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自分のために
五
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マサミは目を見開き、母の顔を凝視した。細かった目からはとめどなく涙が零れ、やがて、掴まれていない方の腕で自分の顔を隠した。
「どうしてそんなこと言うの? エリーは、エリーだけは、仕事が遅い私をいつも待ってくれていたのよ……いつも慰めてくれて、エリーがいてくれたから私は帰ることが出来たのに、どうして……! お母さんに私の気持ちなんか!」
彼女は母を突き飛ばし、部屋から飛び出した。
「政美!」
母がその後を追いかけるも立ち止まった音が聞こえ、窓の外を見ると走っていくマサミだけが見えた。
ボクはベランダから飛んで彼女を追いかけた。車が走り抜け、自転車が横を通っていき、恋人たちが笑いながら歩いている。ついに彼女はその人たちにぶつかり、尻餅をついてしまうがまたもや走り出す。
痛かったのか今度は大声を上げて走っていた。道行く人が彼女へ注目をしているが追いかける。
痛いだろう。悲しいだろう、悔しいだろう。その全てが彼女の思い出だ。今度はボクが人にぶつかるが彼女の思い出に入り込んだイレギュラーであるボクに痛みはなく、構わず追いかけ続けた。
「どうしてそんなこと言うの? エリーは、エリーだけは、仕事が遅い私をいつも待ってくれていたのよ……いつも慰めてくれて、エリーがいてくれたから私は帰ることが出来たのに、どうして……! お母さんに私の気持ちなんか!」
彼女は母を突き飛ばし、部屋から飛び出した。
「政美!」
母がその後を追いかけるも立ち止まった音が聞こえ、窓の外を見ると走っていくマサミだけが見えた。
ボクはベランダから飛んで彼女を追いかけた。車が走り抜け、自転車が横を通っていき、恋人たちが笑いながら歩いている。ついに彼女はその人たちにぶつかり、尻餅をついてしまうがまたもや走り出す。
痛かったのか今度は大声を上げて走っていた。道行く人が彼女へ注目をしているが追いかける。
痛いだろう。悲しいだろう、悔しいだろう。その全てが彼女の思い出だ。今度はボクが人にぶつかるが彼女の思い出に入り込んだイレギュラーであるボクに痛みはなく、構わず追いかけ続けた。
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