金になるなら何でも売ってやるー元公爵令嬢、娼婦になって復讐しますー

だんだん

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花しぐれの人

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酷く懐かしい夢を見ていた。


第一王子と出会った頃の夢。


娼館時代、私は第一王子のことが嫌いだった。

それこそ、身請けされるのが嫌で無茶な要求をしてみたくらいには。


それでも何度も何度も身体を重ねていくうちに、情が移ったのだろうか。今はそれほど嫌いではない。




懐かしい夢だ。



私はゆっくり瞳を開けて.......飛び起きた。


ここはダンジョンの中ではなかったろうか。


ダンジョンの中で眠ってしまうなど、不覚にも程がある。



辺りを警戒すると、どこからかクスクスと笑い声が聞こえてきた。



「おぬし、随分と面白い記憶の持ち主じゃの。」



キョロキョロと辺りを探すが見当たらない。



「すまんすまん此処じゃ。」



ふわり。風が吹くと同時に花が舞い、背中に羽の生えた小さな女が立っていた。


何処と無くサヨに似た顔立ちである。



「どなたでしょうか?」



聞けばクックッと笑い、演技じみた仕草で名乗り始めた。



「我は花しぐれ。かつて勇者の付き人だった者じゃ。」



「勇者.......?」



勇者とはお伽噺に出てくる存在だ。


実在していた訳ではない。何か冗談のようなことを言っているのではないか、先程私が見た夢は何だったのか。聞きたいことは沢山あるが、見透かされたような瞳に、何も言えなくなる。



「勇者は実在したよ。といっても、今の世に伝わるような魔王などこの世に存在していたことはないがな。」



半信半疑で話を聞いていると、



「疑っているのかえ。まあ良いわ。お主は何を言っても信じぬであろう?」



とまた笑われる。


滑稽なことだ、と楽しそうに言う女は年齢の読めない表情をしていた。


もしも彼女が本当に勇者のいた時代から生きているとすれば、軽く500歳は超えているだろう。


長寿、といえばエルフがいる。私は見たことがないので比べようもないが、エルフも500年経っても見た目は変わらないものなのだろうか。


機会があれば一度くらい見てみたい。


ラダはダークエルフの血を引いてはいるがほぼ人間だしな。


花しぐれは羽が生えているし耳も尖っていない。種族としては精霊?のようなものに近いと思う。


見たことがないので分からないが。


じっと見詰めて考察していると、



「勝手に記憶を見たことは詫びよう。」



と謝罪された。



「此処には長いこと一人でおってな。たまに来た人間の記憶を覗いては暇潰しをしているんじゃ。といっても、ある程度の精神力がないと見られた者が駄目になってしまうんで、S級?冒険者とやらしか来ないがな。」



つまり、耐えられたと言うことはS級冒険者として相応しいということなのだろうか。


聞けば頷かれたので、良く分からないがそういうことらしい。


こういうわけでお前は合格だからと言われる。


たまに会いに来てくれると嬉しい。花しぐれはそう言っていた。



「花しぐれさん。」



勝手に追い出されそうな雰囲気になって慌てる。


気になることが沢山ある。



「なんじゃ。」



「貴女は何故此処に?」



「勇者がいなくなり、かつての仲間の殆どが死んでしまった。そんな地上に我は未練が無いのでな。」



と言っても暇なことは暇なので、たまに来た人間と話すのが楽しみらしい。


記憶を覗くのも暇潰しの一つだそうで、元は配慮無しに覗いていたのを、マスターが来たときにSランク冒険者のみ立ち入り禁止とあう制限を掛けることで合意したらしい。


将来有望な者達を暇潰しで壊してしまうのことまでは望んでおらず、またマスターを敵に回すくらいなら、と言うことの様だ。


Sランク冒険者と言っても、今アルムブルクにいるのはマスターだけなので、殆どマスターしか来ない。たまに他の街からSランク冒険者が来ることもあるらしいが、定期的に来てくれるのはマスターのみと言うことだ。



「成る程。.......それで勇者というのは?」



勇者といえば子どもの頃にお伽噺で聞いた話の中に出てくる英雄である。

この前第一王子と見に行った劇の中にも登場していたが、あくまで創作物の中にしか出てこない。


その実在を証明するものは少なく、過去の貴族の日記などに数行登場するのみで、歴史の研究者にとっても謎な存在だという。



「勇者に興味があるのかえ。」



そう言ってたっぷりと紅の引かれた唇を引き伸ばす彼女に頷く。



「実在が証明されれば世紀の発見になりますから。」



もし証拠があるのならば、金になるかもしれない。



「残念なことに証明出来る物は何も無いのぅ。数少ない生き字引と.....あ奴らのみが知ることゆえ。」



「あ奴らとは....?」



気になったことを聞こうとしたが首を振られて拒否される。



「これは言えぬ制約でな。まあ、時が来たらお主にも分かるじゃろう。..........このような所に余り長居するでない。もう行け。」



花しぐれが小さな腕を振ると、桃色の花がサーッと舞う。



そして気が付くと私はダンジョンの外に出ていたのだった。




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