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生意気な少年2
しおりを挟む私は大人だ。
ルイは大事な子。
だからこの子を傷付けると分かっていても言わなければならない。
これ以上傷付けないために。
私の復讐にこの子達を巻き込まないために。
「だけどごめん。私は貴方の思うような女じゃないの。今は仕事も楽しいし、そもそも貴方みたいな子供はタイプじゃないの。だから諦め.......」
思いっきり悪い女を演じるつもりだった。
演技は仕事でいつもやってることじゃないか。なのにどうしてかうまくいかなかった。
「諦められる訳、無いでしょう。そんな言葉で俺が諦めると?俺は、何年も貴女だけを見てきました。ランダやディーンも、他の子供達も貴女をそれこそ姉か母親代わりに思っています。俺だって恩人にこんな気持ちを抱くなんて恩知らずで恥知らずで馬鹿な行為だって思っていますよ?でも俺は貴女が良い。リル様が欲しいんです。」
「うっ。かなりストレートね。」
真っ直ぐな言葉が嬉しくもあり、だけど困ってしまう。
「当たり前でしょう。今此処で伝えないと、貴女はまた逃げてしまいますよね?俺に会わないようにしていたのも知ってますよ。」
避けてることもばっちり気付かれていた。
「貴女が好きです。リル様。好きなんて陳腐な言葉じゃ収まりませんが。」
「昨日は尻もち付いてた癖に生意気ね。」
「わざとですよ。ランダじゃあるまいし俺がそんなヘマするわけ無いでしょう?怪我をすれば貴女が治癒魔法を使ってくれるかもと思ったんです。貴女の魔力は温かくて好きだから。」
実際俺は放置でしたが。と恨めしそうに見られる。
かなりヤバめに育っていた。
私が避けていたせいだろうか、重症だ。
何わざと尻もち付くって。どういうことなの。
魔力が温かいなんて幻覚だ。軽い怪我を直す治癒術程度の魔力を当てられた所でそんな感覚になるわけがない。
「今度、ちゃんとした実力を見せてね。私は貴方達の成長が何よりも嬉しいのだから。」
「それは勿論。ですが、話を逸らさないでくださいよ。」
気付かれたか。
「私は忙しいの。お客様も沢山いて借金だってまだある。仕事に行かないとどうしようもないのよ。貴方にそれを全部背負えるの?そんな訳ないよね?私に養われてるくらいだし。だからこの話はおしまい。ほら、寒くなってきたしもう行くよ。」
立とうとすると引き留められて、仮面の上からおでこの辺りに口付けをされる。
「俺は諦めませんから。リル様が苦労しないようにちゃんと稼ぎます。貴女の肩にあるものを一緒に背負えるくらい、早く大人になります。そうなるまでこうして貴女に迷惑を掛けるようなこともしません。だから、俺のこと、覚えていてください。此処に貴女を待ってる男がいることを忘れないでください。貴女がどんなにボロボロになっても、俺には貴方しかいないから。」
「馬鹿な子。大体どうやって稼ぐの。子供の癖に。」
「リル様が、俺達に学校を作ってくれたんでしょう。俺はもう文字も読めるし魔法だってランダ程じゃないけど使える。弓や剣の扱い方も知ってます。小さい頃から冒険者になるのが夢だったんです。......春になったら、ランダとディーンの三人で村を出ます。俺もランダも16です。いつまでもリル様におんぶに抱っこじゃいられませんから。村にも恩返しをしたいですし。」
冒険者になるという話は初耳だ。
ルイが冒険者になりたかったとは思ってもみなかった。
「勝手に大人になって。.......冒険者になったら私に会いにくくなりますよ。」
「元々会ってなかったじゃないですか。」
恨みがましい目を向けられて、苦笑いをする。
「そうね。.....冒険者登録はどこでする予定なの?」
「ラクシャに行こうと思っていました。ランダが転移魔法を覚えたので、村にはいつでも戻って来られますし。」
ラクシャ。ロイ君が以前所属していたマックスマッハ号のいる街だ。
「あー、だけどサヨも付いてくるなら別の街にするかもしれないです。」
「サヨ?」
サヨは確か小さな頃に魔力覚醒をしたものの魔法適性が治癒魔法や補助魔法に偏っていた気がする。戦闘能力は低いが確かにパーティーにいれば他のパーティーより優位に立てる。それなら何故最初から四人と言わなかったのだろうか。
「あー。元々村を出る予定は無かったんですが、最近ランダと付き合い始めたんです。今はお母さんに村を出ることを反対されてるそうで。」
歯切れ悪そうに言うルイ。
「え?!ランダと?何でランダ?」
正直私の一番の教え子だがボケッとした所のある子で、しっかり者で美人なサヨとは釣り合ってない。
いや、ランダも大事な子ではあるのだけども。
「ランダも頑張ったんですよ。」
どうやら私の知らない間に青春が繰り広げられていたようだ。
「そっかー。ランダとサヨが。そっかー。」
大人になったなあ。
まだまだ子供だと思っていたのは私だけか。
「確かにサヨがいるならラクシャは余り良くないかも知れないね。........別に行かなくても良いのだけど、アルムブルクに蒼蘭っていう女性のマスターが作ったギルドがあるの。今はラクシャに負けるかも知れないけど、元々は冒険者の街と言われていたところだからきっと良い勉強になるよ。」
「アルムブルク。此処からだとかなり旅をしなくてはいけませんね。でも、行ってみても良いかもしれません。」
そう、アルムブルクはかなり遠かった。今のランダでは四人で転移して戻ってくるのにギリギリの距離だ。多分村に着いた瞬間倒れる。
「貴方達が旅に出る前には、私も顔を出すから。」
立ち上がるとまた手を引かれそうになるが、今度は避けた。
「リル様。本当は行って欲しくないです。でも貴女が決めたことなら俺は何も言いません。だから、気を付けて行ってきてください!次にお会い出来る日を楽しみにしています。」
「ありがとう。またね。」
屋根の上から飛翔魔法で飛んでいく。
まだ夜が明けるには時間はありそうだ。
いつもの転移場所に移動すると、仮面を取る。
もう、リルじゃなく時間だ。
今からはリリス。
切り替えなければ。
『転移』
行き先は王都だ。
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