金になるなら何でも売ってやるー元公爵令嬢、娼婦になって復讐しますー

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少年剣士

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ラダは暫くこの街に滞在することになった。

宿は私と同じ宿に泊まる。


冒険者をやってみたい、というので蒼蘭に連れて行けば、早速マスターに見付かった。


「あれ、踊り子ぴょんが可愛い女の子連れてる!」


茶化すように絡まれる。


「ラフィですわ。お姉様の妹ですの。よろしくお願いしますわ。」


ラダという名前はリリスと同様、娼婦としての名前で有名だ。

なので冒険者をするにあたり、偽名を名乗ることになった。


素性も私の妹とすることにする。肌の色が違うのは、母親が違うからということにした。ラダは出会った時と同じように顔の下半分を薄いヴェールで覆い耳も隠し、エルフ混ざりだと一見しては分からないようにしている。


「普段は本業の方を手伝わせているのですが、此方もやってみたいと駄々を捏ねられまして。暫くギルドでお世話になると思います。」


打ち合わせ通りに私は嘘を付く。


「踊り子ぴょんの妹だって!!!」


マスターはぴょんっと跳ぶと、ギルド職員達の方に駆けていって、妹妹と叫んだ後、受付をしているうちの一人に煩いと怒られて戻ってきた。

そんな様子にラダは若干引いていた。


「兎に角、歓迎するよ!」


ぴょんぴょんと跳び回るマスターを職員が引き摺っていく。嫌がるマスターに無理矢理依頼を押し付けてギルドの外に放り出した。


「踊り子ぴょんと妹ちゃん!まったねー!」


小さくなっていく声を聞きながら、苦笑いをする。


「悪い人ではないのですが。」


とラダに言えば、苦笑いでハハッと答えられた。


受付にいる職員に呼ばれて向かうと書類を渡される。


「ラフィさん、これを書いてください。字は書けますか?」


この国では女性は学校に行くことが少ない。その分字を書ける者も少なかった。

貴族は最低限の教育を受けているが一般市民はそうではない。

女に教育は必要ではないから家にいろと、学校にも行かせて貰えずに家の手伝いをさせられて年齢が結婚適齢期になれば望まぬ相手との結婚もさせられる。

そんな人生を送る女性の何と多いことか。


「簡単な文章なら読めるし書けますわ。」


ラダは娼婦の娘として生まれたらしく、その容姿や出自から高級娼婦になるべくして育てられた。

お客との手紙でのやり取りなど、コミュニケーションにも必須なので幼い頃から教育されて字は読めるし書ける。


「それでは此方を読んでいただきサインをお願いします。」


書類には、依頼失敗時の死亡や怪我について、ギルドでは責任を負わないこと、保障が欲しいのなら個人で保険に入ること、そしてギルドの承諾する依頼しか受けてはいけないこと、ギルドの信頼を意図的に失墜させた場合には損害賠償を請求される可能性があることなど、細かく書かれていた。

