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思い出が重なる
六
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カツギは子どもみたいなあどけない目をして、私の言葉に目を丸くした。生と死を選択させ、その辛さを見てきた厳しい神の側近ではなく、人間だった頃のカツギが垣間見える。ただ無邪気に生きていた時代の、彼女が。
誰かが自分に対してなにかを思っていたら忘れないのではないか、と私はムージを見た時に考えた。それが合っていることに確証もあった。ヒロタ自身が言ったのだ、あの部屋を見せて思い出させていたと。
きっとそれにも限度があったのだ。同じものしかなかったから。けれど私は今さっき、ムージから新しい思い出を聞いた。私が聞かせれば、それは彼女の思い出として蘇るはずだ。
「ちゃんと聞いて! ムージとあなたはよく親に家を追い出されていた」
「家を……」
さっきの威厳をなくした彼女はまるで少女みたいに復唱した。私は頷いて、続けてみた。
誰かが自分に対してなにかを思っていたら忘れないのではないか、と私はムージを見た時に考えた。それが合っていることに確証もあった。ヒロタ自身が言ったのだ、あの部屋を見せて思い出させていたと。
きっとそれにも限度があったのだ。同じものしかなかったから。けれど私は今さっき、ムージから新しい思い出を聞いた。私が聞かせれば、それは彼女の思い出として蘇るはずだ。
「ちゃんと聞いて! ムージとあなたはよく親に家を追い出されていた」
「家を……」
さっきの威厳をなくした彼女はまるで少女みたいに復唱した。私は頷いて、続けてみた。
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