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少年達の旅立ち1
しおりを挟むティーザー侯爵と別れた後も、私は数ヶ月掛けて色々なお客様の元へと赴いた。
第二王子の指示が入ることもあれば、元々の約束があって、というパターンもある。
しかし今まで以上にやる気を出した為か、信者と化したような人物がちらほらと出てきた。
第二王子が指定する貴族は、中立派が多い。
何人かは既に渡りを付けて、秘密裏に第二王子の派閥に取り込むことも出来た。
休息を取ろうと思い始めた時には既に春になる頃で、私はルイ達との約束のため村へと向かった。
村には、まだ雪がちらほらと残っている。
温かくなりこれから徐々に溶けていくだろう。
「リル様!」
サヨが私を見つけて駆け寄ってきた。
この子がランダと付き合っているという事実は未だ受け入れがたい。
「来てくれたのですね。」
「大事な家族の旅立ちだもの。来ないわけないでしょう?」
「そんな。家族だなんて.....。畏れ多いです。」
「婆様の所へ行ってくるね。」
サヨも、ランダも、ディーンも、そしてルイも私にとっては家族と同じくらいに大切な存在になっていた。
守りたいと思う。
それと同時に大人になっていく彼らを見るのが嬉しい。
村人達も、三人の見送りを盛大にしようと準備してくれている。
何年か前までは暗い顔をしていた大人達でさえ、今は活気に溢れた顔をしていた。
「何とか間に合ったみたいだね。」
ネストラ婆様に開口一番に言われた。
「ランダもルイもディーンもサヨも。皆お前が拾ってきた子達だ。最後まで面倒見てやるんだよ。」
「勿論です。」
サヨは母親の説得に成功したようだ。足を悪くしていた母親だが、日常生活に支障はない。サヨを止めていたのは一人娘の旅立ちを心配したからだろう。
何かあれば村人同士、助け合っていくだろう。私も今後、今までよりも気に掛けるつもりだ。
「4人の出立は明後日だ。明日、送別会をやる。ちゃんと参加するんだよ。」
そう言われ、勿論そのつもりだと頷いた。
「リル先生?」
婆様の家を出て、孤児院の中にある自分の部屋へと向かう途中、ランダが声を掛けてきた。
この子は小さな頃からボーとしたところがあって、魔力量こそそれなりに多いが、コントロールが悪い。その為簡単な魔法でも詠唱が必須だった。
正直冒険者よりも魔法研究の方に行くかと思っていのに。
「ランダ。貴方に渡したい物があります。」
他の子供達に見えないよう、私の部屋へと移動し、彼にプレゼントを手渡す。
防御術式を施したローブ、護身用のナイフ、杖、そして火属性上級魔法の魔導書だ。
ローブの術式は私が入れた。杖は私は使わないが、ランダは持っていた方が魔法の効果が安定するだろう。魔法使いが少ないこともあり、専用の杖は高い。
他の子達の手前、今まで買ってやることは出来なかったが、冒険者となる彼への餞別としてなら良いだろう。魔導書は私のお下がりだ。ちょっと贅沢かなとも思うが。
「わぁ!!!凄い!!杖だ!初めて見ました!上級の魔導書なんて、転移魔法とアイテムボックス以外見たこと無かったなあ。先生、ありがとうございます!」
「装備としての出来は魔導書以外はそれなりです。精進してもっと上のものを買えるような冒険者になってくださいね。」
喜んでくれたので良しとしよう。
「次、サヨを連れてきなさい。」
治癒魔法使いのサヨには治癒魔法の上級魔導書と、ランダと同じく術式の入ったローブと護身用のナイフ。そして魔石の埋め込まれた指輪を渡した。
サヨは魔力の扱いには優れているが、補助に特化しており、単体での戦闘力は皆無に等しい。
指輪には魔力を込めると光線が撃てる術式を組み込んでいる。
攻撃魔法には劣るかも知れないが、無いよりはマシだろう。
「リル様、私なんかにこんなに沢山.....ありがとうございます。一生大切に使いますね。」
「いや、魔導書以外はC級に上がる前には買い換えてね。一生は使わないで。」
次はディーン。
ディーンは魔法適正が殆ど無く、出来るのは身体強化のみ。どこかの脳筋マスターに似ている。寧ろ魔力覚醒をしないと思っていた。した時は村人全員が驚いた。
魔力覚醒をする人は少ない。どうして私が拾ってきた子ばかりと思うが、彼らと出会ったのも何か運命的な物なのだろう。
そんなディーンには金属製の鎧と剣、盾、そして体力回復のポーションを渡した。魔法を使う子達との差が出ないようにしたら、それなりの装備になってしまった。
これなら暫く買い換えなくても済むだろうが、装備に頼りすぎないように、と口を酸っぱくして伝えた。
「分かったってば!ったく、ずっと子供扱いして。」
うんざりとした顔で言う彼は、やっぱり一番幼い。
「でも、ありがとな!リル様!」
「貴方の生存にパーティーメンバーの命が掛かってます。それを忘れずに。」
「はいよ。」
一瞬、真面目な顔になるがすぐに砕ける。
「次はルイだろ?リル様、ルイに会うの気まずくない?俺いようか?」
「え?」
「いや、だってあいつリル様に告白したんだろ?言ってたぜ。」
全く身の程知らずだよなーと言ってはいるが口元はニヤニヤしていた。
「良いから、早く呼んできなさい。」
ディーンを追い出す。
そう言えば告白されたんだよなあ。
気まずい。正直、ディーンにいて貰ったら良かったのに、と思う。
トントン、とノックが聞こえ、開けるように言う。
すると走ってきたのだろうか。息を切らしているルイがいた。
「お呼びだと聞きました。」
「ええ。贈り物があって。」
正直、ルイに渡すものは一番困った。
何でも器用にこなしてしまうが、それ故に、どれもそれなりなのだ。
取り敢えず、と金属製の胸当てと籠手を渡した。
「武器は何が良いのか迷ってしまって。貴方は器用でしょう?得意な武器が分からなかったの。だから私が持っている物の中で好きなものをあげようと思って。」
アイテムボックスから、今までダンジョンに入った時等に手に入れたアイテムを並べた。
剣、弓矢、槍などの普通の武器もあれば、暗器のような少し変わった武器もある。
売ろうと思っていたが、もしかしたら子供達が使うかもと取っておいた物だ。
十くらいの武器の中から、ルイは少し考えた後、槍を取った。
「パーティー編成的に中距離か近距離がもう一人いた方が良いでしょう?」
成る程と思う。
彼の選んだ槍は、ダンジョンのドロップ品ではあり、それなりに良いものだが、特別な力等は何もない。
「余り良い武器を最初から持っても仕方ないですから。貴女が俺のために考えてくれた贈り物。大切に使います。」
心底嬉しそうに言うルイが、槍や籠手に名前を付け始めた所で部屋から追い出した。
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