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第一王子との逢い引き2
しおりを挟む「そうですね。劇が見たいです。」
劇場なら皆舞台を見るので目立たなくて済みそうだと思い提案する。
男女の逢い引き先としても妥当なので、彼もすんなり納得してくれた。
王都でも屈指の劇場に行く。
やっている劇は、昔本当にあったとされる勇者と姫の恋物語だった。
ある日突然どこからかやってきた勇者が世界を救う、子ども騙しな話。
勇者と姫は仲間と共に魔王を倒す旅に出され、旅の最中で結ばれるが、姫は魔王に連れ去られ助け出される一歩手前で死んでしまう。
怒った勇者は仲間と共に魔王に挑むが相討ちになる。勇者と姫の犠牲と引き換えに人類は魔王の治めていた魔国に打ち勝ち、平和が訪れる。
そんな話だった。
魔国との戦争があったのはもう500年も前とされている。
嘘みたいなこの話が嘘なのか真実であったのかは誰にも分からない。
私としては勇者とはマスターのようなS級冒険者並の実力を持つ人間のことで、魔国とは亜人族の集まる国であったのではないかと思う。
人族が大陸を覇権を取るために魔国と戦争を起こし、そして犠牲を出しつつも勝利した。
それを神話のような話に仕立てているだけなのではと思っている。
まあ、真実を現代の私たちが知ったところでどうしようもない。
話は陳腐だが、劇は役者の演技も演出も素晴らしく面白かった。
見終わった後に第一王子と感想を言い合う。
「あのドラゴンと戦うシーンが良かったな!本当に火が飛び出して来るとは思わなかったが。魔法での演出だろうか。」
「あれは驚きましたね。私は仲間の魔術師が転移魔法を完成させるシーンが面白かったです。」
一人の魔法使いとして非常に興味がある話だ。
「良かった。」
「ええ、面白かったですね。」
「違う。リリスが元気になって良かったと言ってるのだ。」
機嫌良さそうに言う彼に、私はぎこちなく笑いかける。
「そんなに元気が無いように見えていましたか?」
かなり回復したと思っていたがまだ怖いのだろうか。
それとも久し振りの仕事だからうまく演技が出来てなかったのだろうか。
「まあな。もう暗くなるから宿に戻ろうか。このままだとご飯は食べにくいからね。部屋に運ばせてゆっくり食べよう。」
宿に戻り、第一王子の鎧を脱ぐのを手伝いゆったりとした服に着替えさせる。ついでに私も仮面を取る。
ドレスは脱がないでいてくれと言うのでそのままでいた。
男の人が服をプレゼントしてくる時は脱がしたいという意味だと昔お姉さんが言っていた。勝手に着替えなくて良かった。
「それにしても、バルド伯爵は本当に酷いな。許せない。」
まだ怒っている。
忘れたと思ったのに。
良い機会なので、王子に机に置いてあった酒を勧め、毒味にと先に私が飲む。
上質なワインで、特に問題はなさそうだ。
渡すと素直に呑んでくれる。
「バルド伯爵様はクロウ様にとって大切な方でしょう?私は大丈夫ですので、そのようにお怒りにならないでください。」
「そう、だな。お前がされたことにはムカつくが彼には恩がある。派閥の他の面々の手前、大事にも出来ない為、彼を罰することは出来ない。リリス、すまない。」
思ったよりもバルド伯爵は第一王子の派閥の中で大きい存在のようだ。
「私は大丈夫です。バルド伯爵様も大切なお客様ですもの。その、ご恩とやらは何なのですか?」
「.......昔のことだ。リリスは気にしなくて良い。」
はぐらかされた。
自分の派閥にとって大切なことは流石に言わないか。
「アドラー公が、とバルド伯爵様が言っていましたが、アドラー公ってどなたですか?私の知っている公爵様の中にアドラーという方はいらっしゃらなくて。」
なにも知らないふりをする。
怪しまれないように。
今の私はリリス。
私とアドラー家は何も関係がない。
今リリスでいれて良かった。
お陰で普通の顔をして聞けた。
「バルド伯爵がその名を?」
「ええ。確かにアドラー公と言っておりました。もし、クロウ様がご存知ならばお客様の一人として私にご紹介頂きたいのですが。.......早く借金を返して公娼を引退して、クロウ様のお側に上がりたいですから。」
娼館時代、王子に身請けされるのが嫌で、馬鹿みたいな金額をふっかけたのは自分だが、王子は私があの当時王子を嫌っていたなんて思ってない。
娼館の主が悪いと今でも思っていることだろう。
「すまないリリス。お前に苦労を掛けて。私がお前を欲しがったせいで公娼になってしまい、元々の借金より増えてしまったものな。私でも肩代わりは難しいくらいに。」
「ええ。ですからアドラー公をご紹介して頂ければと。」
無礼だと分かっているが、第一王子の膝の上に顔が見えるように座る。彼はこんなことでは怒らない。
寧ろ少し嬉しそうにしていた。
「残念だが、それは出来ない。アドラー公は故人だ。」
「あら。そうなのですね。残念です。何故亡くなったのですか?」
興味本位、と言った体で聞いてみる。
「落石に巻き込まれたと聞いている。何でもご子息を守ろうとしたのだとか。」
お父様がヨハンを?
あの落石事故の同行者、目撃者は生き残っていな・い。
どうしてそんなことを第一王子が知っているのか。
誰かから聞いたのか。もしくは。
彼も近くで見ていたのか。
「まあ。ご子息がいらっしゃったのですね。それでは今頃アドラー家はとってもお困りでしょうね。」
「ああ。全員故人だ。何でも上の娘がでしゃばって、王家に土地と爵位を返上すれば良いものを、結婚するまで自分が代理として治めると言い出したらしい。それで民衆の反対に遭い、反乱で残った一家全員が命を落としたと聞いている。
アドラー領は豊かで広大だ。その娘は第二王子の婚約者となる予定であったから、生きていれば今頃私の派閥は大変だっただろうな。」
王家に爵位と土地を返上しろ。これは当時散々執事からも助言されていたことだ。
何故私がその助言とやらに従わなかったのかと言えば、残った家族を守らなければいけないと思ったからだった。
結果的に最悪の結末を招いてしまった訳だが、貴族として生まれ育った私達が、平民として外に出て生きていけるとも思えなかった。
「その身の程知らずな娘も亡くなったのですか?」
「ああ。そう聞いているが。」
アドラー家と交流の無かった第一王子は、まだ社交界デビュー前だった私の顔を知らない。
親戚とはいえ、敵対派閥にいるのだ。
当時の私達は他人よりも遠い距離にいた。
まさか、こうして生きて、身体を交えているなんて夢にも思っていなかった。
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