27 / 27
過保護と言われまして③
しおりを挟む
微笑ましいものでも見たかのように、アリスの目つきがふんわりと緩む。自分が世話するはずの王妹殿下にまでそんな目で見つめられて、セレナは恥ずかしさのあまり頬を押さえた。
「ふふふ、セレナったら可愛い。――でもよかったあ。二人の仲が順調で。この前、私、余計なこと言っちゃったでしょう?」
「余計なこと?」
「お兄様に好きな人がいるんじゃないかって話。私が言ったことが原因で二人の関係がこじれたらどうしようって実は心配していたの」
確かにそれはありえた流れだろう。セレナはアリスの懸念を完全に払拭しておこうと口を開く。
「アリス様がご心配なさっているようなことはなにもございませんでした。むしろ、あのお話がきっかけで、エミリオ様と少し距離が縮まったと言えなくもないかもしれません」
「! まさか!」
アリスが口元に手を当ててたちまち瞳を輝かせる。
「お兄様の好きな人ってセレナだった!?」
「いえ、それはないのですけれど」
セレナが即座に否定すると、アリスはがっくりと肩を落とした。
「そんなに断言するほどなの……? 恋が叶わぬ相手というなら、セレナだって条件に当てはまるじゃない。クロードお兄様と婚約していたんだもの。可能性は少しもないの?」
問われてセレナは自分がエミリオの想い人である可能性を初めて現実的に考えてみた。もちろんそれが真実であったならこのうえなく嬉しいことだ。でも――
叶わぬ恋だけれど、気持ちをなくすことができない。
己の秘めたる慕情について、エミリオはアリスにそう語ったのだという。
それほどの想いを彼から向けられているという実感はない。妻として大切にされているという自覚はあるが、そのような切実な熱をエミリオから感じたことはなかったように思う。――いや、優しい彼ならば、気持ちを押し付けまいとして、そうと悟られぬように振る舞うということもありうるのではないか。だがそれを言うなら、報われぬ恋情を消し去ろうと努めしつつ、妻であるセレナに誠意を尽くすということも、彼は黙ってやってのけそうな気がするのだ……
「分かりません」
長い沈黙の末に、セレナはそう口にした。
「可能性がない……とは、言いきれないのですが」
アリスがどことなく前のめりになるのを感じて、セレナは一歩後ずさる。そして表情を隠すように顔の下半分を両手で覆った。
「その……全然、冷静に考えられそうにないのです。そうだったらいいのに、と思ってしまう自分の願望が大きすぎて……」
「まあ……」
ため息のような声を発したきり、アリスは黙り込んでしまう。もしかしたら驚いているのかもしれない。きっと今のセレナは、頬と言わず顔と言わず全身が真っ赤に染まっているに違いないから。
「もしかしてセレナって、エミリオお兄様のこと……」
考えるままに言葉にしてしまったのだろう、アリスがハッとして唇をつぐむ。それに明確に答えを返すにはまだ思い切りが足りなくて、セレナはくぐもった声のままに言った。
「少しでも期待してしまうと、そうではなかったときにきっと落ち込んでしまうと思うので……エミリオ様の想い人については、考えないようにしようと思います。今でも充分大切にしていただいていますので、それで満足しているのがいいと思うのです」
セレナがあまりにも余裕をなくしているせいだろうか、アリスはしばらく呆気にとられていたあと、慌てて力強く頷いた。
「――そ、そうね! セレナがそうしたいなら、それがいいと思うわ!」
「ふふふ、セレナったら可愛い。――でもよかったあ。二人の仲が順調で。この前、私、余計なこと言っちゃったでしょう?」
「余計なこと?」
「お兄様に好きな人がいるんじゃないかって話。私が言ったことが原因で二人の関係がこじれたらどうしようって実は心配していたの」
確かにそれはありえた流れだろう。セレナはアリスの懸念を完全に払拭しておこうと口を開く。
「アリス様がご心配なさっているようなことはなにもございませんでした。むしろ、あのお話がきっかけで、エミリオ様と少し距離が縮まったと言えなくもないかもしれません」
「! まさか!」
アリスが口元に手を当ててたちまち瞳を輝かせる。
「お兄様の好きな人ってセレナだった!?」
「いえ、それはないのですけれど」
セレナが即座に否定すると、アリスはがっくりと肩を落とした。
「そんなに断言するほどなの……? 恋が叶わぬ相手というなら、セレナだって条件に当てはまるじゃない。クロードお兄様と婚約していたんだもの。可能性は少しもないの?」
問われてセレナは自分がエミリオの想い人である可能性を初めて現実的に考えてみた。もちろんそれが真実であったならこのうえなく嬉しいことだ。でも――
叶わぬ恋だけれど、気持ちをなくすことができない。
己の秘めたる慕情について、エミリオはアリスにそう語ったのだという。
それほどの想いを彼から向けられているという実感はない。妻として大切にされているという自覚はあるが、そのような切実な熱をエミリオから感じたことはなかったように思う。――いや、優しい彼ならば、気持ちを押し付けまいとして、そうと悟られぬように振る舞うということもありうるのではないか。だがそれを言うなら、報われぬ恋情を消し去ろうと努めしつつ、妻であるセレナに誠意を尽くすということも、彼は黙ってやってのけそうな気がするのだ……
「分かりません」
長い沈黙の末に、セレナはそう口にした。
「可能性がない……とは、言いきれないのですが」
アリスがどことなく前のめりになるのを感じて、セレナは一歩後ずさる。そして表情を隠すように顔の下半分を両手で覆った。
「その……全然、冷静に考えられそうにないのです。そうだったらいいのに、と思ってしまう自分の願望が大きすぎて……」
「まあ……」
ため息のような声を発したきり、アリスは黙り込んでしまう。もしかしたら驚いているのかもしれない。きっと今のセレナは、頬と言わず顔と言わず全身が真っ赤に染まっているに違いないから。
「もしかしてセレナって、エミリオお兄様のこと……」
考えるままに言葉にしてしまったのだろう、アリスがハッとして唇をつぐむ。それに明確に答えを返すにはまだ思い切りが足りなくて、セレナはくぐもった声のままに言った。
「少しでも期待してしまうと、そうではなかったときにきっと落ち込んでしまうと思うので……エミリオ様の想い人については、考えないようにしようと思います。今でも充分大切にしていただいていますので、それで満足しているのがいいと思うのです」
セレナがあまりにも余裕をなくしているせいだろうか、アリスはしばらく呆気にとられていたあと、慌てて力強く頷いた。
「――そ、そうね! セレナがそうしたいなら、それがいいと思うわ!」
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
901
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
むつき紫乃先生ヘ
エミリオとセレナのイチャイチャ面白いです(*^^*)
更新楽しみです♡♡♡
季節の変わり目は体調崩しやすいので気を付けてくださいねm(_ _)m
これからも応援しています☆
感想ありがとうございます!
作品楽しんでいただけててとっても嬉しいです*ˊᵕˋ*
次の更新まで少しあいてしまいそうなのですが、必ず書きますので、しばらくお時間いただけると幸いです
感想いただけてとっても励みになりました୧( ⸝⸝ᵕᴗᵕ⸝⸝)୨
お気遣いもありがとうございます♡