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最終章
二
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「ちょ、ちょっと待ってよ、僕、これから人に会わなきゃいけないんだ」
「そうなのか? それは残念だ、なら帰ってきた時にしよう」
父は気難しい顔を崩さないまま言った。やっぱり意味がわからずに混乱する。見かねた母が、父の言葉を付け足す。
「あのね、私たち、昔から仕事ばかりであなたのこと見てあげられなかったでしょう。それで、あなたとの距離の掴み方がわからなくなって……でももうすぐであなたも二十歳だから、これを機にお互い距離を縮められたらって思ったの」
いつも疲弊しきった顔をしていた母が、今は嬉しそうに微笑む。この家を出ればもう戻ってこないつもりでいる修は、息を飲んだ。両親は今までにないくらい、優しい瞳をしていた。
修は俯く。何だって、今更。最後まで見てくれなかったら良かったのに。思わず笑みが零れていた。零れてしまったことに気付き、慌てて筋肉を引き締める。
「い、行ってくる!」
慌てて修は家を出た。出る直前まで彼らは微笑んでくれていた。それが、嬉しい、と感じる。気付いたら足が動き出していた。
夜道をひたすら走った。走れば走るほど気は先走った。頭では無事二十歳を迎えた自分が、両親と遊ぶ映像が浮かんでいた。
目を開ける。日が明け、幾分落ち着いたが今もその映像は消えやしなかった。いつか父が言っていた。生きていればあらゆることに出会えると。
あのホームレスが言っていた。一番大切なことは、生きていることだと。
佐々中菊が言おうとしていたことを思い出す。あの後に続く言葉は、きっと僕が諦めことだ。
「ああ。そうさ、僕は誰よりもみんなを救いたい……」
でも僕じゃ駄目だから。もう認めざるを得なかった。絞り出す声で吐き出した言葉は、修が自身で抑えつけていたことによって錆びれていた。けれどまだまだ魅力を感じる言葉で、生唾を飲み込む。
立ち上がって、人々の間を縫って歩いた。行く宛はなかった。行く宛はないが、行ってみたいと思っていた場所はある。
それだけのお金はあったし、あそこならきっと誰も来ないだろうと考えた。そこが死に場所になるかどうかはわからないが、とりあえず行くことにし、駅へ向かった。
「そうなのか? それは残念だ、なら帰ってきた時にしよう」
父は気難しい顔を崩さないまま言った。やっぱり意味がわからずに混乱する。見かねた母が、父の言葉を付け足す。
「あのね、私たち、昔から仕事ばかりであなたのこと見てあげられなかったでしょう。それで、あなたとの距離の掴み方がわからなくなって……でももうすぐであなたも二十歳だから、これを機にお互い距離を縮められたらって思ったの」
いつも疲弊しきった顔をしていた母が、今は嬉しそうに微笑む。この家を出ればもう戻ってこないつもりでいる修は、息を飲んだ。両親は今までにないくらい、優しい瞳をしていた。
修は俯く。何だって、今更。最後まで見てくれなかったら良かったのに。思わず笑みが零れていた。零れてしまったことに気付き、慌てて筋肉を引き締める。
「い、行ってくる!」
慌てて修は家を出た。出る直前まで彼らは微笑んでくれていた。それが、嬉しい、と感じる。気付いたら足が動き出していた。
夜道をひたすら走った。走れば走るほど気は先走った。頭では無事二十歳を迎えた自分が、両親と遊ぶ映像が浮かんでいた。
目を開ける。日が明け、幾分落ち着いたが今もその映像は消えやしなかった。いつか父が言っていた。生きていればあらゆることに出会えると。
あのホームレスが言っていた。一番大切なことは、生きていることだと。
佐々中菊が言おうとしていたことを思い出す。あの後に続く言葉は、きっと僕が諦めことだ。
「ああ。そうさ、僕は誰よりもみんなを救いたい……」
でも僕じゃ駄目だから。もう認めざるを得なかった。絞り出す声で吐き出した言葉は、修が自身で抑えつけていたことによって錆びれていた。けれどまだまだ魅力を感じる言葉で、生唾を飲み込む。
立ち上がって、人々の間を縫って歩いた。行く宛はなかった。行く宛はないが、行ってみたいと思っていた場所はある。
それだけのお金はあったし、あそこならきっと誰も来ないだろうと考えた。そこが死に場所になるかどうかはわからないが、とりあえず行くことにし、駅へ向かった。
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