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第一王子の不安
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第一王子視点にしています。
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side クロウ・ウェスリー・アッシュバーン・ノーク
リリスからの手紙に私は溜め息を吐いた。
私の想い人、リリスはこの国の忌まわしき制度、『公娼』として、王位継承権を持つ者の所へ盥回しにされている。
先日、バルド伯爵が宮廷で、リリスにしたことを他の貴族に自慢するように大声で話していた。
私に対する嫌がらせもあるのだろう。
彼は私の派閥にいるが、決して私に好意的ではない。
派閥にいる理由は自分が一番大きい顔を出来るところを選んだだけに違いない。
彼の家は私の母の家と親戚だ。
それ故派閥内で大きな顔が出来る。
私はバルド伯爵が昔から苦手だ。
小太りな小男の癖に、自分を大きく見せようとし過ぎて矢鱈豪華な服を着ているが、それが浮いていることにも気が付かない、哀れな田舎貴族の癖に性格が悪い。
早く田舎に引っ込めと思うが、しょっちゅう下らない理由を作っては王都に来ていた。
そんな彼に私は恩義があった。
決して人には言えない恩義だ。
それにより、私は彼に頭が上がらない。
想い人を傷付けられても何も言えない私は、どうしようもない男だろうか。
リリスに会いたい。
が、今は彼女も辛かろう。
私も我慢するしかない。
歩いていると、バルド伯爵に立ち会う。
彼もちらりとこちらを見て、挨拶をしに取り巻きを連れて来る。
べらべらと口上を述べられるが、正直かなりどうでも良い。
「そういえば殿下にご覧頂きたいものがあって。」
ちらりと見せてきたのは絵であった。
「殿下もご執心のリリスのものです。どうでしょう良く描けているでしょう。」
バラバラと床にばら蒔かれるのは、彼女の裸体の絵であった。
彼女の美しい身体が、これでもかと言う程詳細に描かれ、中には目を背けたくなるような絵もある。
一体彼女が、バルド伯爵にどれ程のことをしたと言うのだろうか。
仕事を全うしただけで、悪いことなど何一つしていない筈だ。
どうしてこのような仕打ちが出来る。
「素人の手習いですが、中々のものでしょう?こうして踏みつけるとあの女の歪んだ顔が思い出されて誠に愉快です。どうです?王子もやってみませんか?」
「私は良い。」
「左様ですか。それでは失礼致します。」
床に散らばったリリスの絵の上をわざわざ歩き、去っていった。
私は深く息を吐いて、それらを拾う。
リリスの姿絵を広まるだけで、彼女は王都で気軽に外出も出来なくなってしまったというのに、このような破廉恥な絵を広められてしまえば、どうなるだろう。
街を歩くだけで下賎な男達が彼女を襲ったりはしないだろうか。
懐中時計を持っていれば襲われる可能性は低くなるが、性欲の前に理性が働かない男もいる。
不安が尽きなかった。
「殿下、お手伝い致します。」
近くで見ていた衛兵が見かねて拾い上げるのを手伝ってくれる。
「礼を言う。」
受け取ると、
「本当に綺麗な人ですね。天使みたいです。」
と言われた。
彼女を誉められて悪い気はしない。
「そうであろう。きっと天界から落ちてきた天使なのだ。」
神が遣わされた私の天使。
透き通った柔らかい肌も金髪も、すぐに掠れてしまう鈴の音のような声も全てが愛おしかった。
猫耳を付けている絵がある。バルド伯爵の絵は非常に写実的だ。リリスを縮めて貼り付けたと言われても納得するかもしれない。
猫耳も大層に可愛らしい。しかし、彼女に似合うのは天使の翼だと思う。
「そなたのお陰で良いことを思い付いた。ありがとう。」
特注で翼を作りプレゼントしよう。
そして愛と豊穣の女神ラダの絵画を、彼女をモデルに描かせるのだ。
きっとこのバルド伯爵の下らない落書きよりも素晴らしい物が出来上がる。
きっと彼女は驚くだろう。
けれど喜んでくれる筈だ。
また一つ、彼女との楽しみが増えた。
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