上 下
19 / 136

生意気な少年2

しおりを挟む


私は大人だ。


ルイは大事な子。


だからこの子を傷付けると分かっていても言わなければならない。


これ以上傷付けないために。


私の復讐にこの子達を巻き込まないために。


「だけどごめん。私は貴方の思うような女じゃないの。今は仕事も楽しいし、そもそも貴方みたいな子供はタイプじゃないの。だから諦め.......」


思いっきり悪い女を演じるつもりだった。

演技は仕事でいつもやってることじゃないか。なのにどうしてかうまくいかなかった。


「諦められる訳、無いでしょう。そんな言葉で俺が諦めると?俺は、何年も貴女だけを見てきました。ランダやディーンも、他の子供達も貴女をそれこそ姉か母親代わりに思っています。俺だって恩人にこんな気持ちを抱くなんて恩知らずで恥知らずで馬鹿な行為だって思っていますよ?でも俺は貴女が良い。リル様が欲しいんです。」


「うっ。かなりストレートね。」


真っ直ぐな言葉が嬉しくもあり、だけど困ってしまう。


「当たり前でしょう。今此処で伝えないと、貴女はまた逃げてしまいますよね?俺に会わないようにしていたのも知ってますよ。」


避けてることもばっちり気付かれていた。


「貴女が好きです。リル様。好きなんて陳腐な言葉じゃ収まりませんが。」


「昨日は尻もち付いてた癖に生意気ね。」


「わざとですよ。ランダじゃあるまいし俺がそんなヘマするわけ無いでしょう?怪我をすれば貴女が治癒魔法を使ってくれるかもと思ったんです。貴女の魔力は温かくて好きだから。」


実際俺は放置でしたが。と恨めしそうに見られる。


かなりヤバめに育っていた。

私が避けていたせいだろうか、重症だ。

何わざと尻もち付くって。どういうことなの。

魔力が温かいなんて幻覚だ。軽い怪我を直す治癒術程度の魔力を当てられた所でそんな感覚になるわけがない。


「今度、ちゃんとした実力を見せてね。私は貴方達の成長が何よりも嬉しいのだから。」


「それは勿論。ですが、話を逸らさないでくださいよ。」


気付かれたか。


「私は忙しいの。お客様も沢山いて借金だってまだある。仕事に行かないとどうしようもないのよ。貴方にそれを全部背負えるの?そんな訳ないよね?私に養われてるくらいだし。だからこの話はおしまい。ほら、寒くなってきたしもう行くよ。」


立とうとすると引き留められて、仮面の上からおでこの辺りに口付けをされる。


「俺は諦めませんから。リル様が苦労しないようにちゃんと稼ぎます。貴女の肩にあるものを一緒に背負えるくらい、早く大人になります。そうなるまでこうして貴女に迷惑を掛けるようなこともしません。だから、俺のこと、覚えていてください。此処に貴女を待ってる男がいることを忘れないでください。貴女がどんなにボロボロになっても、俺には貴方しかいないから。」


「馬鹿な子。大体どうやって稼ぐの。子供の癖に。」


「リル様が、俺達に学校を作ってくれたんでしょう。俺はもう文字も読めるし魔法だってランダ程じゃないけど使える。弓や剣の扱い方も知ってます。小さい頃から冒険者になるのが夢だったんです。......春になったら、ランダとディーンの三人で村を出ます。俺もランダも16です。いつまでもリル様におんぶに抱っこじゃいられませんから。村にも恩返しをしたいですし。」


冒険者になるという話は初耳だ。

ルイが冒険者になりたかったとは思ってもみなかった。


「勝手に大人になって。.......冒険者になったら私に会いにくくなりますよ。」


「元々会ってなかったじゃないですか。」


恨みがましい目を向けられて、苦笑いをする。


「そうね。.....冒険者登録はどこでする予定なの?」


「ラクシャに行こうと思っていました。ランダが転移魔法を覚えたので、村にはいつでも戻って来られますし。」


ラクシャ。ロイ君が以前所属していたマックスマッハ号のいる街だ。


「あー、だけどサヨも付いてくるなら別の街にするかもしれないです。」


「サヨ?」


サヨは確か小さな頃に魔力覚醒をしたものの魔法適性が治癒魔法や補助魔法に偏っていた気がする。戦闘能力は低いが確かにパーティーにいれば他のパーティーより優位に立てる。それなら何故最初から四人と言わなかったのだろうか。


「あー。元々村を出る予定は無かったんですが、最近ランダと付き合い始めたんです。今はお母さんに村を出ることを反対されてるそうで。」


歯切れ悪そうに言うルイ。


「え?!ランダと?何でランダ?」


正直私の一番の教え子だがボケッとした所のある子で、しっかり者で美人なサヨとは釣り合ってない。

いや、ランダも大事な子ではあるのだけども。


「ランダも頑張ったんですよ。」


どうやら私の知らない間に青春が繰り広げられていたようだ。


「そっかー。ランダとサヨが。そっかー。」


大人になったなあ。

まだまだ子供だと思っていたのは私だけか。


「確かにサヨがいるならラクシャは余り良くないかも知れないね。........別に行かなくても良いのだけど、アルムブルクに蒼蘭っていう女性のマスターが作ったギルドがあるの。今はラクシャに負けるかも知れないけど、元々は冒険者の街と言われていたところだからきっと良い勉強になるよ。」


「アルムブルク。此処からだとかなり旅をしなくてはいけませんね。でも、行ってみても良いかもしれません。」


そう、アルムブルクはかなり遠かった。今のランダでは四人で転移して戻ってくるのにギリギリの距離だ。多分村に着いた瞬間倒れる。


「貴方達が旅に出る前には、私も顔を出すから。」


立ち上がるとまた手を引かれそうになるが、今度は避けた。


「リル様。本当は行って欲しくないです。でも貴女が決めたことなら俺は何も言いません。だから、気を付けて行ってきてください!次にお会い出来る日を楽しみにしています。」


「ありがとう。またね。」


屋根の上から飛翔魔法で飛んでいく。


まだ夜が明けるには時間はありそうだ。


いつもの転移場所に移動すると、仮面を取る。


もう、リルじゃなく時間だ。


今からはリリス。


切り替えなければ。



『転移』



行き先は王都だ。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...