魂選塔

自分のために

四

ついに彼女は顔を伏せ、声を上げて泣き始めた。この人も駄目だな。ボクは肩を竦め、色が彼女の見ている方向に吸収され、また違う色を広げ、形を作っていくのを眺める。


小さな部屋だった。キャットタワーが部屋の隅にあり、漫画が詰まった本棚、丸いテーブルにベッド。そこに彼女は顔を伏せ、泣いていた。


「エリー……エリー……」


握られた携帯電話には猫の写真が収められている。ああ、死んだのか。ボクはキャットタワーに向かって手を合わせ、足音が近付いてきて慌てて本棚の横に身体を縮こまらせた。


「政美、いつまでそうしてるの？　早く仕事に行きなさい」


彼女はマサミというらしい。マサミは開かれた扉にいる母に涙顔で、無理よ、と訴えた。母は部屋に入ってきてマサミの腕を掴み、その拍子に携帯電話がベッドに落ちてしまう。


「何が無理よ、生きているものはみんな死ぬわ。猫が死んだくらいで仕事を休むなんて、笑われるわよ！」