ラダはさっと読んでスラスラと綺麗な字でサインを書く。

そして保証人の欄には私の名前を書いておいた。


「こちらがEランク冒険者としての登録証です。身分証明としてもお使い頂けますのでご活用ください。」


登録証は小さな正方形の銅板のようなものだ。

真ん中に名前とランクが書かれている。


受け取ると、嬉しそうに閉まっていた。


「ラダ、私は自分の依頼に行きますので、貴女にはついていけませんが、一人で何とか出来ますか?」


そう言えば、


「一人だと不安ですので、どこかのパーティーで臨時の募集があれば良いのですが。」


と返される。


魔法使いは普通、一人では依頼を受けない。

普通は詠唱中に守ってくれる仲間が必要だからだ。


ギルド職員がパラパラと紙をめくる。

一つ、おすすめのパーティーがあるそうだ。


「紹介出来ますがどうしますか?」


「お願いしますわ。」


紹介の結果、中級攻撃魔法が使えるということで、新人だがCランクとDランクの冒険者が組むパーティーに臨時で入れて貰うことになったらしい。

魔法使いは少ないので基本どのパーティーも欲している。

魔法での殲滅力は、特に数を狩らなければいけない依頼で重宝される。

お試しに、と今日はDランクのゴブリンの討伐依頼に向かうそうだ。


もう大丈夫そうなので、私はいつものように一人でAランク以上Sランク以下の依頼の山を消費することにした。


ラダとは、また夜に合流することにして、取り敢えず依頼に目を通す。





今日の依頼はハイルウルフという、一匹でAランク相当の狼型の魔物の群れの依頼である。

ハイルウルフは普通群れで生活する魔物だが、どうやら群れの数が増えすぎているらしい。

最低20匹の討伐依頼と書かれていた。


流石にちょっときつくないだろうか。

ウルフ系の魔物はすばしっこいので、私との相性は余り良くない。

タンクになりそうな冒険者を一人くらい見繕うべきだろう。


と言っても、そう都合良く前衛が見付かるわけではない。

困っていると、職員が話し掛けてきた。


「踊り子さん、お困りですか~?」


何故かウサギ耳のカチューシャを付けた職員だ。ふざけた格好だと思うが仕事は出来るのでカチューシャについて突っ込んだことはない。


「この依頼を受けるのですが、良いタンクがいなくて。」


マスターは先程引き摺られて依頼に行ってしまったし、他の顔見知りも出払っているようだ。


「あら。確かにこの依頼はちょっと、魔法職の方一人ではきついですかね~。んー。最近他の街から移動してきて、Aランクになった剣士の方ならすぐに呼べますけどどうでしょうか~?」


