き火に近づき座る。



「顔。」




沈黙の後、女がいきなり話し掛けてきて思わずビクリと身体が反応する。


顔と言われて顔を触るといつもの仮面がきちんとあった。



「何故隠すの。」



パチッとまた火が跳ねた。



「顔を余り見せたくないのです。ですが、恩人に対して顔を隠し続けるのも失礼でしょうね。」



ゆっくりと仮面を外し、彼女を見るとはっと息を呑んだのが、暗い中でも分かった。



「貴女、本当に人間....?エルフみたい。」



エルフみたい、という評価は初めて受けたので戸惑う。私の知っているエルフのような顔といえばラダである。


余り自分がラダとは似ているとは思ったことがないが。



「エルフを見たことがあるのですか?」



まるで比較するような言葉に、私は戸惑いながらも聞いてみる。

エルフはこの国にはいない。

この大陸でエルフが存在すると言われているのは帝国だが、この国の帝国との国交は途絶えて久しい。

記録上では少なくとも30年は交流がない筈だ。


目の前の女性はまだ若く、多く見積もっても二十代前半だろうか。



「エルフ?見たこと?.......ない。」



一瞬、なに言ってるんだという顔をしていたが、ない、で真顔になった。

その反応が逆に嘘臭いが、余り突っ込むべきではないだろう。この人を敵に回したくはない。



「そんなことより、貴女、魔法使い?」



「そう、ですね。何故ですか?」



「途中まで見てた。身体強化してたけど身体の使い方が不自然。魔法は魔力に振り回されてる。」



言われてムッとなる。私は少なくとも魔法に関してはかなり自信がある。

娼館に入った頃と逃亡生活をしていた時期以外、ほぼ毎日訓練をしている。と言っても忙しい日や客と一緒にいる日は何も出来ていないこともあるが。



「そんなこと.....」



「無いと言い切れない筈。あなたも自分で分かってる。」



透き通った瞳で見つめられて言葉に詰まった。


ちょっと馬鹿にされているような気もするが、自分の弱点は自分でも分かっていた。


はあ。と溜め息が出た。



「実は私、事情がありまして、殆ど独学なんです。」



公爵令嬢時代は家庭教師も付いていたが、あんなことがあってからは師に教わるということは無くなっていた。


魔導書を買い漁って魔法を覚えたり、自分で訓練をしてみたり。兎に角独学によるところが大きい。

それでも強くなれたから良かったものの、割と自分に限界を感じていたのも事実で。


一人で行ける依頼が少ないのも実は引け目に思っていた。



「.......教えようか?」



「え?」



女性がポツリと言った言葉に思わず驚く。



「魔法と剣。私の勘なんだけど、何だか貴女には教えて良いような気がする。」



確かにこの人は強そうではある。私なんかよりも全然強いだろく。

しかしそれは剣に限ったことでないのだろうか。


先程ノワールコルヴォを倒したのを見たときには、完全な物理攻撃に見えたが魔法も教えるというのはどういったことだろう。



「私は神級魔法まで使える。特級は無詠唱。」



フフンと自慢気に言う彼女に首を傾げた。



「特級魔法が無詠唱で使えるのならば凄いですね。それに神級魔法.....?聞いたことありません。」



魔法は下から下級、中級、上級、特級までしかない筈だ。神級魔法とかいう痛い名前の魔法は見たことも聞いたこともない。



「それはそう。だって修行に何十年もかかるから。人間だと習得不能。.......あっ。」



やってしまった。という顔をする女を私は凝視した。


何十年もかかる?


脳裏に花しぐれが浮かんだ。


長寿の種族がいるというのは認識としてはある。


もしかして花しぐれのような人がこの国にも残っているのだろうか。




「.........。」


「.........。」




無言で見つめ合い気まずい空気が流れる。




「取り敢えず、見てみると良い。夜が明けたら。」



ポツリと言われた言葉に取り敢えず頷いて、夜が明けるのを待つことにした。




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