魂選塔

中釡 あゆむ

文字の大きさ
上 下
242 / 246
選択の時

しおりを挟む
「感情を、失いたくなかったから。人を傷つけたときの痛み、傷つけられた痛み、悲しさ、苦しさを忘れたくなかったから。ねえ、ミルビー。あの世にあなたの思い出も、感情もあるんだよ。ここにはない。いいように言ってるけど、苦しさもあると思う。探そうよ、集めようよ。あなたのするべきことは思い出して、罪を償うことなんだよ」
 

私は彼の両腕を掴み、訴えかけた。うるさい、とユキナリが悪態をついてくる。


ミルビー。呼びかけると、困ったように眉を下げて目をつぶった。私は彼の答えを待つ。綺麗な顔立ちをしていた。人なんて殺せそうにないこの顔。どうして彼は忘れてしまったんだろう。それさえも分からないのだ。


ミルビーは、やがて、目を開けた。


「君の言う通りだ。……ボクには思い出も感情もないから、罪なんか感じない。それを全部思い出せたとき……ボクがどんな風になるのか、知りたい」


ミルビーの答えに、私は安堵して頷いた。彼の手を引いて、私たちはチルギと向かい合う。


「ボクたちを生き返らせてください」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『オークヘイヴンの収穫祭』

takehiro_music
ホラー
人類学者エレノア・ミッチェルは、遠隔地の町オークヘイヴンに赴く。そこでは、古代から続く収穫祭が行われていたが、その祭りにはただの風習を超えた、何か得体の知れない力が潜んでいた。町に刻まれた奇妙なシンボル、住民たちの謎めいた言動、そして夜ごと響く不可解な声――エレノアが真実を探るうちに、現実そのものが歪み始める。 この町の収穫祭は、何世代にもわたり受け継がれてきた「儀式」の一部に過ぎないのか? それとも、人知を超えた力が世界のあり方を書き換えようとしているのか? 禁断の書物、隠された言語、そして儀式に秘められた意味を解き明かすうちに、エレノアは恐るべき選択を迫られることになる。 変容と犠牲、言語と現実の交錯する恐怖の中で、人間の理解を超えた真実が明らかになる――。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

都市伝説ガ ウマレマシタ

鞠目
ホラー
「ねえ、パトロール男って知ってる?」  夜の8時以降、スマホを見ながら歩いていると後ろから「歩きスマホは危ないよ」と声をかけられる。でも、不思議なことに振り向いても誰もいない。  声を無視してスマホを見ていると赤信号の横断歩道で後ろから誰かに突き飛ばされるという都市伝説、『パトロール男』。  どこにでもあるような都市伝説かと思われたが、その話を聞いた人の周りでは不可解な事件が後を絶たない……  これは新たな都市伝説が生まれる過程のお話。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

【完結】女神は推考する

仲 奈華 (nakanaka)
歴史・時代
父や夫、兄弟を相次いで失った太后は途方にくれた。 直系の男子が相次いて死亡し、残っているのは幼い皇子か血筋が遠いものしかいない。 強欲な叔父から持ち掛けられたのは、女である私が即位するというものだった。 まだ幼い息子を想い決心する。子孫の為、夫の為、家の為私の役目を果たさなければならない。 今までは子供を産む事が役割だった。だけど、これからは亡き夫に変わり、残された私が守る必要がある。 これは、大王となる私の守る為の物語。 額田部姫(ヌカタベヒメ) 主人公。母が蘇我一族。皇女。 穴穂部皇子(アナホベノミコ) 主人公の従弟。 他田皇子(オサダノオオジ) 皇太子。主人公より16歳年上。後の大王。 広姫(ヒロヒメ) 他田皇子の正妻。他田皇子との間に3人の子供がいる。 彦人皇子(ヒコヒトノミコ) 他田大王と広姫の嫡子。 大兄皇子(オオエノミコ) 主人公の同母兄。 厩戸皇子(ウマヤドノミコ) 大兄皇子の嫡子。主人公の甥。 ※飛鳥時代、推古天皇が主人公の小説です。 ※歴史的に年齢が分かっていない人物については、推定年齢を記載しています。※異母兄弟についての明記をさけ、母方の親類表記にしています。 ※名前については、できるだけ本名を記載するようにしています。(馴染みが無い呼び方かもしれません。) ※史実や事実と異なる表現があります。 ※主人公が大王になった後の話を、第2部として追加する可能性があります。その時は完結→連載へ設定変更いたします。  

怪・家

coco
ホラー
郊外にある一軒家。 そこは、なぜか人の出入りが激しい。 そこで何が起きているのだろう? …それは住んだ者にしか分からない。 おかしいのは家か、住人か、その両方か。 その家で起きた、ある恐ろしい出来事とは-?

怪異語り 〜世にも奇妙で怖い話〜

ズマ@怪異語り
ホラー
五分で読める、1話完結のホラー短編・怪談集! 信じようと信じまいと、誰かがどこかで体験した怪異。

処理中です...