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自分のために
八
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ボクは包丁を消し、手を合わせて目をつぶった。心がザワつく。さっきから、妙に嫌なことを考えてしまう。
目蓋の裏に張り付いた緑色の膜はボクの目をこじ開けさせ、視界の外へ張っていって破裂する。両腕を広げ、着地した。
「あら、こっちも駄目か。今回は駄目な人が多いな」
似たような店員が近付いてきて、感心したように言い残してまたレジへ戻っていく。その場を後にした。
歩いているとそこら辺から悲痛な叫び声が聞こえてくる。生きたくない死にたいという言葉が聞こえると顔をしかめてしまう。
ハルトという男を見つけたとき、なにか懐かしいものを感じた。ところが思い出から出てきた彼は酷くやつれた顔をしていて、ボクは彼の思い出を買うことにし、確かめるためにその中へ入り込んだ。
そこにボクの感じた懐かしい彼はいなかった。暴力にひれ伏し、生きることを諦め、自分さえも蔑んだ人間がいた。潰したい、そんな彼を見て思ってしまう。そんなことはしたくない、と頭を振り、ボクは生前していたように、生きられるか、死にたいか、を問いかけた。
ここの塔の目的は分からない。本当に生き返らせるつもりなのか、否か。
どちらにしても、だったら、それを利用してやろうと考えた。そんなに生き返りたくないならボクが消してやる。生き返らなくていい。ボクは良いことをし、彼らは幸福に消えていく。
一方でボクを殺した魂も探さなくてはならなかった。
目蓋の裏に張り付いた緑色の膜はボクの目をこじ開けさせ、視界の外へ張っていって破裂する。両腕を広げ、着地した。
「あら、こっちも駄目か。今回は駄目な人が多いな」
似たような店員が近付いてきて、感心したように言い残してまたレジへ戻っていく。その場を後にした。
歩いているとそこら辺から悲痛な叫び声が聞こえてくる。生きたくない死にたいという言葉が聞こえると顔をしかめてしまう。
ハルトという男を見つけたとき、なにか懐かしいものを感じた。ところが思い出から出てきた彼は酷くやつれた顔をしていて、ボクは彼の思い出を買うことにし、確かめるためにその中へ入り込んだ。
そこにボクの感じた懐かしい彼はいなかった。暴力にひれ伏し、生きることを諦め、自分さえも蔑んだ人間がいた。潰したい、そんな彼を見て思ってしまう。そんなことはしたくない、と頭を振り、ボクは生前していたように、生きられるか、死にたいか、を問いかけた。
ここの塔の目的は分からない。本当に生き返らせるつもりなのか、否か。
どちらにしても、だったら、それを利用してやろうと考えた。そんなに生き返りたくないならボクが消してやる。生き返らなくていい。ボクは良いことをし、彼らは幸福に消えていく。
一方でボクを殺した魂も探さなくてはならなかった。
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