12 / 136
第一王子の不安
しおりを挟むアルファポリス限定公開です。
第一王子視点にしています。
ーーーーー
side クロウ・ウェスリー・アッシュバーン・ノーク
リリスからの手紙に私は溜め息を吐いた。
私の想い人、リリスはこの国の忌まわしき制度、『公娼』として、王位継承権を持つ者の所へ盥回しにされている。
先日、バルド伯爵が宮廷で、リリスにしたことを他の貴族に自慢するように大声で話していた。
私に対する嫌がらせもあるのだろう。
彼は私の派閥にいるが、決して私に好意的ではない。
派閥にいる理由は自分が一番大きい顔を出来るところを選んだだけに違いない。
彼の家は私の母の家と親戚だ。
それ故派閥内で大きな顔が出来る。
私はバルド伯爵が昔から苦手だ。
小太りな小男の癖に、自分を大きく見せようとし過ぎて矢鱈豪華な服を着ているが、それが浮いていることにも気が付かない、哀れな田舎貴族の癖に性格が悪い。
早く田舎に引っ込めと思うが、しょっちゅう下らない理由を作っては王都に来ていた。
そんな彼に私は恩義があった。
決して人には言えない恩義だ。
それにより、私は彼に頭が上がらない。
想い人を傷付けられても何も言えない私は、どうしようもない男だろうか。
リリスに会いたい。
が、今は彼女も辛かろう。
私も我慢するしかない。
歩いていると、バルド伯爵に立ち会う。
彼もちらりとこちらを見て、挨拶をしに取り巻きを連れて来る。
べらべらと口上を述べられるが、正直かなりどうでも良い。
「そういえば殿下にご覧頂きたいものがあって。」
ちらりと見せてきたのは絵であった。
「殿下もご執心のリリスのものです。どうでしょう良く描けているでしょう。」
バラバラと床にばら蒔かれるのは、彼女の裸体の絵であった。
彼女の美しい身体が、これでもかと言う程詳細に描かれ、中には目を背けたくなるような絵もある。
一体彼女が、バルド伯爵にどれ程のことをしたと言うのだろうか。
仕事を全うしただけで、悪いことなど何一つしていない筈だ。
どうしてこのような仕打ちが出来る。
「素人の手習いですが、中々のものでしょう?こうして踏みつけるとあの女の歪んだ顔が思い出されて誠に愉快です。どうです?王子もやってみませんか?」
「私は良い。」
「左様ですか。それでは失礼致します。」
床に散らばったリリスの絵の上をわざわざ歩き、去っていった。
私は深く息を吐いて、それらを拾う。
リリスの姿絵を広まるだけで、彼女は王都で気軽に外出も出来なくなってしまったというのに、このような破廉恥な絵を広められてしまえば、どうなるだろう。
街を歩くだけで下賎な男達が彼女を襲ったりはしないだろうか。
懐中時計を持っていれば襲われる可能性は低くなるが、性欲の前に理性が働かない男もいる。
不安が尽きなかった。
「殿下、お手伝い致します。」
近くで見ていた衛兵が見かねて拾い上げるのを手伝ってくれる。
「礼を言う。」
受け取ると、
「本当に綺麗な人ですね。天使みたいです。」
と言われた。
彼女を誉められて悪い気はしない。
「そうであろう。きっと天界から落ちてきた天使なのだ。」
神が遣わされた私の天使。
透き通った柔らかい肌も金髪も、すぐに掠れてしまう鈴の音のような声も全てが愛おしかった。
猫耳を付けている絵がある。バルド伯爵の絵は非常に写実的だ。リリスを縮めて貼り付けたと言われても納得するかもしれない。
猫耳も大層に可愛らしい。しかし、彼女に似合うのは天使の翼だと思う。
「そなたのお陰で良いことを思い付いた。ありがとう。」
特注で翼を作りプレゼントしよう。
そして愛と豊穣の女神ラダの絵画を、彼女をモデルに描かせるのだ。
きっとこのバルド伯爵の下らない落書きよりも素晴らしい物が出来上がる。
きっと彼女は驚くだろう。
けれど喜んでくれる筈だ。
また一つ、彼女との楽しみが増えた。
2
お気に入りに追加
152
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる