金になるなら何でも売ってやるー元公爵令嬢、娼婦になって復讐しますー

だんだん

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悲願

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「エイデンお兄様。」


先程、私の事を昔の名前で呼ぶなと怒ったが、彼の寝顔を見ていると、思わず昔の呼び方で呼んでしまった。


はっと気が付いて、周囲の気配を探る。

魔力探知を行うが周囲に反応はない。一先ず安心した。


「××××?」


掠れた声で、頭をもたげる第二王子は、まだ眠そうだった。少し潤んだ瞳が色気を孕んでいる。


また間違えているが、私も間違えたばかりなので、どうにも怒る気になれない。


「リリス。」


暫くすると覚醒したのか、はっきりとそう呼んだ。


リリス。そう私はリリスだ。

改まって呼ばれ、居ずまいを正す。



「戦が始まる。」



その言葉にはっとした。

あの噂は矢張、本当であったのだ。


言葉を失う私に、第二王子は言った。


「いっそのこと、国外に亡命するか。共に来いと言われれば、お前はどうする?」


彼の質問の真意を探ろうとするが、分からない。

もしかしたら国内の裏切り者でも探しているのだろうか。彼が逃げることを想像するよりもそちらの方が想像に易かった。


「冗談だ。」


冗談。

成る程。


「逃げられないだろう。」


私も、お前も。と続いた気がした。


「いいえ。逃げないのではありません。諦め切れないのです。アドラー家の令嬢は死にましたが、亡霊となって復讐を誓いました。」


貴方も似たようなものでしょう?と声には出さずに見ると、無機質な瞳がこちらを見返していた。


第二王子が果たしこ王になることを望んでいたのかは知らないが、それでも、現状のような結果は望ましく無かった筈だ。


塔に閉じ込められていないだけましだと、冗談のようなことを言っていたが、このままいけばいつ他派閥によって投獄されるか殺されるかも分からない。


王家の争いはいつだって血生臭いものなのだから。


「始まるのはいつ頃でしょうか。」


「開始の時期は詳細には分からない。けれど今回も前線に送り込まれるだろう。」


「どうして殿下ばかり危険な場所に行かされるのでしょう。」


「仕方ない。私は権力争いに負けた。危険な場所に派遣されるのは最もなことだ。もうよっぽどのことが起きない限り、王座は私には回ってこないだろうな。」


王座という言葉を、私は彼から初めて聞いた。


「やはり、玉座に興味がおありですか?」


「.......そうだな。」


元々、王にと乞われていた人だ。やはりそう簡単に諦められるものでもないのだろう。

しかし彼が今王座を求めたところで、どうしようもない。


彼の派閥はもう殆ど無いに等しい。宮廷での立場を新しく作るのも現状難しいだろう。



「それでも、今は大人しくしていた方が良いでしょう。」


「いつか私にも運が回ってくると?」


「分かりません。殿下次第です。」



少なくとも今動けばかなりの確率で失敗するだろう。



「反対はしないのだな。お前は兄上に情があると思っていたが。」


「第一王子殿には、良くしていただいさいますが、貴方の王位継承はアドラー公爵家の悲願でしたから。」



元々夫であり主君となる予定のあった人だ。彼のことは小さい時から懸命に支えよと言われてきていた。そのため、王になりたいと望まれれば尽力することは吝かではなかった。


勿論、私の復讐が優先ではあるが。



「アドラー公か。」



第二王子が昔を懐かしむように言った。お互い色々ありすぎて、あの時のように綺麗なままではいられなかった。


夫と妻といま立場でなら兎も角、こうして汚れた関係で身体を結ぶと誰が考えていただろうか。


父が知ったら怒るかもしれない。


だけどお父様、私にはもうこの道しか残されてないの。


必ずや復讐を完遂しますから、どうか私を見守っていてください。



どちらともなく手を重ねる。こうしていると幼い頃、魔法の発動に失敗し泣いていた私を慰めてくれたのを思い出す。


『××××。大丈夫だよ。泣かないで。』


慰めてくれた手はこんなに冷たくなかった筈だ。


『君は僕のお嫁さんになるんだろう?それなら将来はきっと素敵な国母になるね?』


そう言って二人で笑い合った日々は幻ではなかった筈だ。


『見てよ××××!君の弟が僕の名前を呼ぶんだよ!きっと立派な臣下になるだろうね。』


小さな弟が初めて彼の名前を呼んだ時、本当に嬉しそうだったのに。


『兄上も伯父上も僕には優しいんだ。だからきっと××××にも優しくしてくれるよ。不安に思わなくて良い。』


王族に入ることを不安に思う私を、そう言って慰めてくれたのに。


『××××!すごいや!もうそんなに魔法を使えるようになったのか?大人になったら王妃ではなく、宮廷魔法使いになるかい?』


新しい魔法を覚える度に自分のことのように喜んでくれた。


キラキラとした思い出が、重ねた手の平から流れてくるようだった。



「殿下。私をお使いくださいませ。諜報としてでも、単純な戦力としてでも構いません。どうかお好きなように私をお使いくださいませ。」



父に望まれたように、彼の妻となることはもう出来ない。

けれど、彼になら使われても良い。家族の悲願の為だけではない。それだけ、私と彼には共有する思い出や苦悩があった。


そして、彼の望みを叶えることが、私にとっての復讐になるだろうと、そう確信していた。



「リリス。私はお前の復讐を優先はしないぞ。」


「そうでしょうね。貴方はそういう方ですから。」


「......意に沿わぬ相手に情報を得るために身体を許せと命令するかもしれない。」


「元よりそういう仕事ですので。」


「戦場で人を殺せと命じることもあるやも。」


「あの時に既に人殺しは経験済みです。」


追手から逃げながらの生活を思い出す。襲われたので仕方なかったとはいえ、何人も殺していた。


「分かった。今後は頻繁に連絡を取り情報の交換を行う。私の指示した通りに動け。分かったな。」


それと、と付け加えられる。


「中途半端はするな。冒険者をやるならS級くらいになっておけ。新しい魔法を覚える必要があるなら言えば良い。魔導書くらい、何とかしてやる。」


魔導書は高いので助かる。お礼を言うが首を傾げた。


「何故私が冒険者をしていることを知っているのですか?」


「以前、アルムブルクに用事があった時に踊り子と呼ばれる女冒険者を見かけた。金色の仮面、お前の手作りだろう。相変わらず器用なんだか不器用なんだか分からない出来だな。」


成る程。仮面を見てバレたらしい。私の制作物は昔から何というか、控えめに言って、物自体の完成度は高い。しかし絶妙な絵心のせいでかなり微妙な出来になることが多かった。


最早市販品の方が目立たなくて良いのではないかと思うが、金色の仮面にもそれなりに愛着が沸いている。

今更変えようとも思わなかった。


「けれど、S級ですか。無理かもしれませんよ?」


あと一つ上なだけと言っても、その差は歴然としている。


私はマスターのように単騎で突っ込むには向いていないし、化け物じみた力もない。



「魔法使いの強さは魔力量や使える魔法の多さにあらず。だろう?」



昔好んで読んでいた「魔法分析学」の作者の言葉だ。



「そのような事まで覚えていてくださっていたのですね。」


「寝物語に読めとねだったのはお前だろうに。」


そうだったか。覚えていない。








「リリス。もう疲れたか?」






首を振ると、またカウチが軋む音がした。





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