取り敢えず紹介して貰うことにした。







淡い青の髪を肩くらいで切り揃えた、まだ子どもといっても良いくらいの少年を伴い、私は依頼に出掛けた。


彼の名前は聞いたような気がしたが、忘れた。


何だか平凡な名前で、聞いた時は覚えやすそうだと思ったのだが、忘れてしまった。


少年剣士ということにした。


「踊り子様、本当に僕なんかで大丈夫なのでしょうか?」


不安そうにこちらを覗いてくる。

中性的な可愛らしい顔立ちをしており、村の子ども達を思い出して少しな和んだ。


余り子どもは好きではないが、見ている分には可愛いとは思う。


関わるのが苦手なだけだ。


「ギルドのお墨付きを得ていますので大丈夫です。」


「そんな、僕なんか。」


彼は謙遜しているが私の前衛が出来る人間は少ない。腐ってもギルドが薦めてきた人間だ。悪い人選ではないのだろう。


おどおどとしている様子にも、隙はない。


魔法を封じられれば私程度では勝つことは出来ないと思う。


魔力探知で周囲を探れば、森の水場に魔物の群れが集まっているのを感じる。

魔力の大きさからいって、ハイルウルフの可能性が高い。


少年剣士にそう伝えると、緊張した面持ちで「分かりました」との返事がある。


男の割に丁寧で素直なのが好感が持てた。


流石ギルドが私と組ませるだけはある。


下手な者と組ませると私が怒ってギルドを抜けると思われているらしく、私がパーティーを臨時で組む必要がある時、比較的人間としてまともな人を紹介されることが多い。


キラキラと反射する水面が木の間から見えるようになると、魔物達もこちらを警戒しながら忍び寄ってくるのを感じた。


「身体強化、風属性付与、防御力上昇を掛けます。」


マスター相手ならこんな風に使う魔法をいちいち口にしなくても良いのだが、初めてパーティーを組む相手にはそうはいかない。


私が勝手に魔法を掛けて混乱を招いてしまうことは避けなければならなかった。


「来ます。」


「は、はい!」


少年剣士が片手剣と盾を構えた。

彼は純粋なタンクだが、普段固定でパーティーを組むことは殆どないらしい。


しかし、それでもAランクに上がれたということは、柔軟に対応出来る力があるということ。


単体での実力もギルドの折り紙付きだ。


一斉に飛び掛かってきた9頭の狼の群を、盾でいなす。

私の方に魔物が行かないように警戒をしつつ、一閃。風の属性付与をしているためだろう、物凄い風圧の掛かった刃が狼の頭を切り落とした。


「グルルッ!」


狼のうなり声が私の横からも聞こえてきた。

どうやら隠れていたのが出てきたらしい。

私は素早く魔法を展開させる。


「風刃!」


少年剣士に伝える意味で魔法の名前を言ってみた。

いきなり使うと巻き込む可能性がある。巻き込まれずにうまく避けたり、最悪当たっても平気な人間離れした身体を持っているのはマスターくらいだ。


少年は私の魔法の軌道からうまく外れてくれる。狼が三匹、魔法によって出現した風の刃に首を切られて倒れた。


「はっ!」


そのまま横にいたハイルウルフに一閃、倒してくれる。


魔法を使った私にヘイトが来ないように、上手く立ち回り戦場を管理してくれていた。


マスターは直感型で脳筋だが、剣士少年はどうやら以外と頭脳戦が好きなタイプらしい。

私としてもかなりやり易かった。


「一気に行きます!風刃!風駆!」


二つの魔法を同時に詠唱。風の刃が狼に迫る。追いかけるように風で出来た鬣を持つ馬が走り、狼に向かって行った。


少年剣士は盾で弾いていた狼を一匹屠ると、ステップして横に逃げる。


魔法によって最後の一匹が倒れると、ほっと一息吐いた。


あともう一群くらい倒さなければいけないが、一先ず周囲に気配は無いので、解体を先に済ませることにした。


「踊り子様は本当に凄いですね。」


マジックボックスを見て、驚いたように言った。


「覚えます?とっても便利ですよ。」


「僕は魔法は余り得意では無いので。」


魔力の流れが綺麗なので、どちらかと言えば得意な方かと思っていたが、苦手らしい。

まあ、冒険者はお互いのことを深く聞いても良いことなんてない。臨時のパーティーなら尚更だ。


「別の街で組んでいたパーティーに、魔法使いの男の人がいたんです。」


聞きたい訳ではなかったが話し始めてしまった。


「それで?」


仕方がないので話を聞くことにする。


「その人もマジックボックスは使えたのを思い出しました。...結構有名なパーティーだったんです。マックスマッハ号っていうふざけた名前のパーティーでしたが、皆強くて。僕なんか役立たずでした。」


ん?


今なんか聞いたことのある名前が聞こえた気がする。


マックスマッハ号。


話題の冒険者パーティーのうちの一人がまさかこんな所にいるなんて。


「どうして一人でアルムブルクに?ラクシャの方が何かと便利ですよね?」


「パーティーを追い出されたんです。魔法使いは貴族の次男坊で怪我を負わせるわけにはいきませんでした。だけどある依頼でどうしても後ろに敵が流れてしまって。前衛で役に立たない上にその....夜の方も断っていましたから。」


吹き出しそうになって咳き込む。

確かに少年剣士は可愛らしい顔立ちをしていた。


「女性のいないパーティーでしたのでしょうか?」


「いいえ。魔法使いの妹君と弓使いが一人、女性でした。その二人からのアプローチも断ってしまって、遂にパーティーから追い出されてしまいました。」


「容姿が良いのも考え物ですね。」


あはは、と苦笑いを浮かべているが、笑い事ではなかった。

冒険者でも、男でも、関係なく立場が弱ければ貞操の危機は訪れるものらしい。


初めて知った。


衝撃を受けた私は、その後のことは覚えていない。


気が付いたら30匹分の狼の遺体をアイテムボックスに入れてギルドに戻ってきていた。



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