自殺写真家

中釡 あゆむ

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最終章

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 星が瞬く。シルエットは暗闇に同化しているようで、輪郭は縁取られている。微塵も動かないそれは、まるで死者のようで、しかし確かに呼吸を繰り返していた。 


「修……」 


 要島修の後ろ姿に、秋が声をかけた。修が振り向く。表情は見えず、秋が彼に近付いた。 


「修……帰ろう。俺はお前が死にたいなら撮ってやる。だが、お前は今、死にたくないだろ」 


 秋の指摘に、修が肩を震わせ、俯いた。菊は考えていた。どうして彼がここにいるのかを、彼は今までどこにいたのだろう。それをきっと知る権利もないのだろうが、聞きたかった。 


「うん……そうだよ。死にたくない……でも、死ななきゃ。ここに帰ってくる時、見たんだ。亡霊を……僕が、見届けた亡霊を……」 


 修は夕方に砂丘から離れようとした。夕焼けが赤く、砂が透き通った赤をしていた。地殻が見えそうだ、とジッと砂を見つめ、ふと顔を上げた時、夕焼けが作り出した人の形をしたなにかが修の周りを囲んでいた。 
 彼も、彼女も、なにも言わなかった。真っ赤な服を着て、真っ赤な髪をして、真っ赤な肌をして、ガラスに映った人影のように向こうが透けて見えた。唯一真っ赤な瞳だけが湿って揺れていた。そこだけが感情を持っていた。光を持たない。絶望的な、修を見つめているようで、虚空を見つめた瞳。それが修の心の奥へ手を伸ばされているように感じられた。 


 捕まえられそうだった。責めているんだ、と思った。生きることを許されていない。だって死を見届けてしまったのだから。 


 その場から修は転ぶように走った。バスに乗っている時も、新幹線に乗っている時も、みんなのあの血に塗られた瞳が忘れられなかった。怖くて身を縮めた。自身を必死に抱きしめ、自我を保ち続けた。 


 ここにたどり着き、幾分落ち着いた。それでも死ななければいけないと使命感に駆られる。 


 不意に、菊が走り出す。修目掛けて走り出し、しかし、修の横を通過した。 
 視界には星空が開けた。きらきらと眩く、太陽さながらそれらは光り、菊は目を瞑った。 


 修は咄嗟のことに声を発し、手を伸ばす。暗闇に伸ばされた手は、菊の手を確かに掴んでいた。 


「あ、あんた……何してんの……」 


 菊の下は暗闇が口を開けている。恐怖のせいで手を離してしまいそうだけれど、接着剤でくっ付けたように二人の手は離れない。菊の手は温かった。菊の瞳は、光を吸収して輝いている。そんな彼女が微笑む。 


「君を助ける方法なんて、これしか浮かばなかったから」 


 目を見開いた。勇気に満ちた表情で、逞しく笑う。修は泣きそうになってしまう。駆けつけた秋がすぐに手助けしてくれ、菊は引き上げられた。 
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